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長野市花めぐり4月(長野県)

2019年4月(長野市)



春だ、春。長野の春は一気にやってくる。花を見に行こう。しかし今年の春は桜が咲こうかという頃になってから、湿った雪が続いた。4月に入っても雪はよく降り、その重い雪で山の木が倒れたなどというニュースも聞こえてきた。

ロトウザクラ

薄桃色に膨らんだ桜の蕾が、待ちに待って開いたのは昨年よりも一週間くらい遅かっただろうか。春を告げるロトウザクラの開花を新聞紙上で見つけたのは3月の終わりだったから、まだソメイヨシノが硬い蕾の4月初旬まで楽しませてもらえた。名前は桜だけれど、実は桃の仲間なんだって。

善光寺さんの仁王門のところに3月から咲き始め、4月半ばになっても満開の八重の花があるけれど、あれも桃の仲間かなぁ。栽培種が多い、梅、桃、桜などの種を特定するのは難しい。「名札をつけといてくれると嬉しいね」「牡丹園やバラ園みたいにね」とは、安直な私たち夫婦の会話。

善光寺の境内にて

ただ、街の中や公園などではちょっぴり嬉しい名札も、山道で見ると興ざめしてしまうから、我ながらずいぶん勝手なものだと思ってしまう。

善光寺北参道

城山公園のソメイヨシノ

さて長野も、城山公園や善光寺北参道のソメイヨシノが開花すると一気に春爛漫という雰囲気になる。そろそろ山の花も動き出しているだろう。身近な歩きやすいところで少しずつ花を探しに行くことにした。

笑い始めた春の山には、あちこちに白やピンクの広がりが揺れて、ヤマザクラたちが「ここにいるよ〜」と教えてくれるようだ。

今年初めて登った山の上で満開の桜に迎えられた。見事な枝垂れ桜の壁や、空一面に広がった花の屋根に思わず声が出る。もう桜の季節が終わったと思っていたから、その嬉しさは格別だった。

枝垂れ桜の壁


山の花は大好きだけれど、学術的に細かい分類をしようとするとなんだか頭がこんぐらかってしまう程度の『好き』だから、「あ、見つけた」と喜んで、元気をもらおうという花見だ。絶滅が危惧されるような珍しい花や、そこにしか咲かないという花にも興味はあるが、と言って、何がなんでも見なければというほどのエネルギーはないかもしれない。

ハナネコノメ(葯が黄色)⊕拡大
ハナネコノメ(葯が赤)⊕拡大

などと言いながらも、「あの子にも会いたい、この子も探してみたい」と、これまでにはいろいろな山に出かけた。

この春はまず、数年前から気になっていた長野市のどこかに咲くというハナネコノメに会おうと、夫と話していた。そして、ついに会うことできた。この数年で、ハナネコノメが咲きそうな環境を探せるほどに長野近辺の山道を歩いたということか。関東に住んでいる頃に見つけた赤い葯だけではなく、黄色やオレンジのものから、白いものまで、まさに満開の小さな花たちに大感激。しばらくそこを動かず眺めていた。なんて小さいのだろう、なんて可憐なのだろうと、心の中でいっぱい叫んでいるのだが、語彙が少なくてありきたりの感嘆詞!!まぁいいか。

ハナネコノメ(葯が白?)⊕拡大

ハナネコノメ(オレンジ)⊕拡大


歩いていると思わぬところで発見がある。新潟県の日本海沿岸の山などで見たコシノカンアオイに長野市、それも市街地の近くの山の上で出会い、びっくり。これも感激だった。

コシノカンアオイ

カンアオイ属は分布するのに時間がかかるそうで、それぞれの環境で独自に進化してきたという。だから地域ごとに特性があって面白い。葉に隠れるように咲く土色の花は見つけにくく、「よく見つけるね」と夫は言う。そう、最初に花を見つけることは少ないかな。まず独特な形の葉を見つけ、その根元を見る。そこに、小さな鈴の形の花が転がっている。見たいから、落ち葉をそっとどかして探すこともある。冬にも青々とした葉をつけているからカンアオイ(寒葵)なんだって。これからも色々な地域に咲くカンアオイに会いたいな。

