午前中は用があった。お昼を食べながら外を見る。ポカポカ陽気だ、花を見に行きたいね。午後のひとときゆっくり歩いてカタクリを見に行こう、話はすぐまとまった。
我が家から40分ほど歩くと裾花川流域、旭山の麓にカタクリ群生地がある。年々咲く時期が早まって、もう満開らしいと聞いた。
里島発電所の脇から山道(里島自然探勝道)に入っていくと、数人の男女とすれ違う。カタクリは人気だ。群生地の上には淡い黄色のヴェールがかぶっている。アブラチャンの花も満開だ。まばらな雑木の下に赤紫の広がりが斜面を登っている。カタクリ、もう満開だ。 近づいていくと石垣に緑の玉をつけた苔が見える。ここへくるたびに楽しみに見てきたが、年々少なくなっていくようで寂しい。近くにはアオイスミレも咲きだした。早春に咲く背の低い、花びらが波打っているスミレだ。
ここ旭山の麓のカタクリ群生地は、地元の「カタクリ愛好会」と小学校の児童会が保存活動をしているそうだ。子供の頃に自然の豊かさ美しさに親しめるのは素敵だ。
群落の中につけられた散策路を進んでいくと、もう一面、薄紫の妖精が開いている。スプリングエフェメラルと呼ばれる花々は春の数ヶ月だけ地上に姿を現して、あとは密かに大地の下で命を保つ。そしてそのわずかな期間に美しい花を咲かせる。その儚さを春の妖精と呼ぶ。
カタクリは芽吹いてから7、8年経ってようやく花をつけるそうだ。芽吹いた時は糸のような葉が出るだけなので、誤って踏まれてしまうことも多いだろう。よくここまで群落になったなぁと思う。
6枚のそり返った花被片はよく見ると3枚ずつ重なっている。内側が花弁、外側が萼なのだろうがほとんど区別はつかない。日がさして暖かくなってくるとこの花被片がそりかえるのがカタクリの特徴だ。そしてその内側に花模様のようなくっきりとしたラインが見える。これは「ここに蜜がありますよ」と昆虫に知らせるための蜜腺なのだという。
蜜腺に誘われてか、ハナバチが盛んに花々の間を飛び交って蜜を吸っている。黄色い蝶が遠くをひらひら舞っている。ここ旭山山麓のカタクリ群生地にもギフチョウがやってくるのだけれど、まだ早いのか、今日は見ることができなかった。
もうほとんど満開に見えるけれど、目を凝らせばまだ蕾の姿も多い。ギフチョウが舞い出すのも近いだろう。お花畑をひらひら舞う蝶の姿は可憐で一幅の絵のようだと言われるけれど、なかなか1箇所に止まらないチョウを撮影するのは難しい。
以前、カタクリの花の群生を撮った写真の片隅にそれまで2頭で絡まり合うように舞っていたギフチョウが並んで羽を休めている姿が映っていたことがある。ピントは甘いけれど、仲良く並んでいる姿が微笑ましくて、嬉しくなった。狙っても撮れないのに、無意識の画面に映っているのが面白い。
昆虫に受粉してもらってつけた実にはアリの好きなエライオソームという物質がついていて、アリに遠くまで運んでもらう仕組みなのだそうだ。自然の中で行われているさまざまな関わり合いの仕組みには脱帽だ。
毎年4月にカタクリ祭りが行われているが、年々開花が早まっているから、祭りが後追いになってしまうようだ。昨年初めて祭りの日に行ってみた。花が終盤になっていたせいかあまり人は多くなかったが、手作り団子などの販売と人の笑顔もあった。
さてカタクリの花を堪能したので、裾花川流域を歩いてみようか。ヤナギの新緑が光を反射して美しい。カワウが2頭、まっすぐに川下へ飛んでいった。
裾花川にはカモがたくさん浮かんでいることも多く、水鳥だけでなくさまざまな小鳥が見られる。春にはハヤブサが子育てをする姿も見ることができる。今日はどんな鳥に会えるだろう・・・と期待しながら川沿いを歩く。暗緑色の水が、飛沫をあげて勢いよく流れていく。今年は雪が少なかったのに、水量が多く見える。
ゆっくり歩いていくが、鳥の姿は見えない。暖かい日には鴨さんが丸い団子のようになって休んでいることもあるのだけれど・・・。 まだ季節が早いのだろうか、「また散歩に来よう」と話しながら、家へ向かった。