先日見つけた粘菌がどんなふうに変化しているか気になっていた。行こうか、でも寒いねとぐずぐずしていたらイケさんから「地附山にいるよ」と連絡があった。雨模様が続いたこともあり、しばらく山で会っていない。やっぱり行こうと支度をする。
駒弓神社から登り、パワーポイントの広場に出るとイケさんが手を振っている。「久しぶりだね」「今はキノコがないから寂しいでしょう」などと話しながら、しばし風景を楽しむ。陽は当たるが、風がやや強い。
立ち話をしながら、山の情報を交換する。先日髻山で見た木の実の写真を見せると、首を捻りながら「この形見たことがあるけど・・・緑色だったなぁ」と呟き「ミツバウツギじゃないか」と言う。検索したらまさしくミツバウツギだ。地附山にはないよとのこと。さすがイケさん、やっぱり頼もしい。
パワーポイントからは森の藪道をガサガサ登ってまずは山頂へ。山頂の北斜面には面白い苔がみっしり生えているから、観察。この辺りには木の実も色々残っている。
アカミゴケを探していたら、ピンクの胞子嚢をつけたものを見つけた。これはなんだろう。また小さな茶色い胞子嚢らしいものをたくさんつけているのもあった。胞子嚢がピンクのものはセンニンゴケというらしい。アカミゴケもセンニンゴケも名前は苔だが。地衣類の仲間だそうだ。苔や地衣類の世界も奥深いから迷い込むと大変だ、覗くだけにしておこう。
風が冷たいので山頂を後にする。お天気は下り坂。森の朽木の影で粘菌を観察。「え〜、こんなに小さいのか」と言いながらイケさんも一緒に覗き込む。
先日見つけたハチノスケホコリや、スミホコリの仲間が見られる。スミホコリは目で見てわかる大きさだけれど、ハチノスケホコリはオレンジ色の染みに見えてしまう。けれどよく見ると、黒っぽい子実体と、胞子を飛ばした後の穴が見える。もっと大きくなると本当に蜂の巣のように見える。
そこから少し道を進んでアカハシラホコリを見る。最初に見つけたときは可愛いハート型だったのだが、今は左上が割れている。どんなふうに胞子を飛ばすのか。
前方後円墳を越えていくと、切り株などにマメホコリがたくさん着いている。地附山にはマメホコリがたくさんあるが、マメホコリは松の木が好きなのだろうか。見つけやすい大きさのマメホコリだが、変化はあるかな。12月に入ってから3度目の観察になるが、よほどじっくり見ないと変化は分かりにくい。色が黒っぽく変わったような気がするが、光線の加減なのかもしれない。
近くにムラサキホコリが胞子を飛ばした残骸が揺れている。先日森の中ではまだ胞子をつけた姿を見ることができたが、この辺りにはなさそうだ。
イケさんは「すごいなぁ」「なんだかハマっちゃったよ」とか、苦笑いしながら呟いている。
粘菌を見つけながらのんびり歩いているが、空模様は怪しくなってきた。近道の公園の方へ降りようか。冬の森には花はないけれど、いろいろな生き物がいて面白いねと話す。ウスタビガの繭が揺れているのを見つけたイケさんが森の中に踏み入って取ってくる。もう軽くて、中に蛹はいないようだ。数日前に道の脇に落ちていたウスタビガの繭の話をする。大きな蛹が入っていたようだが、どうやら死んでしまったらしい。落ちていたのを誰かが開いたのか、それとも、生きていたのに中を見たくて開いてしまったのか・・・。真相はわからないけれど、私たちが見つけた時には道の側で開かれていた。
イケさんが取ってきた繭を開こうとするが、とても丈夫で、簡単には開かない。野生の生き物の力ってすごいね。やっとの思いで開いてみると、薄い蛹の殻のようなものが入っていた。どうやってここから出ていくんだろう・・・。ぶら下がっている底の方に小さな穴があるけれど、とても出られないよね。
ウスタビガの繭は上の方の合着したようなところが開くんだそうだ。そこからちゃんと出ていけるんだね。成体はかなり大きいそうだが、まだ見たことがない。いや、見てもわからないだけかもしれないけれど。
森の中にはまだキノコがたくさんある。枯れ木には花のようにカワラタケの仲間らしいキノコがつき、大きなサルノコシカケも目につく。けれど、夏から秋にかけて目を楽しませてくれた柄と傘がある地面から出るキノコはあまり見なくなった。倒木の影に黄色い小さなキノコがたくさん出ているが、これは猛毒のニガクリタケ。死亡事故も多いそうだ。「人生で一回だけは食べられるキノコ(死んじゃえば2回目は無いってことです)」と、ブラックジョークを言いながら指差す。ナメコみたいで間違えそうだ。
以前イケさんに教えてもらったマンネンタケはまだ元気だ。先日様子を見てきた。ちょっと大きくなった気がする。
キノコを見たり、木の芽を見たりしながら歩いていたら、斜面の倒木に黄色い色が見えた。とても小さな黄色だったけれど、近づいてみると、どうやら粘菌らしい。ヌカホコリかなぁと言いながら近づく。全体の大きさが5ミリくらいであまりに小さいのではっきり分からないが、キンチャケホコリらしい。先日森の中で見つけたススホコリにもちょっと似ている。
夫が撮影している間に近くの落ち葉に隠れている枝を見ていたら、また別の粘菌を発見した。紐上になっていて分かりやすいヘビヌカホコリだ。クロコブタケというキノコや、ムラサキホコリの胞子を飛ばした残骸と絡み合っている。この環境が彼らにとって繁殖しやすいところなのだろうか。
イケさんはスマホで撮影して、綺麗に撮れたと喜んでいる。拡大機能がついていると見せてくれたが、だんだん機能が進んでくるとカメラがいらなくなってしまうね。
変形菌の移動中の変形体も見つかって、大喜び。白い菌糸はキノコのものだろうか。案外賑わっている森だ。
秋にはキノコがたくさんあったところだが、今はほとんどない。いや、大きな目立つものは少ないが、小さなキノコが落ち葉の下に隠れている。フユノコガサは傘が1センチくらいしかないが、メタリックな黄金色に光っている。このキノコ登山道の落ち葉の影にいくつも生えていた。成長すると傘がひび割れて、その模様がカラカサダケに似ている。だから「コガサ」という名前なのかもしれない。
キノコのことはイケさんに聞けば大抵分かる。ヒラタケをいくつか見つけてもらって採った。今日の夕飯のおかずにしよう。でも、ショウロは知らなかったそうだ。公園あたりでいくつか見つけたが、春と秋に見られるキノコだという。土の中に半分隠れているものだそうだが、見つけたものはカラカラに乾いてとても軽いから、胞子を飛ばした後の抜け殻なのかもしれない。いつか若いものを見てみたい。
駒弓神社登山口の駐車場で、イケさんと分かれる時には街が霞んでいた。天気は冬型になるのかな、風が冷たい。