暮れに降ってからほとんど雪が落ちてこなかった。積もった雪がどんどん消えてしまったが、一昨日朝からしばらく降っていた。その後の陽光で、町の雪は再び溶けてしまったけれど、山には少し残っているようだ。
雪が降った後に出るという粘菌ルリホコリを探そうというのは口実で、しばらく登っていなかった大峰山を歩きたいという思いが強かった。家から登山靴を履いて歩き始めるのは久しぶりだ。大峰沢の右岸を歩いて歌ヶ丘に出る。南側の斜面になるからか、雪はほとんど残っていない。倒木がたくさん積んであるから、その周りを覗き込みながらゆっくりのんびり登っていく。朝は綺麗な青空だったが、少し霞がかってきたようだ。それでも1月後半の空と思えばずいぶん明るい。ただ、夜明け前にはマイナス7度にも下がったという気温はなかなか上がらず、まだマイナスのようだ。首に巻いたマフラーが離せない。登山道を外れて倒木が積んであるところに入っていくと、その辺りには雪が残っていて、じっと見ていると足の先も冷たくなってくる。
しばらく登ると、ユリの実のような大きな実が立っている。何だろう。殻の中には白い粉のようなものがたくさん詰まっていて、触れたら大きく飛んでいった。「風があるとも思えないのに、ずいぶん飛ぶんだねぇ」と、夫が感心して見ている。この実の足元にはシュンランの葉、これはシュンランの実だ。花はよく見るけれど、実になっている姿を見ることはなかった。このコースにはシュンランが多いので花の季節には何回も歩いたけれど、実がなる頃にはあまり歩かなかったかもしれない。
登山道の脇の斜面には松枯れでたくさん伐採された木が積み上げてある。新しいものは燻蒸のためにビニールを被せてあるが、古いものは苔むして土と一体化しているようだ。その影を覗いていくと、いくつかの粘菌が見つかった。何回も見ている粘菌はさすがに顔馴染みになっているからすぐわかるのだが、キノコなのか、粘菌なのか、それともカビかもしれない小さな生物もたくさんあってびっくりする。もしかしたら見ているのに見えていないという状態に陥っているのかもしれない。
登るにつれ、雪が増えてきた。小さな探し物は地面に近いところにたくさん見つかるから、撮影も大変だ。サルノコシカケや黒い大きなキノコは高いところにあるが、これもまた近寄れないので、撮影しようとすると大変だ。小さなデジタルカメラでは難しい。
木の実を見つけては喜び、花の名残を見つけては来年も咲いてねと挨拶し、たった二人だけなのに賑やかに登っていく。
雪が多くなってくると、倒木も雪で覆われているので粘菌探しは難しくなる。ざっくざっくと登って山頂に到着。四阿には先客がいておやつタイムらしい。11時、お昼にはちょっと早い、私たちもおやつタイムとしよう。木の枝の間から浅間山がくっきり見えている。雪が白く筋になって積もっている。湯ノ丸山や烏帽子岳も見え、さらに遠くに蓼科山も見えている。
しばらく休んでから地附山へ向かって一旦降りる。雪の量は少ないけれど、人が歩いた跡が凍りついている。経アイゼンをつけて鞍部まで降りることにした。地附山は標高が低いから凍りついてはいないだろうとアイゼンを外して登る。
山頂から飯縄山と黒姫山が見えるが、奥の妙高山は雲の中に隠れてしまっている。晴れたり曇ったりしながら、天気はゆっくり下り坂のようだ。今日はおにぎりを持ってこなかったから、帰ろうか。標高は百メートル近く低いのに、地附山の方に雪が多くついている。
風の向きなどがあるのだろうか。雪が多いから、粘菌探しは難しい。それでも、前方後円墳から六号古墳の方まで回って所々倒木の影を覗き込みながら歩く。地附山にはマメホコリが多いのだが、雪に覆われている。ここにあったはずと、そっと雪をどかして見たら、いた。フーッと息を吹きかけて雪を飛ばすと、マメホコリの胞子も一緒に飛ぶ。綺麗なピンク色の胞子が雪を染める。大峰山の登りで見つけたマメホコリの胞子は白に見えたけれど・・・光の加減なのだろうか。写真を撮った後、再びそっと雪を被せておく。
暗いところにぷつぷつと体を寄せ合っているヌカホコリ、もう数ヶ月も同じところにいるハート型のアカハシラホコリ、そしてマメホコリ、小さなハチノスケホコリもオレンジ色に光っている。粘菌たちは雪の下でもしぶとく生き抜いているようだ。
これからが雪本番かもしれない。「頑張って生き延びてね、また春に会おう」と呟いて、駒弓神社へ向かって降りた。