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黒倉山 1242mから鍋倉山 1289m(長野県・新潟県)

2016年10月31日(月)


長野県と新潟県の境に連なる関田山脈は、関東に住んでいる頃から遠くあこがれの地だった。ブナの奥深い森、いくつも散らばる池、湿原、豪雪のもたらす神秘な空間というイメージがあった。人里離れた、近寄りがたい、けれどどこかあこがれの空間。

けれど訪れてみれば、この山々は人々の暮らしと密接に結びついていた。海との交流道として幾筋もの峠道がこの山々を越えている。千メートルちょっとの峠を越せば、日本海が目の前に開ける。昔の里人たちが幾筋もの峠を越えて行ったことが容易にうなずける。

私たちが目指した関田峠もそのうちの一つ。飯山まで来た国道117号線を左に折れ、県道95号線を登る。中腹辺りは紅葉の盛り、山一面の紅葉は美しい。田茂木池も過ぎて、眺望が開けた頃に神楽展望台に着く。緩く蛇行する千曲川に添うように開けた飯山の町が見おろせる。野沢温泉を抱くスカイラインが、緩やかな波のように続いている。

一面の紅葉:鍋倉山
一面の紅葉

私たちが誰もいない山の懐でのんびりしていると、遠く下から汽笛の音が響いてきた。「蒸気機関車だ」。途中走ってきた飯山線沿いの道には踏切毎に大きなカメラを三脚で固定した人が何人もいた。

大きな汽笛を聞きながら進み、茶屋池を過ぎると関田峠に着く。ところが、峠にはマイクロバスが何台か停まり、駐車場はいっぱいだ。少し先に進んでみるが、車1台停めるスペースも、Uターンするスペースも見つからない。夫は「バックだ!」と、今来た道をどんどんバックで戻った。すると、峠の駐車場にいたバスが消えていた。

ようやく足ごしらえをして山道に入る。緩やかに登って行く。足元には厚く落ち葉が積もっている。残念ながら、稜線近くの黄葉はほぼ店じまい。

キノコ,ゲンノショウコ,ツルアリドウシ実:鍋倉山
秋深い森

左に茶屋池への道を分ける辺りまではなだらかで、まっすぐ伸びたブナの白い木肌が空に向かっている。大地はブナの葉で覆われている。茶色に枯れているが、赤に近い。白い幹と赤い道、その対比がみごと。

落ち葉の積もった道:鍋倉山
落ち葉の積もった道

さらに進むといかにも稜線という道になるが、この辺りからブナの受難の姿が明らかだ。根元から大地に添うように横に走っている。幾筋も幾筋も横に倒れながらそれでも空を目指すブナ。輪を作っている太い枝もある。豪雪は知っていたが、予想を超えるブナの姿にびっくりだ。稜線あたりは、日本海から吹き付ける風が強いのだろうか・・・。稜線の強風があたらない飯山方面の中腹には、数百年もの樹齢のブナの巨木がそびえているという。

ブナの落ち葉と実:鍋倉山
ブナの落ち葉と実

曲がりくねったブナ:鍋倉山
自然が作り出す芸術

山道は静かだ。あまり高低差のない、歩きやすい道をのんびり進む。カンアオイの葉が道に添って沢山ある。落ち葉に埋もれているが、そっと根元を見ると、蕾を抱いている。白っぽい模様のある葉の群れと、濃い緑一色の葉の群れがあるが、同じ種類なのだろうか。

コシノカンアオイ蕾:鍋倉山
コシノカンアオイ蕾

ブナをくぐる:鍋倉山
くぐる

ブナを乗り越える:鍋倉山
乗り越える

鍋倉山の稜線は斑尾山から新潟の天水山まで続く、延長80kmのトレッキングコースになっている。『信越トレイル』という名の整備されたコースだ。あまり高低差はないが、人工物が抑えられ、標識もシンプルで目立たない道は気持ちよい。

頸城平野を見る:鍋倉山
頸城平野を見る

しばらく歩くと、日本海側に視界が開ける。右の奥に米山が見える。海からすっくと立つ美しい山容だ。日本海の水平線はぼんやりして、頸城平野の広がりがそのまま空と溶けている。

日本海に接する米山:鍋倉山
日本海に接する米山

黒倉山山頂にて
黒倉山山頂

私たちは長野と新潟の県境を歩いているのだ。そして、まず、黒倉山のピークに立つ。黒倉山は三方が木に覆われているが、日本海側に視界が開けていて明るい。ここで水分をとり、鍋倉山へ向かう。

今日初めての急坂を下る。下りきれば、後は山頂への登りだけ。振り返ると遠くに白い山が見える。きれいな三角形は火打山、もう雪を被っている。

誰にも会わないブナの森:鍋倉山
誰にも会わないブナの森

雪を被った火打山:鍋倉山
雪を被った火打山

苔むした山頂までの道の脇に、沢山の落ち葉に埋もれるように小さな湿原がある。曲がりくねったブナの木をくぐったり跨いだりして、山頂だ。

山頂からは展望がない。少し南に歩くと一面に青い色が広がる。カーブして流れる千曲川の水面が光っている。周りには飯山の町が静かだ。山々に迫られているけれど、人々が守ってきた暮らしがあることを感じる。

鍋倉山山頂
鍋倉山山頂

山頂からの千曲川:鍋倉山
山頂からの千曲川

日本のブナが役立たずの汚名を着せられてどんどん伐採されたとき、この鍋倉山辺りのブナは切られなかったそうだ。森と、山と生活をしてきた人たちにはブナのありがたさが分かっていたのだ。ブナの木1本で、1反の水田がまかなえるのだとか。

美しい森をこれからも大切にしていきたいねと話しながら来た道を戻った。

笹寿司と野沢菜のおひたし
笹寿司と野沢菜のおひたし

飯山の道の駅で遅い昼食に野沢菜蕎麦を食べ、名物の笹寿司が一包みだけ残っていたので、新鮮な野沢菜と一緒に購入して家路についた。




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