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長野市花めぐり7月(長野県)

2019年7月(長野市)


7月の爽やかな高原を思い出すと元気が出る。空気が澄んで、風が流れていくお花畑をゆっくり歩く至福のとき。ところが、今年はどうしたことだろう、毎日重い雲が空を覆っている。前線が日本の南に停滞しているとか・・・。そのため、梅雨が長引いてしまっているのか、スカッと晴れない。

カキラン

クモキリソウ

モウセンゴケ

毎年同じ場所を歩いて、目当ての花が元気で咲いているのを見つけると、ほっとする。どこにでも咲いていたと思える花でも、ふと気づくと絶滅危惧種にランクされていたりする。花によっては、咲いている場所を明らかにしないことが求められている。

環境の変化、森林破壊や、温暖化などによる現象も大きいと思うが、人間の目先の欲による盗掘の被害も恐ろしいのだ。

ショウキラン 2015年撮影


花はいつでもそこにあると、つい思ってしまう。一昨年ほど前に見つけた、カモメランやショウキランをもう一度見ようと出かけたけれど、どちらも見ることができなかった。

カモメラン 2017年撮影

カモメランを探して、草の中を目こらしながらウロウロしていると、「何を探しているの」と、男性が近寄ってきた。その男性は、カモメランがそこにあることを数年前に発見したという。発見した翌年にはかなりの株が盗掘されてしまったのだそうだ。こっそり隠しておくか、きちんと囲ってみんなに大切に見守ってもらうか、かなり悩んだのだそうだが・・・。今年は、もう花の盛りを過ぎるころに見に行ったのだが、小さな葉が芽を出しているばかり。苔が繁殖しすぎているからだそうだ。「今年は咲かないね」と、男性も寂しそうだった。例年になく多量の雨と気温の上昇が、苔の繁殖を促したのかもしれない。


ニッコウキスゲ

カラマツソウ

ヤナギラン

ノアザミ

夏の高原といえば思い浮かぶのは、ニッコウキスゲだろうか。鮮やかな明るい黄色が日を受けて緑の海に浮かんでいる様は、いつ見ても清々しい。そして私の好きなのはカラマツソウ。大型の草丈の先端にたくさんの白い花火を散らしたような姿が高原らしい。黄色、白の次はピンク、ヤナギランの明るいピンクも忘れてはならない。私が若い頃は群落になっているのをよく見かけたのだが、最近はあまり大きな群落を見ない。関東の山の上では鹿に食べられてしまったと聞いたことがある。遠くからでもわかるピンクの波は、心をウキウキさせてくれる。

濃い色の花と言えばアザミもそうか。アザミといえば秋のイメージだけれど、ノアザミは春から咲き始める。草原に彩りを添える花だ。

オニシモツケ

ヤグルマソウ


春先は小さな花が楽しませてくれるが、夏になってくると大型の花が咲き競う。今年草原でたくさん見たのは、オニシモツケ、ヤグルマソウ、ヤマブキショウマ、オオナルコユリなどの白い花が多かった。

ヤマブキショウマ

オオナルコユリ

メタカラコウにヒョウモンチョウ

黄色いメタカラコウが開き始めて、そこにいち早く蝶が集まっているのも草原の風景か、水の近くに多く見られる。ヒョウモンチョウ、シジミチョウ、タテハチョウなどの仲間が、色々なところでたくさん舞っていたが、その種を特定するのは難しい。家に帰って、図鑑を開くのも楽しいのだが、特定はなかなか難しい。蝶や鳥、昆虫など、素早く動くものには、苦手意識がある。しっかり見えない、写真もなかなかうまく撮れない、つまり名前も特定しにくい。名前がわからなくても、そこにいる姿に見とれて、ほーっと時を過ごすのもまた良いと思っているのだが、一方でせっかく名前があるのだから、その名前で呼んでみたいとも思ってしまう。

