晴れたら山へ、今年の我が家の合言葉。歩かないと体がなまってしまうと、夫。何度登っても楽しい裏山もいいけれど、時々違う山にも行きたいと話し、ちょっと南に行けば雪が少ないのではないかと、今日は茶臼山を目指すことにした。車で出かけて、帰りは買い物をしてこようという計画だ。
安茂里駅前を通り過ぎ、小市橋を渡り、川中島方面へ向かう。安茂里あたりの道路を走っていると、右には白土の壁(※)が連なっていていつ見てもすごい迫力だ。
雪解け頃に活発になるという粘菌を見つけたい夫は、有旅茶臼山の旗塚駐車場に車を停める。標高が高いので、ここからはすぐ有旅茶臼山だ。
車を止めて歩き始めると、北側の谷の向こうに真っ白なアルプスが見える。「わぁ〜」思わず声が出るほど、青空に映えて美しい。そして足元の谷は一面の霧で覆われている。斜面に茂っている木の枝が邪魔をして、枝越しの展望なのが残念だ。
ほとんど傾斜のない山道を少し歩くと旗塚につく。この上が有旅茶臼山だ。昔は茶臼山とほとんど同じ標高の双耳峰だったそうだが、現在は大きく崩れた痕が痛々しい。
周辺は伐採手入れがされているようだ。藪の中には積み上げられた伐採木が苔むして雪を被っている。
夫と顔を見合わせる「いそうだね」。何がいるのかと言えば、粘菌だ。「この木は(粘菌にとって)美味しそうだね」などと呟きながら、木の影を覗き込むと、やはり粘菌の姿が見える。しかし、雪が多いので、ほとんどはもう活動した痕跡のようになっている。
粘菌はとても小さく、しかも同じようなものが多くてなかなか特定できないけれど、何度も出会ってようやく私たちにも名前がわかるようになってきたものが何種類かある。細かいことを言えば、さらに分類できるようだが、まだまだそれは勉強不足なので、おおまかに呼ばせてもらおう。
図鑑で調べると、季節ごとに活動する粘菌が異なるそうだ。花が咲く季節も種によって違うのと同じことだと納得。冬は少ないかもしれないが、雪が降る地方に特有のものもあるらしいから、楽しみだ。
裏山をはじめ、我が家から近い山にはアカマツの森が多いけれど、アカマツの森にとても多いのがムラサキホコリの仲間だ。この季節には、活動を終えたのか休止したのか、かたまってぐしゃぐしゃの髪の毛のようになっているが、まれにまだ胞子を飛ばす前の姿に出会うこともある。
粘菌を探していると、森の中には小さな生き物がたくさんいることに改めて驚かされる。今まで何を見て山を歩いていたのだろう。苔やキノコ、地衣類など、小さな卵や繭などを残す虫たち、生き物の多様性が豊かな森は活気がある。何かわからないものがいっぱいだが、出会いは楽しい。
夢中になって下を向いて歩いていると、上も見なさいというように小鳥の声がふってくる。カラの仲間の混群が縦横に森の中を飛んでいく。鳴き声がいくつか聞こえる。シジューカラはわかるが、エナガやヤマガラは姿を見ないとわからない。コゲラは小さなコツコツという音をさせながら幹の周りを登っていく。そのまた上空をカラスが羽ばたきながら飛んでいく。見上げていると、カラスではない大きな鳥がまっすぐ空を横切っていく。何かわからなくてもいろいろな姿に出会えるのが楽しい。
山頂は針葉樹の森の中だ。ここに三角点があるのが不思議だ。見晴らしはない。三角点にタッチして、展望台に向かう。
木の間越しに見えていたアルプスが真っ白だったから、ワクワクしている。展望台に到着、期待を裏切らない素晴らしい眺めだ。目の下には白い田んぼが広がり、その向こうの緑濃い里山の上に白く輝くアルプスの峰々。白馬(しろうま)は北にあるだけにことに白さが際立っている。長野からはどこからも美しく見える唐松、五竜、鹿島槍と続いて、さらに南には針ノ木のカール地形がよく見える。