公園のシデザクラが咲いた。さらに上の大きな木の花も開いたのではないだろうか、楽しみだと思いながら数日経ってしまった。そして先日見つけたハナイカダの蕾も開いたのではないだろうか、今日はしっかり見てこようと話しながら公園から歩き出す。
日曜だからか、公園が開くのを待つように車が多い。管理棟の前で仕事をしている西澤さんに挨拶すると、今日は野鳥の会やボーイスカウトの催しがあるそうだ。
邪魔になってはいけない、まだ会の活動が始まる前に上へ行こうと早足で進む。楽しみにしてきたハナイカダは一つの葉にたくさんの蕾がついて五分咲きというところか。雄花ばかりで、近くを探したが雌花が見つけられなかった。雌花が咲くのはもうちょっと後なのだろうか。
ベニバナイチヤクソウの開花も期待してきたが、まだ蕾は硬い。さらに上へ向かっていると、イケさんが後から登っていると連絡が入った。粘菌を探したり、蕾の膨らみ具合を見たりしながらパワーポイントに出ると、後ろからイケさんがやってきた。
イケさんとは年代が違うけれど、目を向けるものが同じで、興味を持って調べることも似ているから、話が合う。隣で歩いていても目を引かれるものが同じだ。見つけたものについて、調べたことについて、具体的な話で会話が弾む。裏山の主とみんなに慕われているのは人柄か。
イケさんと合流して、まずは山頂を踏む。ここから見える飯縄山、黒姫山、そして妙高山の立派な姿を眺め、一息入れて次へ向かう。 アカイタヤの巨木を見に行こう。途中のウワミズザクラやウリハダカエデの花も森を彩っている。ウワミズザクラはまだ蕾が小さな丸だ。ウリハダカエデは開き切った花の数珠を風にそよがせている。ウリカエデはすでに花が終わり、結実期に入ったので、小さな翼ができてきている。キブシも緑の膨らみが揺れていて、これからその実が大きくなっていくのだと教えてくれる。山は動いていると感じる。
稜線を歩いていてふと足を止める。急な斜面のなかほどにコシアブラの緑が見えると、イケさんはザザッと身軽に降りて行って若芽を採ってくる。見つけても、芽吹きが少ない木からは採らない。山の幸は山の恵み、命を次へ繋げてこそいただける。ナルコユリもアマドコロも美味しいと話しながら、今日は細い芽しか見つからない。細い芽は採らない。ようやく数本立ち上がっているナルコユリの中に一本太いのを見つけたので、味見用にいただいて帰ることにする。
帰り道でオケラも収穫し、近くにあったワラビと合わせて、少しずつ夕食の楽しみが増えて、帰り道は足取りも軽い。
そして、楽しみにしていたシデザクラの大きな木に向かう。見えてきた、「あ・・・」。
ひと声あげた後はみんなで声をなくす。空を染めて真っ白に開いている。この前見た時は蕾だったのに、今日は一斉に全ての花が開いたようだ。
私たちも声を飲んで見上げ、その後は一斉に話し出す。「すごいねぇ」「いや、まいったな」「一気に全部の蕾が開いたみたい」・・・勝手なことを言い合いながら首が痛くなるまで見ていた。毎年見守ってきたイケさん曰く「今までで一番綺麗に咲いた」。
午前中に神奈川に住む友人から荷物が届いた。長野には自生しないアシタバの葉を送ってくれたのだ。山菜やキノコにとても詳しいイケさんも本でしか見たことがないと言っていたので、早速連絡、みんなでアシタバを囲んで山菜談義。
午後になって、急に裏山の蕾たちがどうなったか見たくなり、一人で出かける。時間が遅めだったので、夫が公園まで車で送ってくれる。楽ちん登山だ。
サルトリイバラの花がこぼれそうなほど咲いている道から藪の中を登っていく。ベニバナイチヤクソウがようやく開いてきた。フデリンドウはもう少しかな。ナツグミが満開、今年は実にも期待できそうだ。
山頂では足を止めず、そのまま道を進む。ウリハダカエデ、ハナイカダは目立たないけれど、そっと花開いている。蕾だったウワミズザクラが真っ白に開いて風に揺れている。ホオノキ、トチノキ、ミズキなど蕾がずいぶん膨らんで楽しみだ。三者三様、花の姿はずいぶん違うのだけれど、みんな高い木の上に広がった葉の中央から花穂を持ち上げている。
ニオイタチツボスミレを見つけてその香りを楽しむ。粘菌を探したり、花を見たりウロウロしながら歩いていたら、公園の閉園時間にやっと間に合う時間になっていた。
閉門の仕事でやってきた西澤さんに「セーフ!」と笑われながら、家に向かった。
朝一番の用を済ませて、ちょっと遅めの出発だけれど、山を歩きたくてうずうずしていた夫に引っ張られて山履を履く。
ほんの数日の違いなのに、花々が開いていく。粘菌も出てきたかも知れない・・・というのが夫の目的。遅めに出たので、旧道を一気に登り、その後ゆっくり回ろうと話しながらいく。桝形城跡の登山口で、これから城跡に向かうというイケさんに会う。イケさんはカバンの中から何か取り出す。ゼンマイだ。「花を見ていたら、その奥にちょこちょことあったから採ってきた」そうだ。干したゼンマイはもちろん食べたことはあるけれど、生粋の山採りは初めてだ。以前友人から下処理がしてあるものをいただいて調理したことがある。だが、地面から顔を出した時にこんなに毛むくじゃらとは知らなかった。この毛で釣りの疑似バリを作ることを教えてもらった。しばらく話し、ゼンマイをいただいて、桝形へ向かうイケさんと分かれた。
私たちは前方後円墳から旗立岩を越え、山頂へ向かう。途中フデリンドウの開き具合も見よう。ほころんでいるがもう一息だね。ジンヨウイチヤクソウの蕾はまだ硬い。あちらこちらを見ていたら、足元の低いところにツクバネウツギが開いていた。早いね。
山頂の陽だまりでのんびりおやつを食べる。歩いている時は数人に出会ったが、山頂でゆっくりするのは私たちだけだ。「昼寝したいくらいポカポカ陽気だね」などと言いながら、おろした腰が上がらない。まぁいいか、山でのんびりできるのは素敵なことだ。遠くの山に出かけて時間の制約がある時などはあまりゆっくりできなくて悔しい思いをすることもある。裏山ならではのゴールデンタイムだ。
しばらく山頂でのんびり過ごし、ゆっくり降りてきた。
地附山公園から見上げる山は緑に染まり、すっくと伸びたポプラの若葉が風に揺れていた。