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春を待つ地附山 733m(長野県)

2023.2.6(月)


photo:光る雪:地附山
光る雪

雪が太陽の光に映えてキラキラしている。大雪で生活が脅かされるのは困るけれど、雪景色は美しい。生活感あふれる雑駁とした細々を隠してくれるからか、町の姿も家々の佇まいも、ちょっと厳しく落ち着いた姿に見える。

里山に積もる雪は山歩きを躊躇するほどではないが、気をつけなければいけないことも多い。今日のように真っ青な空の日なら最高だ。

photo:青空が眩しい:地附山
青空が眩しい

玄関で登山靴を履き、歩き始める。気温が上がってくるのを待って、10時に出る。我が家の北の道路が一番凍っていて危ない。車道を避けて急斜面を登り、善光寺雲上殿へ出る。駒弓神社から山道に入れば雪はザクザクしていてそれほど滑らない。

一週間ほど前に歩いた時より雪の量は少ない。空気が丸く感じられる。春が近いのか。登り始めて10分ほど経った頃、ふと斜面に横たわる倒木を見る。藪へ入って行って倒木の下を覗き込むと、小さな、小さな毛のようなものがたくさん見える。粘菌なのか、キノコの出始めなのか、それともカビか・・・菌類の仲間は見分けがつかない。白くポツポツしたのは、雪解けの水分の中に溶けるように光っている。粘菌の最初の姿は白いものが多いというから粘菌かもしれない。

photo:粘菌:地附山
粘菌かなぁ

photo:小さな、小さな菌の世界:地附山
小さな、小さな菌の世界

しばらく観察してから再び登り出す。カバンの中にアイゼンを入れてきたけれど、カチカチに凍っていないので装着せずに登っていく。数日雪が降らないので、木の枝に積もった雪はほとんど落ちている。急斜面を登っていると頭上に鳥の声が賑やかだ。シジュウカラがツツピーと鳴いている。コゲラは木の幹をくるくる周りながら静かに登っている。赤い色が目立つのはヤマガラか、鳥の姿を見分けるのは難しいけれど、豊かな声を聞きながら歩く山道は魅力的だ。

photo:小さな生き物の撮影は難しい:地附山
小さな生き物の撮影は難しい

photo:小さな、小さな菌の世界:地附山
小鳥の声が近い

一気に登って、パワーポイントに着く。善光寺平の広がりと、その向こうに菅平、志賀の山々が連なっている、南に浅間山、北に鳥甲山も見えている。しばらく山々を眺めて楽しむ。空は真っ青だが、風景にはどこか春を思わせる光の淡いゆらめきがある。

photo:笠岳、横手山、白根山:地附山から
笠岳、横手山、白根山

パワーポイントから山頂まではすぐ。ちょっと雪が多くなった道を10分登れば山頂に到着だ。登っていくと、道の向こうに妙高山が姿を現してくる。「あ、今日はよく見えるね」足取りが軽くなる。雲ひとつない空に、飯縄山、黒姫山、妙高山が並んでいる。南の方は春の空気を感じさせるような淡いヴェール越しだったけれど、北の山はくっきりと美しい。

photo:ムラサキホコリ活動の跡:地附山
ムラサキホコリ活動の跡

photo:青空の下でおやつ:地附山
青空の下で

photo:地附山山頂も雪
地附山山頂も雪

山頂も雪が被って白くなっているけれど、潜るほどの深さはない。山頂で記念撮影をして、日向のベンチに座る。風がなくポカポカと暖かい。目の前の雄大な山の姿を眺めながら持ってきたおやつを食べる、最高のひとときだ。登りでは数人の姿を見たけれど、山頂に憩う人はいない。

photo:妙高山がくっきり見える:地附山から
妙高山がくっきり

photo:倒木が片付けられた:地附山
倒木が片付けられた

雪のある山はたとえ里山でも入るのに少しの勇気を必要とするようだ。山慣れした人、この山なら大丈夫という人、そして夏山準備の人などがいる。ふっとすれ違いざまにわずかな会話を交わす、するといろいろな人の思いが浮かび上がってくる。地附山はそんな人たちの思いを乗せて、どんと立っている山のようだ。

山頂でしばらくゆっくりしたので、降りようか。いつもは歩かない道を行ってみよう。山頂下から旧バードラインへ向かう。広い車道跡は吹き溜まりになるのか、雪の量が多く足跡もなかった。いや、鹿、猪、兎など、動物の足跡は何筋にもなって広がっている。縦横無尽に重なり合って雪模様ができている。

photo:雪の下のマメホコリ:地附山
雪の下のマメホコリ

photo:雪の造形:地附山
雪の造形

道のない雪の原を歩くのは結構力がいる。スノーシューを履くほどの深さはないけれど、一足一足潜りながら進むので、普段使わない筋を使うのだろう。それほど長くないまっさらの雪道を「疲れるね〜」と話しながら歩く。しばらく歩いて前方後円墳の下を巻く道に入る。ここまでくると歩いた跡が道になっている。

photo:コゲラ,ミノムシの様,クサカゲロウの卵に似ている:地附山
森にはいろいろな命

しかし、ここも思ったより雪が残っていた。荒れた斜面には大きな倒木が斜めになって重なり合っているけれど、雪も多いので、あまり踏み込めない。

先日道を塞いでいた太い木が綺麗に切って片付けてある。愛護会の方が早速片付けてくださったのだろうか、大変な仕事をありがたいことだ。

photo:キンチャケホコリ活動の跡:地附山
キンチャケホコリ活動の跡

数ヶ月前から通れば挨拶しているマメホコリも雪から少し顔を出して元気そうだ。雑木林の枯れ木にミノムシのようなものがぶら下がっているので近づいてみた。ミノムシのようなものも小さいけれど、その下に糸のようなものがついている。クサカゲロウの卵にそっくりだ。でも一本だけ。登りの道でも見つけたけれど、やはり一本だった。何だろう。

森の中には想像を超える命が生活している。いつ歩いても、何度歩いても、新しい未知が開ける世界、腹の底からじわりと嬉しさが込み上げてくるようだ。




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