シャクジョウソウ

ギンリョウソウ

コバノフユイチゴ

森へ入る時間が多くなってくるほどに、わずかずつ彼らとも近くなっている気もするのだが・・・。

深い森の中を歩いていて足元を見ると、葉緑素を持たない不思議な花に会う。ギンリョウソウ、シャクジョウソウなど、幽霊花と呼ばれるのがうなずける、透き通ったような姿だが、花の中を覗くと綺麗な色で飾っている。ギンリョウソウの紫などは、ハッとする美しさだ。道の脇に、ポツポツと光を集めたように続いているのを見ながら歩くと、暗い森の中の道も楽しくなってくる。花が終わる頃になると、小さな壺型の実を掲げるようになって、その姿もまた愛らしい。


オオチドメ

森の下に広がるように咲く花には、コバノフユイチゴや、ツルの先に咲くアカネなどがある。コバノフユイチゴは長野市や北信の山麓には広く分布していて、秋には赤い大きな実が森の底に光るのだ。

アカネ

少し開けたところには、一面にオオチドメが花穂を伸ばしていてキラキラ光っている。小さな、小さな花が、そこを歩く私に元気をくれる。

アカネは根から赤い染料が取れるからその名がある。角ばったツルも四方に開く葉も、わかりやすい目立つ姿なのだが、花はあまりに小さくてつい見過ごしてしまう。しっかり目にとめて、ゆっくり歩こう。

ケナツノタムラソウ


今年の7月はあまり回数多く山歩きをしなかったのだが、初めてしっかり名前を覚えた花がある。これまでにも何度も見ていたのだけれど、その地味な色合いと、花の小ささに、写真を撮ることを忘れ、図鑑と照合できなかったものだ。ケナツノタムラソウ。タムラソウとつく名前から、ついアザミのような花かと思っていたのだが、全く違う姿だった。カモメランを発見したという男性が、写真を撮ったりメモをしたりしながら、私たちと前後して森の中を歩いていた。彼が、このケナツノタムラソウを探していたらしく、私がしゃがみこんで写真を撮っているのを見て、「あ、ここにあったね」と言いながら近づいてきた。その近くの広場にたくさんあったのがなくなっているそうで、「あった、あった」と嬉しそうだが、私は名前も知らず、その小さな花にピントを合わせようと必死になっていたのだ。


面白いキノコ(名前不明)

ハナビラタケ

近くには、キノコもたくさん生えていて、やはり今年の雨の多さを感じさせられた。ハナビラタケらしいキノコも発見して、喜んだ。図鑑には様々なキノコが載っているが、山道を歩いているだけではなかなか珍しいキノコは発見できないものだ。キノコは動かないので、見つけると写真を撮って、図鑑で調べるのだが、菌類はなかなか手強い。その世界はあまりに深くて、我が家の小さな図鑑に載っているようなのはごく一部らしいのだ。最近夫が楽しんでいる粘菌などまで含めると、とても奥深く、面白いけれど、難しい。

善光寺 大賀ハス


草原に、森に、湿原に、それぞれの花が美しいが、もちろん街の中にも花は咲いている。長野市の中心、善光寺の池には大賀ハスが毎年大きな花をつける。2千年前の蓮の種子を発見、見事に開花させたものを、十日町から譲り受けたという。発見者の大賀一郎氏の名前をもらって、大賀ハスと言うそうだ。しかし今年は、例年になく株が寂しい、荒れた感じがする。昨年までは、池が埋まるのではないかと思うほどの勢いだったが、今年は枯れ茎も痛々しく、池が透けて見えている。


毎年、異常気象というニュースを聞くような気がする。少しずつ変化していって、ふと気がつくと全く別の流れの中に立っているというようなことが起こるかも知れない。自分たちがどこに向かっているのか、自然の花々に教えてもらえることもあるような気がする。

ウマノアシガタ

今年も高原に照り輝くウマノアシガタを見た。キンポウゲという可愛らしい名前もあるのだが、インパクトの強いウマノアシガタで知られている。いつまでもそこにあれよと願ってしまう。

自然の変化といっても、私の知るのはごく一部の植物の姿だが、その小さな世界の中でもいつの間にか減ってしまっているもの、異常発生して困ってしまうものなど見ることができる。自然も、この地球上の大きな変化に困っているのかもしれない。




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