一日湿り気をもたらす雨があって、花々はうるおい豊かな色に開き出した。長野県は広く、さまざまなところに雪解けを告げる早春の花が咲く。福寿草は名前の豊かさもあり、雪の間からでも顔を出す愛らしさもあって珍重されるようだ。我が家の庭にも少しずつ増えて、日があたれば数箇所に黄色い光を反射している。
花の好きな友人がやってきたので、東北信で一番広いという福寿草の自生地へ行ってみることにした。車を運転して昼過ぎに到着した友人と、お茶を飲むのも急かせて出かけた。
長野市中心部から国道19号線を西へ走り、七二会(なにあい)の山の中に入っていく。七二会小学校、中学校を過ぎ、陣場平山への登山道を右に分けて、細い山間の道を進む。道はくねくね曲がっているうえ、ガードレールもなく、ところどころはすれ違うことができないほどの狭さだ。本当にここでいいのかと思いながらも、時々矢印付きの看板が建てられているので、その矢印に従いながら進んでいく。『駐車場まで300m』などという看板が出てきたのでホッとする。
着いたところは斜面を切り拓いたような駐車場。福寿草の自生地はここからさらに500mほどの山道を歩いた先だそう。それでも、山の中に入った嬉しさにワクワクしながら歩き出す。道は勾配があって狭いけれど、竹を砕いたチップが敷き詰められていて、歩きやすかった。おしゃべりをしながら縦1列になって進む。ゆっくり歩いていくと目の前に急斜面が現れる。そしてその斜面に一面の福寿草。これはすごい。
こんな急斜面に咲く花なんだね〜と、思わず友人と顔を見合わせる。目の届く限り一面の福寿草は、満開に花をつけているのだが、斜面の南西に張り出した尾根のせいか、昼過ぎというのに日が翳ってしまい、風が冷たいため(※)、早くも花を閉じ始めているではないか。空は青いのに、ここまで日が差さないのは残念だ。下の方は最後まで日が当たっていたのか、まだ開いている花も見える。のんびりやはどこにもいるようだ。
友人は駐車場に店を出している地元の人から植え方を聞いて、一鉢苗を買った。うまく育つといいね。(※ 福寿草は温度傾性の花。明るさではなく温度差によって開閉するそうだ)
翌日、友人の帰り道の途中にある節分草の自生地に寄ってみようと、友人の車に乗って出かける。長野から国道18号線を南下、戸倉駅の手前を左の山に入っていくと戸倉宿キティパークに登り着く。ポカポカと春というより夏に近いほどの日差しの下で、地面に腰を下ろしてランチタイムとしよう。途中のお店で買ってきた弁当を広げ、それぞれが選んできた食べものを交換しながら話の花も咲く。キティパークの桜はまだ蕾だけれど、日差しに誘われてか子連れの若者や、そぞろ歩きの高齢者など、人の姿が多い。
お腹がいっぱいになったところでよっこらしょと腰を上げ、山道を登り始める。途中の自在山神社を過ぎて何回かカーブを曲がっていくと、節分草の自生地が開けてくる。地元の人たちが大切に守ってきた自生地で、開花期には交代で花の説明もしてくれる。
今年は気温が上がるのが早かったので、春の花はみんな咲き急いでいる印象だが、節分草もその例に漏れず、もうすでに結実期に入っているものが多い。
それでも可憐な白い花が山肌を埋めるように光っている様は見事だ。
私たちは地元の方の話を聞いてから階段を登り、斜面の上の方に開いている花を見に行った。節分草の白く開いて花びらに見えるところは、実は花びらではなく萼なのだが、普通は5枚のシングルだ。ところが、これが重なっている八重咲きの花もある。八重咲きの花はシングルのものより咲く時期が遅いのか、今回はたくさん咲いていた。
また雄蕊の紫色がほとんどなく、全体が白色に近いものも見られた。
一回り自生地を巡ってから来た道を引き返した。花粉症の人にとっては嬉しくないスギの花穂もたくさんあったが、ミヤマウグイスカグラや、アブラチャンの花が開き始め、笑い出した山の中は賑やかだ。
高速道路に乗って帰る友人に駅まで送ってもらい、私たちは電車の客となった。