わぁ〜見て、思わず声が出る。目の前の低木にびっしりとブルーの実がついている。サワフタギだ。山の人は「瑠璃実(るりみ)の牛殺し」と呼ぶそうだ。枝がしなやかで丈夫だから牛の鼻輪に使われたという。陽の光を受け明るいブルーに輝く実、木陰に隠れて深いブルーを湛(たた)える実、見飽きない美しさだ。
例年何度か足を運んで大きな風景を楽しんできた戸隠鏡池に今年はまだ行っていない。植物園散策や、五社のお参りはしたけれど、鏡池まで足を伸ばす機会がなかった。
まだ紅葉には早いだろうが、花の様子を見てこようとバスに乗った。バス停は我が家から近いので気楽なのだが、最近バスが混むようになったのは戸隠へ行く人が増えたのだろうか。善光寺さんに参拝する人もとても多い。不景気になると神社仏閣にお参りする人が増えると言うけれど・・・その傾向なのだろうか。あまり嬉しくない話だ。
それはともかく、バスはやはり混んでいた。男性が席を譲ってくれて私と夫は座ることができた。
雲が流れて青空が見え隠れしている。木々の葉はトーンを落として秋の気配を漂わせている。浅川ループ橋から飯綱高原を走り、戸隠まで約1時間。森林植物園でバスを降りる。「八十二森のまなびや」に寄って行こうと思っていたが、月曜日のため休館。残念。
ゆっくりみどりが池を回って植物園に入る。ゴマナがまだ白い花をたくさん咲かせている。ハンゴンソウは黄色い花弁が萎れてきている。サラシナショウマが残りの花を白く輝かせている。花には小さな蝶や昆虫が集まってきている。雪が降る前の賑やかさだ。
戸隠の森には何筋もの木道が敷かれていたのだが、この数年荒れてしまい、不通になっている箇所が多い。新しく敷かれた木道は湿原に曲線で伸びていく。そのデザインは画期的とも言えるのだが、手すりがないのは怖い。バリアフリーを意図してのデザインだと思うが、車椅子を押すことを思うととても怖い。そしてしばらくぶりに歩いてみたら、木道はところどころ湿地に沈み込むように上下にも波打っていた。
さらに進むとあちらこちらに穴が空いていて、この荒れ様はなんということだろう。
戸隠といえば有名な観光地、もう少しなんとか整備することはできないのだろうか。私たちが訪れるたびに募金箱に投入するコインくらいではなんともし難いのだろうけれど・・・。
バスは混んでいたし、途中の神社周辺には歩いている人が多かったけれど、森林植物園の奥の散策路を歩く人は少ない。野鳥観察の季節には大きなカメラを持った人たちにたくさん出会うのだが。今日も森の中には鳥の姿がたくさんみられた。カラの混群だろうか、小さな鳥がたくさん飛び交っている。逆光なのでカメラで追うのは難しい。ようやくゴジュウカラの背中を取ることができた。
人間が通る道は荒れているけれど、森の空気はどっしりと深い匂いに満ちている。名前のわからないキノコや咲き残った花にあいさつしながら鏡池に向かう。
鏡池に近づくと沢を覆う様にサワフタギの木が枝を伸ばし、その枝いっぱいに実が光っている。歩いても、歩いても青い実が迎えてくれる。なんだか、すごい。
サワフタギは実がつきにくい木だと聞いていたから、見られないかと思って来た。今年はなんと嬉しい誤算だろう。
綺麗な実を見ながら、足取り軽く鏡池についた。空には雲が多いが、戸隠山についた陰影が山の奥行きを深く見せている。
ここに池を作った昔の人はすごいなぁ。いつ来てもここに立って、戸隠の山、池の面に映る逆さ戸隠をぼんやり眺めてしまう。車でもここまで来ることができるから、何人もの人が同じ様に山を眺めている。
しばらく山を眺めてから、ほとりに建つ「どんぐりハウス」で蕎麦ガレットを食べよう。テラス席から鏡池を眺め、爽やかな風に吹かれながら食べるガレットは美味しさも増すかもしれない。
帰りは鏡池入り口のバス停までのんびり歩いた。ミゾソバか、ママコノシリヌグイか、アキノウナギツカミか、ちょっと見ただけではわからない金平糖の様な小さな花が水の流れを感じるところにたくさん咲いている。同じ花かと思って見ていたけれど、葉の形が違うものがある。次に来た時にはすぐ区別がつくかな。また、宿題をもらったかもしれない。