春爛漫の空気、桜がどんどん開いている。大峰山の山頂に咲くミスミソウはいつも3月末から4月当初に開き始めたのに、今年はもう随分開いたよと山の友人が言っていた。春の粘菌探しもしたいところだし、ミスミソウを見に行ってこよう。
大峰沢に向かって歩き出す。畑の脇を登っていくと長野西高校のグランドから元気な声が聞こえてくる。春休み中でも部活動は行っているのだろう。ここ数年はコロナ感染症が猛威を振るっていて、部活動の声も聞こえない時が多かった。私は運動部の大きな声が好きというわけではないけれど、様々な活動が自由にできるのはいいなぁと思った。
歌ヶ丘から山道に入っていく。日の光を集めるようにシュンランが咲いている。所々に葉がほとんどない株もあるが、これは冬の間に鹿に食べられてしまったのだろうか。冬の蕾がまだ出ない時に、葉っぱだけ食べられたのかもしれない。健気に花が咲いている。
この季節、足元には秋に積もった落ち葉がいっぱい重なっていて緑は少ないが、見上げると木々の花が咲いている。ミヤマウグイスカグラはピンクの花を咲かせ始め、ダンコウバイは黄色い花がそろそろ終わりになる。目立たないヤシャブシや、キブシの花なども枝からぶら下がっている。
また、オオバクロモジの香りが嬉しい。濃い緑に黒をまじえたような幹に小さな蕾が可愛らしいが、やはりこの木はなんといっても芳香が素晴らしい。疲れた時にその香りを嗅いで元気をもらうことも多い。
私たちは時々道を逸れて、藪の中を歩く。これから草花が伸びてくると、おいそれと藪の中へは入れない、今がチャンスなのだ。それでも時々、ノイバラやモミジイチゴのトゲに刺されるから油断はできない。ヤマウルシも多いから気をつけながら歩く。
こうして立木につかまりながら登って、倒木の裏をのぞく。だが、なかなか目当ての粘菌は見つからない。
時々ハッとするような美しい緑の芽吹きがある。春一番の美しい若緑はフキノトウとこのサジガンクビソウの芽吹きだろう。サジガンクビソウの新芽は色鮮やかで、まだ茶色一色の森の地面に柔らかく開いている葉に目を引かれる。花は地味だけれど、新芽は存在感がある。
昨年に活躍した粘菌の、胞子を飛ばして役目が終わった姿はいくつか見たが、新しく活動し始めたものは見つけられないまま山頂に出た。四阿でおやつを食べながら休憩しよう。ダンコウバイはもう花の終わりだが、ツノハシバミはこれからだ。山頂の『チョウの博物館』が営業していた頃には賑わっただろう駐車場も、今は荒れて鳥の囀りだけが聞こえている。
しばらく休んでからミスミソウに会いに行く。今年はもう終わりか、花は開き切っている。まだ3月というのに。株が減ったような気がするのは気のせいだろうか。夫が、穴を見つけた。誰かが掘っていったのかもしれない。ここにあってこそ・・・の野の花なのに、残念だ。
そっと咲くコシノカンアオイを見に行くが、今年はこの花も少ないようだ。花を見ながらうろうろしていると、木の影にとても小さな花が光っている。細い葉の中から花穂を持ち上げている姿は小さな花火みたいだ。家に帰って調べたらハナビゼキショウと言うらしい、まさしくと頷ける名前だ。
これから咲き出すだろうトキワイカリソウの葉が明るい緑色になってきた。今年の新芽が開いてきたのだろう、楽しみだ。斜面にはエンレイソウも丸めた葉を出している。
帰り道、昨年粘菌が活躍していた木の影を覗いてみると、ヌカホコリの子実体がたくさん顔を出していた。粘菌も活動開始していたのだ。
粘菌に会えたので足が軽い。ふと見るともうショウジョウバカマも開いている。やっぱり春は急いでいるようだ。
物見岩まで降りてくると、イカリソウが斜めの日を浴びて輝いている。「もう?」と言いながら周辺を見ると、たくさん蕾をぶら下げている。気の早いのが数本花を咲かせているようだ。
スミレも数種類咲いている。名前がわからないものが多い。春に会った時こそ特徴を見つけないと、また1年後になってしまう。花色、葉の形、距の色や形、毛のあるなし・・・だがいつの間にか、ただただスミレにみとれてしまっていた。