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長野市花めぐり8月(長野県)

2019年8月 

photo レンゲショウマ
レンゲショウマ


あっという間に8月が過ぎていった。高原に、裏山に、そして近所の公園に、長野市内をそぞろ歩き、花に出会う。今年は異常に暑かったけれど、草花は元気に花開いている。小さな花たちを見つけると嬉しくなるが、私の持つ自動カメラではなかなかピントが合わせられなくて悔しい。

まぁ、そんなことは野に咲く花たちにとってはどうでも良いこと、私も呑気にいくことにしよう。


photo キキョウ
キキョウ

photo リンドウ
リンドウ

これまでなかなかチャンスがなく、出会えなかった花に初めて会うことができた。レンゲショウマ。薄紫の大型の花は、ハスの花が下向きに咲いているようでなるほど蓮華、誰が名付けたか、感心する。雨模様の日に見たので花に雫が宿り、風情ある姿だった。


photo ツルリンドウ
ツルリンドウ

photo マツムシソウ
マツムシソウ

「暑い、暑い」とぼやいていた日々は短く、長野は秋が近い。涼しい風が感じられるようになってくると、高原には紫の花が増えてくる。アザミたちもそうだが、キキョウ、リンドウ、ツルリンドウ、マツムシソウ・・・まだまだありそうだ。

そうそう、森の中に大きく伸びて小さな花火のような花を散らしているシキンカラマツや、気取った冠の形のレイジンソウもうっすらと紫だ。8月の終わりに山道を歩いていてヤマトリカブトを見つけたが、綺麗な紫の花だ。これから秋が深くなってくるとたくさん咲きだすだろう、楽しみだ。

photo シキンカラマツ
シキンカラマツ

photo レイジンソウ
レイジンソウ

photo ママコナ
ママコナ


紫というよりは赤に近い花も草原を彩る。ママコナやツリフネソウは派手な色だが、ワレモコウは暗紅色というか、地味だけれど心惹かれる花だ。私たちはただ花を美しいと愛でるだけではなく、人の想いの歴史もそこに見て取ることがあるからかもしれない。花の名をつけるときに花が自ら『私も紅ですよ』と言ったとか。その心意気、見習いたいくらいだ。

photo ワレモコウ
ワレモコウ


8月の初めに戸隠に出かけたときにはポツリポツリと咲いていたツリフネソウ、キツリフネが、8月の後半にはどこまでも広がって咲いていた。水辺が好きな花だから、植物園の水の流れに沿うように咲いているのだが、私はこんなにたくさん一斉に咲いているのを初めて見た。思わず見事とうなった。戸隠といえば、木道が荒廃して通行止めになっている区間が長い。花々の観察に野鳥の観察にと、楽しみにしている人も多いだろう、できるだけ早く修復できることを願う。

photo ツリフネソウ
ツリフネソウ

photo キツリフネ
キツリフネ


夏から秋にかけては大型の花が咲く。白い花が多いような気がするが、それはシシウドの大群落のイメージがあるからだろうか。今年も山腹に立ち、空まで届くような花穂をたくさん見たのだが、いつも車の窓からで、つい見とれて過ぎてしまっていた。

オオウバユリやシラネセンキュウ、ドクゼリなどの花は近くで見ることができた。ウバユリはともかく、セリ科の細かい白い花がたくさん咲く花(花火のような形は複散形花序というそうだ)はなかなか見分けがつかない。花や葉の写真を撮って、家に帰って図鑑を開くのだが、それでもわからないことの方が多い。もっと、もっと花に近づいていけば、それぞれの顔が見えてくるのだろうか。

photo ドクゼリ
ドクゼリ

photo シラネセンキュウ
シラネセンキュウ

photo オオウバユリ
オオウバユリ


photo サラシナショウマ
サラシナショウマ

同じように白い小型の花が集まって咲く花でも、サラシナショウマはその形で見分けることができる。


遠くに足を伸ばさなくても会える花に、キンミズヒキやメマツヨイグサ、ヒヨドリバナなどがある。我が裏山にはこの季節サジガンクビソウが頭をもたげている。


photo キンミズヒキ
キンミズヒキ

photo メマツヨイグサ
メマツヨイグサ

photo ヒヨドリバナ
ヒヨドリバナ


photo サジガンクビソウ
サジガンクビソウ

photo ミヤマウズラ
ミヤマウズラ

photo アケボノシュスラン
アケボノシュスラン


裏山の枯葉の積もった道を一歩一歩、花たちを見つけながら歩く至福のとき。我が家特製のミョウガ味噌漬けおにぎりでもリュックに忍ばせてあれば、もう言うことなし。同じ山に何百回も登っている人に比べればあまりにわずかだけれど、それでも数十回同じ道を歩いた心安さがある。そして季節ごとの楽しみももちろんある。今年もミヤマウズラに会えた。深い森の中に小さな白い花を掲げている。うっかり歩けば見落としてしまいそうな花だが、じつは森のあちらこちらに顔を出している。

photo アケボノソウ
アケボノソウ


ミヤマウズラに似た花をもう一つ見つけた。こちらは裏山ではないけれど。アケボノシュスラン、咲く場所によっては紅が濃いものもあるらしいが、私が見つけたのは白に近い花色でうっすらとピンクがかっていた。この花の色は曙の空の色に見えたらしい。


