「シデザクラが咲いたよ」、イケさんから連絡が入った。私が昨年見逃して悔しい思いをし、「今年こそは見たい」と言っていたので連絡してくれたのだ。 野暮用が重なって数日経ったが、花はこれからだから大丈夫だろう。
シデザクラはバラ科ザイフリボクの別名、花びらが細いので、采配に見立てられたらしい。真っ白い花びらが細く、風に揺れている様はどこか儚げで目を惹かれる。
昨日の雨にぬれて俯いている花にまた後でと呟いて山道へ入っていく。森はカエデの新芽が光っていて美しい。カスミザクラが空に広がっている。途中、ハリギリの新芽が開いていたので、下のまだ若い芽を少しいただいて行く。
山菜は美味しいけれど、全ての芽をとってしまったら木が育たない。山の知識を持っていただいてこなくては。そしてもちろん毒を持つものも多いから間違えないようにしないと大変なことになる。私たちは早春の山に入ってフキノトウやコゴミを摘んでくることは多いけれど、木の芽はわからないのでこれまで採ったことはなかった。山へ入る回数が増えて、少しだけ山の恵みをいただくことも増えてきた。
ハリギリの芽を袋に入れて、先へ進む。ベニバナイチヤクソウの花が開いたか見ようと話しながら行くと、向こうからイケさんが歩いてきた。「まだ花は開いていないね」、同じことを考えている。
教えてもらったシデザクラを見てきたと話す。みんなでもう少し上の木を見に行こう。歩き始めると、道端に茶色のキノコがあった。すぐ見つけたのはイケさん、「これは・・・エセオリミキだ」。「ずいぶん変わった名前だね」と言うと、「調べてみな、一応食べられるんだよ」と、イケさん。オリミキ(折幹)というのはナラタケのことで、ナラタケと見まがうという意味の名前だそうだ。柄は食べられないけれど、薄い傘のところは食べられるというので少しいただいて帰ることにする。
山の上のシデザクラはまだ蕾だった。見るたびに少しずつ膨らんで楽しみもふくらむ。
今日は霞んで遠望がきかないけれど、森の木々の芽吹きが美しい。イケさんは森の中のコシアブラの木を指差して教えてくれる。山菜の中では最も人気の一つだ。藪の中に入って行って採ってきてくれた。今日の夕食は山菜とキノコで最高だ。
山頂で少し休み、旧道の先にある楓の大木を見にいくというイケさんについていくことにした。旧道沿いにもいろいろな樹木が枝を張り、その芽吹きを楽しむことができる。もう咲ききって落花しているもの、これから咲き出そうと蕾が膨らんでいるもの、森の中は賑やかだ。
しばらく歩いて行った先に大きな木が見えてきた。空一面に黄色い枝を広げている。黄色く見えるのは花、枝先にたくさんぶら下がっている。足元を見ると、いくつかの落花を見つけることができたが、雨と風に飛ばされて萎んでいる。
「あれが何というカエデか調べたい」と、イケさん。見上げると首が痛くなるような高いところに、ようやく新しい葉が開き始めている。葉の色や形を見ることができれば名前がわかるそうだ。イタヤカエデに似ているけれど、その仲間も数種類あるそうで、その違いを見極めたいらしい。首が痛いと言いながらみんなでカメラを向ける。撮った画像を見せ合いながらあれこれ・・・楽しいひとときだ。
アカイタヤは葉の形が独特で、オニイタヤはイタヤカエデと同じような形らしいが、まだ葉が開ききっていないので分かりにくい。葉柄が赤いので、これはイタヤカエデではなさそうだ。家に帰ってじっくり見たら、なんだか葉の形が2種類あるような気がしてきた。高いところの枝と低いところの枝が違う木のような・・・、また行ってみなくては。
帰り道は木の芽や花を見ながらのおしゃべりタイムを楽しみながらのんびり歩く。
アケビの花が目立つようになってきた。薄いピンクのアケビは5枚の葉、濃い紫の花をぶら下げているのは葉が3枚のミツバアケビ、そしていつか見てみたい5枚の葉に濃い紫の花が咲くというゴヨウアケビ。山の魅力は奥深い。
夕食には2種の山菜おひたしと、キノコの味噌汁。うまいと舌鼓を打ったのは言うまでもないか。