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長野市花めぐり5月(長野県)

2019年5月(長野市)

地図・長野市と周辺市町村



長野の果物といえばリンゴ。5月の声を聞くと、リンゴの花が一斉に開く。リンゴ畑の木は美味しく収穫しやすく、横に広がった形に剪定されている。花が開くとその不自然な形が隠される。ピンク色の蕾が開くにつれて純白になって、濃い緑の葉と美しいコントラストを描く。

リンゴ

この頃から、山にも春の花が圧倒的な勢いで咲き始める。4月に長野市の山里を歩いて、様々な花に出会った。そして思ったより長野市という範囲が広いことを知った。かつて、怖いような山道を何時間か走って行った奥裾花も、何回か登った北アルプスの展望台、聖山だって北側の旧大岡村は長野市。まだまだ歩いてみたいところがたくさんある。


でもやはり最初に歩くのは我が家の裏山。5月の裏山はヤマブキが満開だ。淡い色のヤマブキと濃いヤエヤマブキが斜面一面を黄色に染める。毎年「わぁー綺麗」と言いながら眺めていた。ところが花を近くでじっくり見比べたら、なんとヤマブキが4種類もあるようだ。驚き。すごい発見をしたような気分で、ヤマブキの色に包まれた。

ヤマブキ4種

トキワイカリソウ

イカリソウ

いくつかある我が家の裏山には、もう一つ楽しみな花がある。冬も葉を残している、純白の花トキワイカリソウ、そして雪の下から芽吹いてきた、赤い花のイカリソウ。

今年も綺麗なイカリをぶら下げていた。この絶妙な形はどうだろう。自然の驚異としか言いようがない。

イワナシ

ミツバオウレン

ヤマエンゴサク

オオバキスミレ

イカリソウもそうだが、春一番に雪の下から顔を出す花は特徴のある形をしていて芸術的。イワナシの可憐なピンクの筒形、ミツバオウレンの花火のような純白、ヤマエンゴサクの細長い紫、オオバキスミレの明るい黄色、今年は欲張って何回も山に入ったからいろいろなところで出会うことができた。

ミズバショウ

雪の深さ、標高などによって、同じ長野市内と言っても花の咲く時期は異なる。そして年によっても違ってくる。だから面白いと言えるかもしれない。

最近、奥裾花の水芭蕉が有名になり観光客がたくさん来るらしい。5月も半ばになれば観光客も減るだろうと思い、出かけてみた。数えてみればちょうど20年前、関東から車でやってきて少し遅めのミズバショウを見た。迫る崖沿いの渓谷の道を、ハラハラしながら走った。すれ違いも困難な怖い道だったと記憶している。今、観光シーズンには自然園まで季節運行のバスが走っているというので、今年はバスで行ってみた。さすがに20年の歳月を感じさせる、走りやすい道になっていた。バスの窓から眺める風景は、夫と共有できて嬉しい。運転していては周りの風景を楽しむゆとりはないから。

リュウキンカ

奥裾花自然園 2019.5.15

雪の中からミズバショウ

奥裾花のミズバショウはまだ雪の下になっているところも多かった。入り口に近い広い湿原には一面に白い苞が揺れている。リュウキンカはまだ少なかった。奥の湿原は雪が多く、観光客もほとんど来ない。ただ1人、大きな熊鈴をつけた男性が木道の柵を直しながら歩いていた。

さらに奥に行くと、ブナ林の地面は雪に覆われ、その雪の上を歩くのは私たちだけ。道のない雪原を、地図と木に巻かれたテープを頼りに歩いた。鳥の声が響く森の中の優雅な時間だった。

黄色いミズバショウ

奥裾花の茶屋で赤吉備団子などを食べ、茶屋の主人夫婦と話した。孫の小学生が書いたのだという自由研究が壁に貼ってあった。キイロスズメバチの子を取るための仕掛けや、山奥まで追いかけていく様子が丁寧に書いてある。ここの主人夫婦は蜂の子を取るのが趣味なのだそうだ。自慢そうな笑顔で、孫の話をしてくれた。そして、黄色いミズバショウがあるよと教えてくれた。軽井沢の植物園で見たことがあるけれど、自然の中にあるとは驚きだった。


奥裾花まで足をのばすのはちょっと散歩という訳にはいかないけれど、戸隠高原の周辺は我が家からも近く、道も良いので時々ふらりと出かける。野鳥の宝庫と言われるだけあって、歩きやすい森林植物園には大きな望遠レンズ付きのカメラを持った人がたくさんいる。ところが高台にある植物観察園には、いつ行っても人がいない。そう言う私たちも、行くのは5月だけ。今では自然の山道で会えなくなってしまったトガクシショウマに会えるから。かつては普通に見られたというが、環境の変化と盗掘によって絶滅しそうな花だ。

