11月23日、勤労感謝の日。この日を境に冬に入る施設がいくつかある。地附山公園もその一つだ。お世話になった管理の方への挨拶もかねて登ってこよう。
前日戸隠方面を一緒に歩いた友人を伴って出かける。公園の駐車場に車を停め、ミニ山野草園のムラサキセンブリを見てから歩き始める。宮城野萩が茂る斜面で管理の西澤さんが仕事をしている、立ち寄り、少しだけ話をしてから階段を登る。広い公園内の斜面に群生する宮城野萩は見事だけれど、この時期に根元から剪定をしなければならないので、それが大変だという。ハギは何本もの幹が根元から別れて伸びていくので、剪定に手間がかかるのだろう。
「ご苦労様です」と、何の助けにもならない挨拶をして、私たちは階段を登っていく。公園内の斜面には剪定された宮城野萩が山になっている。
山道を進むと最後の紅葉とばかり色づいた楓の赤い屋根の下に入る。太陽の光が当たればもっと輝くだろう。今日は雲が多い。
友人は綺麗な色の葉を見つけると拾う。赤、オレンジ、黄色、少しずつ手に持つ落ち葉が増えていく。もう最後の紅葉だから、色鮮やかなのは少ない。できるだけ綺麗な形の葉を探す。いつの間にか私も拾い始めている。
さて、どのコースを行こうかなどと話しながらゆっくり歩いていたら、ポツリポツリと水滴が当たってきた。傘はいらないかなというくらいだけど、この後が心配だ。一気に山頂を目指すことにした。そして、降りにゆっくり粘菌を探そう。
キノコは歩いていても目に入るが、粘菌は小さいのでじっくり探さないと見えないものが多い。
旧バードラインに入り、どんどん登っていく。
「あ、鹿がいる」と叫んだのは友人、目がいい。遠く前方の道の真ん中にすっくと立っている。「ずいぶん黒いけれど、鹿かな」と言っているうちに、その動物はサッと身を翻して山頂方面に走り去った。お尻に白い毛が見えたから、あれはやっぱり鹿さんだね、きっと。こんなに寒い長野北部にも鹿が住むようになったんだ。情報として知ってはいたけれど、どこかに「本当かなぁ」というような思いがあった。しかし目の前に見てしまったからには納得するしかない。あんまり増えて植物相を荒らさないで欲しいものだ。
山頂に到着したが、やはり雨がポツポツ落ちるようになってきた。ここにあったドロホコリは消えていた。役目を終わって枯れちゃったのだろうか。粘菌が見たいと言う友人に、「ドロホコリは見ることができると思うよ」と話してきたから、残念だ。
定点撮影の山頂写真を撮ってから前方後円墳に向かう。前に見つけたハート形の粘菌アカハシラホコリはあるかな。これは同じ場所に残っていた。
傘をさして、少し急ぎ足になりながらも目は倒木の影などに走らせていくと、「あった」。マメホコリ。「いた。マメちゃん」と友人は大喜び。友達のようにマメちゃんと言いながら、今回はぜひ会って帰りたいと言っていたから、嬉しさはひとしおのよう。良かった。
そこから少し歩くと、今度は友人が「あれ、マメちゃんかな」と指さす。自分で見つけることができた。人に教えてもらうよりまた一段と喜びが深いだろう。
粘菌は冬にはあまり見られないそうだが、昨年暮れに雪の中でマメホコリを見た。しばらく繰り返し登って観察してみたが、ほとんど動きがなかったから、休眠していたのかもしれない。春になったら花を見にいくのが忙しくなって忘れてしまった。もう少し観察を続けていればその後の変化が見られたかもしれない、残念なことをした。
雨が本降りになってきた。今日はもう帰ろう。いろいろな種類の粘菌を見られなかったのは残念だが、この季節だから仕方がないか。
マメホコリだけは数箇所にその姿を見ることができた。今回はこれでよしとしよう。
公園に向かって降りていく道の上に覆いかぶさる楓の赤は雨に濡れて艶やかに光っている。最後の紅葉も美しいではないか。
友人が帰った後、お土産に持ってきてくれた太平洋岸に自生するムカゴを料理した。冷蔵庫に眠っていたカボチャやブロッコリーと合わせてあっさりアヒージョ。食べながら夫「これ、何かに似ていない?」。思わず顔を見合わせて笑う。
友人と歩いた裏山を思い出しながらの美味しい夕食となった。