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孫と歩いた冬の森 有明山 652m(長野県)

2020年3月11日(水)


photo1森将軍塚古墳
森将軍塚古墳

コロナウィルスの感染拡大を危惧して学校が休校になっているため、子どもたちの居場所が社会的な課題になっている。我が家でも、アルバイトもお休みになったという高校生の孫が一人やってきた。

人の集まるところは避けたほうが良いけれど、屋外なら大丈夫だろう。青空が広がった日、千曲市にある森将軍塚古墳に出かけることにした。4世紀の古墳を再現したという小山のような塚には、埴輪が並べられ、楽しめる。眼下には長野の市街地が広がり、時折新幹線の走る音が響く。見晴らしの良い空間は気持ちが良い。

photo2森将軍塚古墳の上で
森将軍塚古墳の上で

photo3古墳からの眺め
古墳からの眺め

暖冬だからか、季節が良いのか、ポカポカ暖かい日の下を、いつの間にか私たちよりも背が高くなった孫と歩いた。

map:有明山

平日なのに子どもの姿が多いのはやはり休校の影響だろう。話しかけてきた老婦人は「もう80(歳)になるんですけどね、毎日1万歩は歩いています。病院に行くよりいいでしょ」と笑顔。孫はその元気さにびっくりしている。

しばらく見晴らしを楽しんで、今度はもう少し上から古墳全体を見下ろしてみようと、高台を目指す。するとそこに有明山まで1kmの道標が。

photo4古墳を見下ろす
古墳を見下ろす

photo5明るい森の中を行く
明るい森の中を行く

一気に嬉しくなったのは私。「たった1kmだよ。行こう」と言う。孫も、「1kmならすぐだね」と賛成。足元は普通のスニーカーだったけれど、道もそれほど険しくなさそうだったので、行ってみることにした。

落葉樹の森は落ち葉が積もってフカフカ。麓を走る新幹線や高速道路が近いので、その音が賑やかだが、山に踏み込むと人口的な音は遠くなり、変わりに鳥の声が近くなる。シジュウカラやエナガが枝を渡り歩いている。

歩いていると、頭上にも、足元にもウスタビガの繭が多いことに気づく。綺麗な緑色のもの、もう潰れた白いものと様々だが、とにかく数が多い。

photo6ウスタビガの繭とヒオドシチョウ
ウスタビガの繭とヒオドシチョウ

photo7気持ち良い冬の森
気持ち良い冬の森

photo8落ち葉の道
落ち葉の道

孫は小さな虫が嫌いだと言う。私とて、顔の周りにうるさく飛ぶのはいやだけれど、虫が多いということはそれを餌にする鳥たちも豊かだということだろう。この季節は、その虫も少ないので、孫もなんとか歩いている。歩いている側を、落ち葉と見間違えるようなオレンジ色の蝶が舞う。ヒオドシチョウ。羽が傷んでいるものも多い。ちょっと歩いただけで、たくさんの小さな生き物に出会う。

少し登ると、道は急になってきた。前日の雨の影響が残っていて、油断するとズルッと滑る。道の脇にはロープが張ってあるが、ロープに頼るほどのこともなく登っていく。だんだん体が暖かくなり、コートを脱いで歩く。何回か、小ピークのような頂に騙されていくうちに山頂についた。「絶対1kmよりあるでしょう」とは孫の感想。「上りのエネルギーを換算しないとね」とは経験者の弁。

photo9高尾山
高尾山 2005.12.24

photo10筑波山
筑波山 2006.1.29

この孫とは何度も山に登っている。小さい頃はただお出かけの楽しみでついてきたと思うが、秋の高尾山周遊、雪の積もった筑波山など、懐かしい思い出だ。孫は、自分の3歳頃の写真を見て笑っている。

長野に引っ越してからは裏山にも行った。虫取り、雪探し、動物に会いに・・・と、何回も山歩きを楽しんでいる。

photo11地附山
地附山 2013.7.31

photo12東館山
東館山 2014.7.30

「こんなに可愛かったんだねぇ。この子はどこへ行ったんだろうねぇ」と言う私に、「いないねぇ」と孫。二人で大笑い。

さて、話を「今」に戻そう。有明山の山頂も雑木林の中。里の音はあまり聞こえない。ポカポカと気持ち良い森の中だ。この先に続く尾根を行くと五里ヶ峯に続いているらしいが、今日はここまで。3時間ほどのコースを行くには準備が必要だ。

photo13有明山山頂にて
有明山山頂にて

虫が嫌だの、靴が泥んこになるだの、ぶつぶつ言いながらも山頂のひと時を楽しんでいる孫に、私はなぜか安心する。心底嫌そうではないからだ。自然はいいなぁなどとも呟く小さな声が聞こえる。レイチェル・カーソン(1907-1964アメリカの生物学者)の『センス・オブ・ワンダー』のように、自信を持って自然の中に連れ出したわけではないけれど、前になり後ろになって歩くうちに、自然のいだいている大きなエネルギーを一緒に受け取っているような気がする。

頭上の木の枝を小鳥が飛び交っている。孫は野球をやっていたせいか、動くものは小さな小鳥でもすぐ見つけて教えてくれる。薄いブルーグレーの小鳥がしばらく枝の上を歩いていた。逆さまになって歩いている。家に帰って調べたら、ゴジュウカラ。木の幹を下に向かって逆さまに歩ける唯一の鳥なんだそう。

photo14ゴジュウカラ
ゴジュウカラ

山頂の空気を満喫して、再び将軍塚古墳に下りる。雲に覆われていた飯縄山が綺麗に見えてきた。

photo15飯縄山(右奥)と北陸新幹線
飯縄山(右奥)と北陸新幹線

photo16復元された科野のムラ
復元された科野のムラ

古墳を降りると、縄文時代から弥生時代に続いた遺跡の、竪穴住居や高床倉庫などを復元したという、科野のムラがある。その藁葺き屋根の向こうに霞むように広がる、紅梅の紅をしばし眺めてから家路についた。




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