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粘菌の変化を追う髻山 744m(長野県)

2022年12月9日(金)


何年か経って思い出すと笑えるかもしれない。「たまたま見つけた小さな、小さな粘菌の変化が見たくて何度足を運んだことだろう・・・」と。

photo:倒木が重なる森:髻山
倒木が重なる森

この日も粘菌の変化を見たら帰ろうかと話しながら山に向かった。すると目の前で動き出した車の窓から年配の男性が顔を出し、ニコニコしながら「髻山へ登るの?」と聞いた。私たちは首を傾げながら「今日は森の中を歩いくだけで、上まで行かないかもしれません」と答えた。するとその男性は、「森の中を歩くの?」と笑い、「自分たちは山道の管理を任されているけれど、とてもやりきれなくて大変だ」と話した。倒木を片付けるのもままならないと苦笑い。その苦労は想像がつくので、ありがとうございますと頭を下げる。男性は「楽しく登って。そして頂上に置いてあるノートに書いていってよ」と話して、笑顔で走り去った。

photo:みんなキノコ:髻山
みんなキノコ

photo:ミヤマウツギの実:髻山
ミヤマウツギの実

photo:ヒメキクラゲ:髻山
ヒメキクラゲ

「髻山の自然と里山を守る会」、登山道の整備などをしているという会の人だった。走り去る車を見送りながら、「山頂まで行ってくるか・・・」と、夫。苦笑いの顔が弾んでいる。仕方がないなぁなどと言いながら、山へ行く理由ができたことを喜んでいるのではないか。

里山を歩くと感じるのだが、昔は生活に密着していて手入れもされていたのだろうが、今では入る人も少なくなって荒れているところが多い。髻山も例外ではない。倒れた木が重なって苔むしているところも多い。それでも登山道には人の手が入り、整備されていることがわかる。

私たちはその道を歩くだけだが、いつか「歩いてくれるだけでいいんだ」と言われたことがある。人が繰り返し歩くことで道が残っていくということもあるからだろう。

一方では、人が集まりすぎて道がえぐれてしまうという困ったことが起こっている山もあるのだが・・・。

photo:粘菌 ひび割れてきた:髻山
粘菌 ひび割れてきた

photo:粘菌 こんなに小さいよ:髻山
粘菌 こんなに小さいよ

さて、先へ行こうか。変化を追いかけている粘菌は表面がひび割れてきたようだ。もう胞子を飛ばしているのかもしれない。あまりにも小さいので、撮影には苦労するが、幸いカビにはやられていない。まだ変化するのだろうか。最後まで見届けられるか心配になる。 「帰りにまたね」と声をかけて先へ進む。キノコがたくさんあるけれど、名前がわかるものはほとんどない。近くには別の粘菌もいるから、キノコ、粘菌、そしてカビなどの菌類に足を止め、目を留め、ゆっくり登る。

photo:粘菌ヤニホコリ:髻山
粘菌 ヤニホコリ

photo:粘菌 ヌカホコリ,ハチノスケホコリ:髻山
朽木の上に粘菌の動き

謙信馬洗いの池をすぎ、馬隠しを過ぎて、杉林の中の急登を越えると山頂だ。今日も誰にも会わない。山頂の広さの中に私たちだけ。青空の下、志賀高原が見えるのが嬉しい。

四阿にも斜めの陽が差し込んで暖かい。夫が着替えたシャツを干しながらおやつを食べよう。そして備えてあるノートを開く。高齢の方から小学生、何度も登っている人もいれば、初めてという人もいる。いろいろなメッセージが書いてある。私たちも一言書き添えた。

photo:山頂、今日も私たちだけ:髻山
山頂、今日も私たちだけ

photo:山頂の四阿にあるノート:髻山
山頂の四阿にあるノート

photo:志賀方面の山,岩菅山,高天原,赤石山:髻山から
髻山山頂から志賀方面の山を見る

photo:粘菌 マメホコリ:髻山
マメホコリ

そろそろ帰ろうかと腰を上げたら、両手に杖をついてゆっくりゆっくり高齢の男女が登ってきた。にこやかに挨拶。足取りはちょっと危なっかしいけれど、山慣れしている様子だ。私たちもいつまでも山を楽しみながら歩けるといいねと話しながら降る。 山頂近くで、この山には珍しいマメホコリにも会えた。「ちょっとだけ」と言いながら森の中を歩くと、大きなコウヤクタケらしいキノコが張り付いていて、その下にぽちぽちと粘菌のようなものが見える。カビかもしれないが、森の中には心躍る生き物がたくさん隠れているねと顔を見合わせた。

photo:コウヤクタケ:髻山
コウヤクタケ

photo:粘菌かカビか(高さ1mm):髻山
粘菌かカビか


追記(12月13日火曜日)

朝は雨だったが、用を済ませた昼過ぎには晴れ間が見えてきた。どうなっているか、気になる粘菌を見に行こう。車で向かう間に雲が消え、久しぶりの真っ青な空だ。

粘菌は寒いからか、変化が少ない。数個は既に胞子が飛んでいる様子だけれど、残りは薄い青やピンクの状態で揺れている。揺れているといっても見えるわけではない。カメラの接眼レンズを近づけ、あるいはルーペでのぞくとそれらしく見えるということだ。この後はどうなるのだろう。調べてもそういう変化についてはまだわからないことが多いらしい。

photo:観察中の粘菌:髻山
観察中の粘菌

photo:ハチノスケホコリ:髻山
ハチノスケホコリ

「もう少し観察するしかないですかね」と呟く。周辺を歩き、違う粘菌も見つけてニコニコしながら帰途に着いた時は薄暗くなっていた。




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