トガクシショウマ

サンカヨウ

シラネアオイ

ニリンソウ

ここにはシラネアオイも植えてあり、ちょうど満開だった。夫の好きなサンカヨウも咲いていた。サンカヨウには山道で何度か会うことができたが、シラネアオイに会うのは難しくなっている。この花も盗掘の被害が大きいそうだ。

長野の春は少し歩くとミズバショウやリュウキンカ、ニリンソウの群落に出会えるのが嬉しい。山間の水の流れるところにミズバショウが咲く、そしてミズバショウが終わる頃には、入れ替わるように満開になるニリンソウ。一つ一つの花は小さいけれど、一面に咲くから白い道のようになる。斜面にはミヤマカタバミやキクザキイチゲも目を引く。スミレも至る所で群落を作り地面を染めているが、種の特定が難しい。ツボスミレなどは、かつて暮らしていた神奈川でも湿地に行けば大群落があったのだが、どんどん減ってしまった。長野の山道で出会うと、なぜか懐かしく嬉しい。


ミヤマカタバミ   アマナ

キクザキイチゲ   ツボスミレ

見た目の派手な花は欲張りな人間の手で減っていくが、地味な花は森の中でたくさん見ることができる。これを喜んでいいのか悩むところだが、花が元気なのは嬉しいこととしよう。花が淡い黄緑色で目立たないルイヨウボタン、細い葉の先に開く可憐なアマナ、森の大地をカバーするようなフッキソウ、花がぶら下がっているのがわからないほど小さいタケシマラン、そしてどこが花か分かりにくいネコノメソウの仲間。どれも、その地味さが私は好きだ。

ルイヨウボタン

フッキソウ

ネコノメソウ

タケシマラン

中でもネコノメソウは雪解けの湿気の多い土地に早春花開くが、花とは思えないほど小さい。以前、私がカメラを向けていたら通りかかった人たちが「何を撮っているの?」と聞き、私が指さしたネコノメソウを見て首を傾げたことがあった。日本には14種があると図鑑に書かれているが、識別が難しいともある。ネコノメソウは雄しべが4個なので、私にもわかる。もう少し勉強して見極められるようになりたいと思っている。

目立たないと言えば小さいと同義語みたいだが、大きくても目立たない花もある。ツクバネソウの仲間がその一つで、エンレイソウやツクバネソウ、クルマバツクバネソウなどは大きな葉だけれど、花が咲いていてもあまり注目されないようだ。


クルマバツクバネソウ  ツクバネソウ

やはり葉に特徴がある花で、今年初めてじっくり見ることができたのがイワヤツデ。ユキノシタ科の花で、観賞用として知られているらしい。ラン科の多くの花もそうだが、観賞用に売られている野草を街で見ることに、私はあまり興味がない。もちろん山で会えればとても嬉しいが。

エンレイソウ   イワヤツデ

滝野瓢水の句『(手に取るな)やはり野に置け蓮華草』はあまりにも有名だ。文字のまま自然の花に例えればまさにその通りと言いたくなる。栽培に成功した株を日々の慰めに庭に植えて眺めるのも、苦労して絶えないように育てるのも良いと思うが、野山から掘ってくるのは許せない。昔の人は知恵とともに自然の中に入ったから、大切な資源を後世に残しながらその恵みをいただくすべを知っていた。


善光寺花回廊 2019.5.4

ユリノキ

だがもちろん、花々が春を告げるのは山だけではない。

毎年5月の連休には、善光寺の表参道が花で飾られる。花回廊という行事で、お隣の新潟県から運ばれたチューリップの花びらを絵の具がわりに、道路に絵を描いていく。連休でもあり、歩行者天国になった中央通りは人でいっぱいになる。

善光寺のお隣の城山公園は桜の名所だが、5月にはひっそりとユリノキの花が開いている。高い木の上に咲くのであまり見ている人はいないけれど、チューリップのような花は可愛らしい。チューリップツリーという別名が頷ける。北米東部の原産地では高さ60メートルにもなるそうだ。


ヤマボウシ

ハクウンボク

山草を採って庭に植えるのは好きではないと言ったが、枝を挿して根づくのを待ったり、種子を拾ってきて芽が出るのを待つのは楽しい。花束の中のバラを挿すと根づくことが多い。数えたら7種類もあって、びっくりする。まだ力がないので、花つきは遅い。

種子から育てたハクウンボクが今年見事に咲いた。孫が小さい頃住んでいた神奈川の街に、ハクウンボクとヤマボウシの並木があり、秋には孫と一緒に実を拾って遊んだ。その時の種子が育ったのだ。ヤマボウシは昨年花をつけたが、ハクウンボクは1年遅れて、今年初めてだ。あの頃一緒に実を拾って遊んだ幼稚園児だった孫が、今は高校生になったから・・・あれから10年もの年月が経っている。




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