10月もそろそろ終わる頃、標高の高いところから錦模様が降りてくる。今年はあまり戸隠に行かなかった。紅葉を見に行ってこようか。
道路の混雑が落ち着く頃を待って、家を出る。走っている間にも空が青く澄んでくる。今日は遠くが見えるかなと、途中の夕陽展望苑に上がってみることにする。雪を被った北アルプスが近い。さらにすぐそこに戸隠のゴツゴツした岩肌が見えている。
階段を登っていくと南にも視界が開ける。蓼科山と八ヶ岳の峰々が連なっている。そしてその隣に見えるのは、富士山。小さく見えるけれど、端正な姿は間違えようがない。
見晴らしを堪能したから、先へ進もう。今日は旧越後道を歩いてこようと話していた。スキー場の駐車場に車を停めて、せせらぎの小径に入る。緩やかな降りの道は落ち葉に埋もれている。
落ち葉の間から丸いどんぐりが転がっているのが見える。拾ってみると、先端が割れて芽が膨らみ始めている。もう少しで根が出てくるのだろう。秋から冬へ、季節は確実に眠りに向かっているけれど、見えないところで生き物はそれぞれの命をつなぐために働いているのだ。
倒木を見れば粘菌がないかと覗き込みながら先へ進む。粘菌もキノコも目立つものは少ない。せせらぎの小径を降りて、旧越後道に出る。長い年月、たくさんの人に歩かれただろう道は窪んでいる。落ち葉がふかふかに積もって歩きやすいが、この季節歩く人はいない。道の真ん中に太いツルが垂れ下がっている。これはフジか、まるでブランコのようだ。つい楽しくなって座ってみる。弾みがついてちょっと怖い。
道の両側には丈高い笹が緑の絨毯になって広がっているが、ヤマナシの大木があったり、ブナの森があったり、トチノキの葉が落ちていたりして賑やかだ。落葉樹の間に緑濃い針葉樹もあって、歩いていくと森の変化が楽しめる。落ち着いた色の多い中にツリバナの華やかなオレンジ色が揺れている。
ふと見上げると、道端の樹木の高いところに「クロスカントリーツアーコース」の道案内がついている。ずいぶん雪が積もるんだねと、二人で見上げる。
今日は念仏池まで行って、そこから引き返してくるつもりで歩いている。念仏池の近くに沢沿いの道らしいところがあるので入ってみる。以前にも来たことがあるが、その時は小さな水の流れがあって渡れず、引き返した。今日は水量が少ないのか、流れてきた枝などが溜まったのか、橋のようになっているところを通って渡れそうだ。
流れを渡ると一気に登りになる。深い沢に落ちている左斜面は伐採されている。ここは林業の道なのだろう。しばらく登ると、道に霜柱が増えてきた。もう昼近いのにまだ溶けずにしっかり残っている。7cmほどの柱がキラキラ光って眩しい。
前方には高デッキ山らしい丸い山頂が見え、左には黒姫山がどっしりした姿を表してきた。そして、振り返ると戸隠連峰が大きく立ちあがっている。赤い衣の裾を靡かせているような美しい姿に思わず立ち止まる。