台風の影響か、風が強く、一気に涼しくなった。かと思うとまた暑さがぶり返し、体が悲鳴をあげる。善光寺さんの境内で毎月催される『びんずる市』、9月になれば涼しいかとやってきた友人たちも暑さに閉口していた。
来る途中の農産物直売所で見つけたというカラス舞茸をお土産にもらい、最初の夜はキノコとアスパラのアヒージョを肴に乾杯をした。
パックに入ったカラス舞茸は栽培ものかと思って買ってきたそうだが、洗い始めると松葉や木の葉を隠していて、小さな虫も隠れていた。その土地の山からとってきたものらしい。洗っても、洗っても水が真っ黒になる珍しいキノコに私たちはみんな目を丸くしていた。初めて食べたカラス舞茸は、シャキッとした食感だった。
友人たちが帰った翌日は午後に予定があったが、せっかくの青空だからと、裏山に向かった。地附山公園が開くのを待つように、駐車場に車を入れる。駐車場には我が家の車だけ。
管理棟の脇のミニ山野草園で西澤さんが水やりをしている。挨拶をしてから歩き始める。
宮城野萩が満開だ。今日は花の間の階段を登ろう。満開を喜ぶように小さな虫や蝶が集まっている。
山道に入るとキノコが多い。この季節になると道端の花は減って、病葉か、気の早い落ち葉の色が目に入る。積もった落ち葉を持ちあげるようにさまざまなキノコが顔を出している。色も形も大きさも、びっくりするほど色々ある。
ゆっくりと森の中を見ながら歩く。私たちにも見当がつくものもあるが、それは稀で、ほとんどのキノコは名前がわからない。以前に見たことはあるが、図鑑で調べてもわからないというものが多い。
「イケさんに聞かなくちゃ分からないね」と話していたら、私の携帯電話が鳴った。西澤さんからだ、なんだろう。「今どの辺ですか?」。
見るキノコ、見るキノコ、目が開かれる。だが、一気に入ってくる情報量にこちらの脳内活動が間に合わない。メモもしていくが、地附山のキノコの量はとても多いので、追いつかない。名前ばかりではもちろんない。食べられる、食べられない、食べてもいいけれど美味しくないなどなどその情報量はすごい。
公園にイケさんがやってきたので、私たちが山に入っていることを話したそうだ。私たちはのんびり歩いていたので、まだ山道に入ったばかり、そこで待ってイケさんと合流した。『噂をすればかげ』だ。
山を歩く時間が一段と楽しくなる。私たちはキノコの量が多いと驚いていたが、イケさんから見ると数日雨が降らなかったので、顔を出すキノコが少ないそうだ。
山頂についてしばらくマツムシソウが風に揺れるのを眺めている。2頭のヒョウモンチョウがひらりひらりと舞う。待っているのは青い蜂、だが現れない。イケさんは昨日も登って会っているというから、まだ来そうなのだが・・・。
青い蜂、ルリモンハナバチは9月の中頃になるとパッタリ姿を見せなくなる。午前中に登っても、午後に登っても、会えなくなる時は突然だ。まだマツムシソウが咲いているとか、気温はかなり高いとかいう人間の物差しではない何かがルリモンハナバチに囁きかけるのかもしれない。
でも諦めないでまた来てみよう。明日は来るかもしれない。
地附山山頂を後にして、桝形城跡に向かう。そろそろアオハダの実が色づいているだろう。とても小さな真っ赤な実をつけるアオハダだが、頭上高くあり、濃い緑の葉陰に隠れているのでつい見逃してしまう。もっと季節が進めば足元に落果が転がっているので見つけることができる。今はまだ実が若いので樹上で光っている。
このアオハダの黄色い実があることを昨年イケさんに教えてもらったが、発見できなかった。今日はイケさんが指差して教えてくれた。本当に黄色い実が光っている。少し離れたところには赤い実、どうしてこの違いが生まれるのだろう。
みんなで上を見上げながらのんびり立っている。桝形城跡を目指してくる人はいない。そういう私たちも、地附山には数多く登っているが、桝形城跡まで足を伸ばすことは少ない。目立つ花が少ないというのがその言い訳かもしれない。
私には粘菌やキノコが多いというイメージがある。ここで珍しい粘菌をいくつも見つけた。
そして今日はイケさんがキノコを教えてくれる。
教えてもらったキノコを大事に抱えて、家に帰る。今日も美味しいキノコをいただいて舌鼓を打つ。