丹沢といえば人気の沢コースがたくさんある山域、その中でもユーシン谷は知られている。私たちは沢歩きの技量はないのでユーシンブルーを見に行ったことはないが、ユーシン谷の近くには何度か行っている。
檜洞丸に登ろうと思い、玄倉川沿いの林道を登って行ったのは3月の後半だった。丹沢湖の東から奥へ進み、ユーシンへの道を右に分けてさらに進むと、西丹沢県民の森に着く(玄倉林道は2017年から通行止めとなっていたが、今年2022年3月で解除され、徒歩通行が可能になったそうだ)。
8時過ぎに家を出て県民の森に駐車、歩き始めたのは11時だった。林道を車で入ることができた(現在一般車は入れない)けれども、丹沢の奥は遠い。しかし、遠くまで頑張ってきた甲斐はすぐ現れた。森の向こうに明るいクリーム色の世界が広がっている。あれは? ミツマタの大群落だった。満開。急な登り道の両サイドにずっと奥まで黄色い世界が続いているのは見事というしかない。私が喜んで花の周りをうろうろしているからなかなか先へ進まない。ミツマタの木がこれほど見事に重なって、しかも満開というのはあまり見られない光景だ。
県民の森にはさまざまな樹木の森があるそうだが、道はだいぶ荒れていて人はいない。「大正の森」を通って山への道は続いている。「大正の森」は杉の大木がまっすぐ伸びている暗い道だった。
山道に入ると、一気に急になる。木につかまりながらガッツガッツと登っていく。しばらく頑張って登っていくと雪が見えてきた。雪が好きな私たちは、3月になっても残る雪を見て最初は喜んでいた。
ところが、登るにつれ雪の量は増えていく。12時を過ぎたので雪のない陽だまりを見つけ、腹ごしらえをすることにした。幾重にも重なる木の枝の向こうにうっすらと富士山が見えるのが嬉しい。
さて、お腹もいっぱいになったし頑張って行こうか。3月も後半だから、雪の量はそれほど増えないだろうと思っていたが、進むにつれ一面の雪の原になってきた。
カバンからスパッツを出して取り付ける。なんとか急斜面を登りきり、少し広い稜線に出てきたので、はしゃいで雪の原を走ったりして遊ぶ。
しかし深い雪の道をラッセルしながら歩いていくうちに、少し心配になってきた。誰にも会わない道は踏み跡もない。かすかに窪んでいるような、道らしきところを歩いていくが、標示もあまりないので迷ってしまうのが怖い。
上に上がるにつれ、富士山が綺麗に見えるようになってきた。丹沢の山並みも見えるので、方向を確認しながら歩く。
雪の道を踏みしめながら歩いて、箒沢への分岐まできた。ここから檜洞丸まではまだ結構遠い。今日は途中で引き返そうか。
話しながら石棚山まで進む。雪の中を歩き回って山頂標を探すが見つけられない。稜線の途中の山だから無いのかもしれない。玄倉と檜洞丸の方向を示した標識に「石棚山」と書いてあるから、ここで記念撮影。木が茂っているので、周辺を歩いて富士山がきれいに見えるところを探し、富士山をバックにパチリ。今日はここまでにしよう。檜洞丸にはまた今度登ろうね。
残っている雪は多いけれど、お天気は崩れそうもないので、山頂周辺をしばらくうろついてみる。標高は1351m、太平洋岸の山なので、1000メートルを越えても周囲には潅木が茂っている。春になればツツジが咲きそうだ。
しばらく雪の山頂を堪能してから、下ることにした。かなりの急坂だから、気をつけていこう。下りは滑りやすい。
岩がゴロゴロしている道をどんどん降りて、県民の森へ着いたのは4時ちょっと前だった。山頂を出たのが1時40分頃だったから、2時間ちょっとかかったことになる。登りも下りもほとんど同じ時間かかったんだ。山では下りの方が気を使うことも多い。雪の残る急な岩の道、あまり大変だったという記憶はないが、ゆっくり降りたのだろう。
駐車場から振り返ってみる。今、雪の中を降りてきた山は、下から見あげるとすでに春の空気を纏っていた。