朝のうち、用が重なって10時頃になってようやく手が空いた。空を見上げれば久しぶりの青空、なんだかもったいない。今から行けるところはどこかなと、夫と顔を見合わせる。いくつかの候補を思い巡らし、今日は粘菌を探しに行ってこようと車に乗った。
目的地は葛山、芋井の方まで回って西側の葛山城跡駐車場に車を停める楽ちんコースだ。駐車場には珍しく車が一台停まっていた。いつも我が家の貸切り状態だから、ちょっぴり嬉しい。
周辺は耕したばかりのように土が盛り上がっている。どこもかしこも泥田状態。「これ、みんな猪がやったのかな」と私が言うと、「そうだよ。こんなところを耕す人はいないよ」と夫。登山道に上がっても道から斜面にかけて広く耕されている。猪ってこんなにたくさんいるのかなと思わせられる状態だ。
少し歩くと斜面の上にアキノギンリョウソウの大群落が見えてきた。今年はもう遅かったのでみんな茶枯れていて、つぼ状の実を持ち上げている。白い時に見たかったね。
さらに歩いていくと一人の男性が笹の中を歩いている。手に持っている白いビニール袋は重そうだ。
「キノコですか」と聞くと、「ジゴボウだよ」と袋の中を見せてくれた。ツヤツヤした赤茶色のキノコがたくさん入っている。ジゴボウというキノコの名前は聞いたことがあるけれど、見るのは初めてだ。
男性と分かれて山頂を目指す。途中倒木が積み重なっている辺りは念入りに見ながら進む。粘菌の宝庫だから。
葛山の山道はどこも濡れていた。昨日登ったお隣の地附山は乾いていたが、このところ雨は多くないから乾いているのは不思議ではない。土の違いなのか樹木の違いもあるのか、隣り合っていても山の雰囲気はずいぶん違う。
粘菌を見つけながらいくうちにジゴボウが目に入ってきた。さっき教えてもらったばかりのキノコだ。笹の隙間にポツポツ出ている。中にはずいぶん大きくなって、形が崩れてきたものもある。どうしようか・・・。カバンから袋を出してジゴボウを入れる。キノコは採らないものと思っていたが、せっかく教えてもらったキノコがたくさんあるから・・・と、言い訳めいたことを心の中で呟きながら、袋の中身は増えていく。
中腹のカエデが綺麗に色づいてきた。一本の木が何色もの色に染まっている姿はいつ見ても綺麗だ。
山頂に上がると、夫婦らしき男女がベンチに座っておにぎりを食べていた。女性が私のぶら下げている袋を見て「ジゴボウ、採れましたね」と話しかけてきた。
私たちも四阿のベンチで軽食を食べる。今日は急に決めたので、ありあわせのパンと煎餅だけだが、山頂の爽やかな空気の中だからか、満足、満足。
男女を見送った後もしばらく山頂の空気を楽しんだ。気持ち良いのは私たちだけではないのだろう。チョウやトンボが山頂の切り株や、祠の屋根に止まっては羽を広げている。日向ぼっこをしているんだね、気持ち良いよね。でも山頂の端に立つ大木の幹にはチョウだけでなく、大きな蜂も集まっていて、これはちょっと恐いかな。
しばらく遊んだので帰ろうか。笹の道を降り始めると、いきなりガサガサと音がして足元から蛇さんが笹藪の中に消えていった。チラリとしか見えなかったが、太さ2cmくらい。青大将くんだと思われる。笹の中に入るとしばらくジージーと音がしている。こちらの様子を見ているのかな。「日向ぼっこしてたんでしょ。大丈夫だよ、出ておいで」と話しかけたが、蛇さんは大丈夫とは思えないのだろう、どうやら奥へ行ってしまった。
またまたジゴボウを収穫しながら降る。大きなものを摂ってみたら、傘のところにヤマナメクジが張り付いていた。ヤマナメクジがキノコを食べるというのは本当なんだ。
切り株ごとにのぞき込んで、面白い粘菌らしきものをたくさん見つけた私たちはホクホクしながら車に戻った。
さて、思いのほかたくさんとれたジゴボウ、持って帰って食べて良いものか。とにかく自分達だけで摂った初めてのキノコだ、ちょっと恐い。
市の保健所でキノコの鑑定をしてくれると聞いたので行ってみようか。安心したいのはもちろんだし、どんな風にキノコを見てくれるのかにも興味がある。
そこは『キノコ相談窓口』というところだった。月・水・金の午後1時半〜3時まで開いている。今日は金曜日、到着したのは2時少し過ぎ、ラッキーだったね。私が持っていた袋が半透明で中が透けて見えたせいか、「ジゴボウですね」と聞かれる。「初めて摂ったので、大丈夫かどうか気になって」と話すと、広げた新聞の上に並べて端から一本一本見てくれた。「大丈夫、全部間違い無いですよ」と太鼓判。食べ方まで教えてもらった。
さぁ帰って、今日はおいしいジゴボウとナスの煮物を作りましょう。あ、ジゴボウと言うのは地域の愛称で、本名はハナイグチですって。