ショウジョウバカマ

シュンラン

ミスミソウ


毎年見に行く花に、今年も会えた。ショウジョウバカマ、ミスミソウ、シュンランなど。私はつい足元に目を向けながら歩いているが、頭上にはダンコウバイやアブラチャンが明るい黄色で空を染めている。近くの里山の春を一番に色付けてくれる花たちだけれど、正直、区別がつかなかった。雄花と雌花もあるらしいし・・・ね。ある時、見つけた「よく似ているが、アブラチャンの花序には柄があり、ダンコウバイには無い」という図鑑の文字が悩みを解決してくれた。



ダンコウバイ  アブラチャン

さて、スプリング・エフェメラル(春の妖精)と言えば思い出されるほど人気の花カタクリ。カタクリの濃いピンクはよく目立ち、雑木林の下に広い群落を作ることも多いので話題になる。我が家から歩いて行けるところにも一つ群落があり、昨年も一昨年も見に行ったのだが、今年は時期を逃してしまった。行ってみたときには花はほとんど枯れ、小さな実をつけているものが多かった。ヤマブキが輝く黄色を広げ始め、もう少しで森は新緑に覆われるだろう。

カタクリの花と実

ヒトリシズカ

このわずかな期間、日差しを浴びてあちらこちらにヒトリシズカが清楚な純白の穂を持ち上げている。地味だけれど、愛おしくなるような立ち姿だ。

緑の玉の苔

そして、花と呼べないかもしれないけれど、丸い小さな緑の玉をつけた苔が今年もまだ残っていて嬉しかった。

そのあと行った山の山頂部では、まだカタクリがポツポツと咲いている姿を見ることができた。

カタクリ


バイモ

長野周辺の里山には山城跡が多いが、そういう場所には当時の人々の暮らしの痕跡が、時間の流れによって変化し、自然の姿に見えることがある。生活に欠かせなかった薬草を育てていた跡と思われるバイモの群落などがその例だ。

ゆっくり山道を登っていくと小広い草地になり、一面にバイモが風に揺れている。編笠百合とも呼ばれるバイモは、大切な薬草として育てられていたのだろう。武士の時代が終わり、城跡も消えるほどの年月が経った森にバイモが一人残って群れをなしている姿はどこかもの寂しい。

ムラサキケマン


かつての山城の跡は雑木林に覆われていることが多いが、人が歩く道の脇にはムラサキケマンや、センボンヤリ、クサノオウなどが彩り豊かに咲いている。

クサノオウ

私は長いことクサノオウ=草麻生だと思っていた。大好きな絵本『雷の落ちない村』の主人公『くさまおくん』の名前だから見てみたいと思っていた。35歳の若さで亡くなった作者、三橋節子さん(1939-1975)が自分の息子につけた草麻生という名前の植物、クサノオウを初めてみたときは、鮮やかな黄色で草わらを圧する勢いに、なるほど〜と思った。ところが調べてみると、草麻生とはイラクサ科のカラムシ、地味な花のことらしい。

センボンヤリ

勘違いではあったらしいが、クサノオウは印象に残る花となった。

アズマイチゲ


少し高いところまで登ればアズマイチゲがなんとも可憐な花を開いている。太陽が指すまではうつむきかげんに花を閉じているが、一旦開くと輝くような白が眩しいくらいだ。

ホクリクネコノメソウ

ヤマネコノメソウ

早春の湿った谷筋などにはネコノメソウ属がたくさん見られる。分類が難しいけれど、今年は楽しみだったハナネコノメの他にもホクリクネコノメソウや、ヤマネコノメソウをたくさん見ることができた。


ツクシ

我が家のすぐ近く、毎日のように散歩しているところでは、今年も様々な草花の群落が見られた。子供達が見つければ大喜びするツクシも、見事なピンクの絨毯になるヒメオドリコソウも、空がそのまま落ちてきたようなオオイヌノフグリの大群落も、「草」と嫌われたり、抜かれたり、それらの『人生』ならぬ『草生?』もなかなか面白いものだ。


ヒメオドリコソウ

長野市といえば、長野県の県庁所在地、善光寺さんのお膝元というイメージが強いけれど、合併を繰り返して今では戸隠や奥裾花の方までを含む。もっともっと広く歩けば、きっとまだまだたくさんの発見があるのだろう。

オオイヌノフグリ




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