曙といえば、その名の通りのアケボノソウもこの季節に咲き始める。ただ、このアケボノソウは暁の空の色ではない。どうしてこの名だろう?

photo オオシラヒゲソウ
オオシラヒゲソウ

図鑑によれば、花の濃緑色の斑点を夜明けの星空に見立てたのだそうだ。そうなのか・・・なんとなく納得しにくい。というのも、小さな花の小さな斑点を大空に対比するというのがねぇ、でもこれは、私自身の小ささを表す感想かもしれないけれど。

アケボノソウを探しに行った高原で、オオシラヒゲソウにも会えた。日本海側の山地に咲く花だそうだ。細かい造形が見事で、見る花見る花写真を撮りたくなってしまう。そう思って一つ一つのぞいて歩くと、この花の蜜は美味しいのか、どの花にも小さな昆虫が止まっている。時には一つの花に何匹もの昆虫が頭を寄せ合っている姿も見られる。仲良くねと、声をかけたくなってしまう。

photo 森を覆うマント植物
森を覆うマント植物


photo カラスウリ
カラスウリ

夏、旺盛な繁殖力を持つ花々がいっぱいだ。マント植物と言われるツル性の植物の勢いは驚くほどだ。森林の淵に覆い茂り、マントのように日差しを遮ってしまうので、その森林の他の植物を枯らしてしまうほどの勢い。ところがこのツル植物、意外に綺麗な花が咲く。クズの赤紫は目を惹く美しさだし、ヤブガラシの造形は見れば見るほど面白い。ボタンズル満開の姿は華やかな衣装を着た踊り子たちの群舞のようだ。カラスウリなどはもう芸術作品かと思わせられる。ただ、カラスウリは夕方から花開いて、朝には閉じてしまうので、綺麗に開いている姿を見るのは難しい。我が家の子どもたちが小さい頃、電車に乗って出かけ、夕方の山道で花開くのを待ったこともある。幸い長野は山が近い。家から歩いてすぐのところにたくさん見ることができる。もちろん夕方暗くなるのを待って見に行くか、早朝散歩をしている夫のように、朝早く会いに行かなければ見られないけれど。

photo クズ
クズ

photo ヤブガラシ
ヤブガラシ

photo ボタンヅル
ボタンヅル

その繁殖力ゆえに嫌われることが多いけれど、クズの根には多量のデンプンが含まれ、葛粉がとれる。私が尊敬していたコンサベーショニストの柴田敏隆先生(※)は、クズの花はグレープフルーツの香りがすると観察会に集まった子どもたちに話し、一緒に匂いを嗅いでいた。柴田先生が鬼籍に入られてから数年が経つ。懐かしい思い出だ。

そう言えば、ママコノシリヌグイというすごい名前の花も、ヘクソカズラという嫌われ者の花も、柴田先生は面白おかしく解説しながら紹介していた。笑いながら話を聞いた子どもたちは、その花のことをきっと忘れないだろう。

photo ママコノシリヌグイ
ママコノシリヌグイ

photo ヘクソカズラ
ヘクソカズラ

棘のある草で子供の尻を拭くなどという、継子いじめが花の名前につけられるという社会は冗談にしてもあまりに悲しいが、実の子供でも虐待してしまうという現代の病理はより深く恐ろしい。自然の中で活き活きと過ごした子どもたちが豊かな感性を持って社会へ飛び立っていけるよう、願わずにはいられない。

ヘクソカズラは、茶色の光沢のある実を触ってしまったことがある人ならば、その名前にうなずくだろう。けれど、名に似合わぬ美しい花を咲かせる。


さて、余談が長くなったが、山はこれから一気に秋の姿に変わっていくだろう。夏の名残と秋の気配を感じながら歩く山ではどんな花に会えるだろうか。

photo ノブキ
ノブキ

photo エゾシロネ
エゾシロネ

最後になるが、8月の山で会った地味な花たちを忘れずに思い出して、また山へ出かける元気をもらおう。ノブキの小さな花と実の造形の面白さ、そしてエゾシロネの花のなんと控えめな姿だろうか。


コンサベーショニスト:日本で柴田敏隆氏(1929–2014)が初めて名乗る。 自然をその摂理のもとに使いながら、自然を守ろうとする専門的な働きをする人。




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