自然の中を一緒に歩くと楽しい友人たちが長野にやってきた。2日間は長野市の隣の須坂市で行われるクラフトフェアに出店、昨今の商売の難しさなどを肴に夕餉の会話を楽しんだ。
さて、土日のフェアが終了。翌月曜は雨予報だったが、幸いにも雨雲が遠慮してくれたのか、青空が広がった。友人は、まだミズバショウが咲いている広い湿原を見たことがないと言う。長野周辺にはたくさんの候補地があるが、私たちが先日訪れた(※)、斑尾高原の沼の原湿原に行ってみることにした。(※斑尾山のふところ2)
まだ2週間は経っていない。中央部分は満開だったから、ミズバショウの葉が育ってしまっているだろうけれど、奥の方や山裾に近いところにはまだ雪が残っていたから、白い苞が輝く姿も見ることができるだろうと、お菓子を持って車に乗り込んだ。
友人ペア(タノ&キミと以後記す)、は斑尾を訪ねたことがないと言うので、道々里山の風景をも楽しみながら進む。飯綱町に入り、牟礼駅を越え、勾配が急になってくると、いよいよ斑尾山が近くなる。段々田んぼに水が張られ、所々田植えが済んでいる。青葉が風に揺れ水に映る風景は心に染み込んでくる。子供の頃歌った唱歌の世界、日本の故郷原風景というような、のどかな風景が続く。
しばらく走り、「(4人も乗っているから)車が重いと言っているよ」などと冗談を言いながら斑尾山のふところをぐんぐん登る。車はありがたい。連休も終わり、ミズバショウの最盛期も過ぎたからか、それとも朝が早かったせいか、道路は空いていた。高原を登りきると、今度は新潟県側に少し下っていく。目的の沼の原湿原は新潟県側にある。駐車場に着くと、1台停まっていた。
まだ訪ねる人がいるんだねと、話しながら湿原に向かう。先日溢れるように激しい勢いで流れていた川も、今日は緩やかな流れになっている。その岸を、ネコノメソウを探しながら歩くが、見当たらない。
キミちゃんは遅れて出てきたミズバショウの苞の白さに感動している。だがやはり、中央の日当たりの良いところはもう育ちすぎの感じ。ミズバショウの大きな濃い緑の葉と、リュウキンカの黄色が鮮やかに広がっている姿は、それもまた美しいけれど。
私たちは湿原の中央の木道を突っ切って、どんどん奥に進む。先日残雪が多かった奥に行けば、まだ初々しい水芭蕉が見られるだろうと思っている。そしてどうやらその予想は的中したようだ。
湿原の中をぐるりと回っている木道をゆっくり歩きながら、キミちゃんが歓声を上げている。ミズバショウがたくさん咲いていた。そして私も嬉しい声を上げる。清冽な水の流れの近くにネコノメソウが。私にはネコノメソウ属の特定は難しいが、これはホクリクネコノメだろうか。写真を撮っていると、タノちゃんに呆れられる。「え〜、それが花?」と笑われるが、こちらも「そうよ〜、可愛いでしょう」と笑い飛ばす。
木道が山の斜面に近づくと、日陰には雪も見えてくる。タノちゃんが「お菓子を食べよう」と言う。キミちゃんが「駄々っ子みたい」と笑う。賑やかにわいわい言いながら道の真ん中に座り込んでおやつタイムとする。先日訪れた時はまだ固い蕾だった、ユキツバキの赤が私たちを囲んでいる。鳥の声も絶えない。
湿原を一周して帰ろうかと思っていたが、「この間来た時は、雪で万坂峠まで行けなかった」と聞いたタノちゃんが、行ってみようと言う。
距離はたいしたことがないのだけれど・・・と言いながら登って行く。今は雪も溶けて、道路は乾いているから歩きやすい。などと言っていたら、まだ雪があった。広葉樹林帯から杉林の中に入った途端。それでも、最後の一部分だけだったので、なんとか登りきり、車道に飛び出す。もう、万坂峠はすぐそこ。
目の前に広がる黒姫山や妙高山の雄大な風景をしばし眺めた。
さて、今にも崩れそうな残雪の道を避け、杉林の中をガツガツと進み、帰りは転がるように下った。傾斜が緩くなったところで、足を止める。踏みそうになった枝が少し動く? あ、ジムグリだ。数年蛇に出会わなかったが、今年はすでに2回目だ。ジムグリは慌てずゆっくり動いている。「こんな道の真ん中でのんびりしていたら、天敵に食べられちゃうよ」と夫。蛇に声をかけながら動画を撮っている姿を横目に先へ進む。
湿原まで降りたら、今度は山裾に沿うように敷かれた木道を行く。高台からは湿原が一望だ。しかし、ここから見ると、この湿原が乾き始めていることに気づく。水が流れている周辺だけに濃い緑がラインを描いている。あとはカヤが茂るのだろうか・・・まだ茶色の広がりが大きい。おやつを食べながら湿原を眺め、ゆっくり腰を上げた。日当たりの良い水辺にはミツガシワの花が顔を見せ初めていた。
駐車場に戻ったら、狭い駐車場はいっぱいになっていた。私たちは、八坊塚トレイルに足を伸ばす。そろそろシラネアオイが咲くのではないかと話しながら行く。トレイルに入ると急坂、前方の谷は残雪で埋もれている。が、一株立派なシラネアオイが花開いていた。男達は残雪をスキーよろしく下って、先まで行ってみてくれたが、まだ花芽が小さい株が多かったようだ。
一株とはいえ、大輪のシラネアオイに満足、満足。
青空の下、大地に横になってみたり、雪の感触を楽しんだり、春の山に広がる若葉の錦模様を楽しんだり、1日はあっという間に過ぎていく。
食事をしようと入った『まだらおの湯』で隣に座った男性の二人連れは地元の人たちらしく、ボタンコショウや野沢菜のこと、やたらという料理について話してくれた。おしゃべりの後は、大盛りの天ぷらが添えられた手打ちそばに舌鼓を打って、私たちは帰路についた。