8月も終わろうかという頃になって、アルバイトの休みが取れたという孫がやってきた。今年二十歳になったから、夕食に一杯酌み交わそうと楽しみにしていた。
1日のんびりできそうだったから何かしたいことはないかと聞いたら、蕎麦が食べたいという。美味しい蕎麦が食べたいと言いながら、長野の蕎麦は美味いよねと笑う。
他に予定もないことだし、空模様も落ち着いているようだから、戸隠に行ってみようか。美味しい戸隠の蕎麦を食べてこよう。
家の近くのバス停から戸隠キャンプ場行きのバスに乗る。平日はいつも比較的空いているのに、この日は満員。立っていくことになった。浅川ループ橋から飯綱高原を走り、戸隠に向かう。カーブが多い山道、立っているのも疲れたそば博物館バス停でようやく席が空いた。私たちは奥社入り口でバスを降りる。
雲は多いが、隙間からのぞく青空は濃い青に澄んでいる。秋の空だ。
小さい頃来たのは覚えていると言いながら、奥社へ向かう。参道脇にはオオシラヒゲソウが純白の花を開いている。「レースみたいで綺麗でしょう」と言うと、う〜んと苦笑い。「あんまり花のことはわからない。虫が嫌い、トカゲや蛇はまぁまぁ」などと話しながら歩く。
動物が好きだから「クマさん出てこないかなぁ」などと言っている。「いや、クマが出てきたら怖いから」と言うと、「この辺には出ないの?」と聞く。そんなことを話していると、前に『熊出没注意』の看板が。「クマさんいるんだ」、嬉しそうに言うけれど、いきなり現れたら大変だからね。
随神門を通り、杉並木を歩く。杉の巨木が続く参道にはどこか気が引き締まる気配が漂う。パワースポットなどと呼ばれるところはこんな雰囲気なのだろうか。大きな杉の幹に洞があるところにはしめなわが回してある。小さい頃はこの穴に入れたんだけれどね、大きくなったね。
道の脇には秋の花が咲いている。ジャコウソウやソバナはそろそろ終わり、ツリフネソウが咲き出している。ノブキは群生しているが、実になっているものが多い。ホソバノガンクビソウは満開だ。私が「咲いているね」と言いながら写真を撮ると、孫は「それで咲いているの?」と驚く。確かにとても地味な花だ。
小石がゴロゴロしている階段状の道を登ると標高1350mの奥社に着く。冷たい水で手を清めて、お参りする。目の上には戸隠山の岩がゴツゴツと聳えている。「あそこも登れるの?」と見上げる孫はスポーツマンだけれど、山登りにはあまり興味がないらしい。
奥社と、隣の九頭龍社にお参りして降ることにする。背丈ほどもある草藪にはツルニンジンが絡みついて壺型の花をぶら下げている。
山を降ったら、美味しい蕎麦だ。中社まで降りて、目指す蕎麦屋さんに入る。大好きな蕎麦と天ぷらに舌鼓を打つ顔は幼い時のままだね・・・という思いは胸の内にとどめ、口には出さない。あっという間に大人になって・・・。
蕎麦を食べたら、やっぱり中社にお参りしようか。大きな鳥居をくぐり、太い三本杉を見上げてから、標高約1200mの中社に参拝。小さな滝の脇には涼しい風が吹いていて気持ち良い。
さて、この後どうしようか。「ここからバスに乗って帰ってもいいんだけれど」と言うと、「あと二つの神社は遠いの?」と孫。歩いていけると話すと、せっかく来たからみんな行こうと即決。
まずは火之御子社へお参り。そこから神道(かんみち)を通って宝光社まで歩く。森の中の道は気持ち良い。途中小鳥の森散歩道という脇道が見える。いつか歩いてみたいところだ。道の法面には大小様々なキノコが顔を出している。今年の夏は雨が多いからキノコが豊作だ。ほとんど名前がわからないキノコだけれど、以前キノコアドヴァイザーに教えてもらったチチタケはわかる。とても美味しいそうだけれど・・・、やはり野に置け、だ。一人で採って食べるのは躊躇する。
最後に宝光社(標高1109m)にお参りした。社殿彫刻を見上げてから、急な階段を降りる。ここからはバスだ、近くのバス停に向かう。帰りのバスも混んでいたので急行ではなく、県道周り線に乗り換える。このルートは私も初めてだ。カーブの多い山道から蕎麦畑や戸隠山を眺めながら家に帰った。
翌日、孫は早朝の新幹線で次の目的地に向け出発。ほとんど客のいない始発の新幹線に孫と一緒に座った夫は「一緒に行きたいなぁ」。