関東から上信越道を走ってくると、長野市の玄関口に当たるところが松代。この辺りは戦国時代の武将、上杉謙信と武田信玄の合戦場として有名な川中島(川中島の合戦16世紀)を見下ろせるからか、山城跡がたくさん残っている。
古の武士たちが重い鎧を着て走り登った道だろうか・・・などと、こちらは『思い』だけを走らせながらいくつかの城跡に登った。そんな松代の周りの山に登ると、松代の真ん中にぽっこりと盛り上がった山が見える。「あれは?」「皆神山」「登れるのかなぁ?」「上にはゴルフ場があるらしいよ」・・・などと話しながら眺めていた。
松代の奥にバイモの群生地があるから今年も見に行こうと思い立ち、「近いから皆神山にも登ってこようか」と、ネットで検索してみた。
すると出てくる、出てくる。「世界最大最古のピラミッド」「超パワースポットの山」「修験道の山」「天の岩戸がある」「神が宿る山、霊山としての信仰が厚い」「超太古の宇宙航行基地」などなど・・・。眉唾物の記事も含めて賑やかだ。
周囲8キロほどの皆神山は、35万年もの昔、堆積作用が進んでいた長野盆地の一隅に噴出した輝石安山岩の火山だそうで、粘り気が強く流れにくい溶岩マグマが地表に上がってきて、冷えて固まって溶岩円頂丘(溶岩ドーム)となったというが、かつて5年間にもわたって揺らし続けた『松代群発地震(1965〜)』の震源地と聞けば、なんとなくうなずける。
それにしてもこんなに人気?の山だったとは。
朝のラッシュを避け、ゆっくり家を出る。まず犀川を渡り、続いて千曲川を渡ると松代。まず、妻女山展望台を目指す。桜の季節にはいっぱいになるという駐車場も今日は空っぽ。ソメイヨシノの花びらが雪のように舞い落ちてきて、見上げれば若葉の緑と赤いシベのハーモニーが美しい。
空には少し雲が多いけれど、青い部分が増えてきたような気がする。林道をゆっくり登っていく。今年はムラサキケマンが多いかな。この山のムラサキケマンは白い花の先に紫の化粧がしてあるシロヤブケマンが多く、時々全体が紫の株が混じっている。タチツボスミレも盛りだ。センボンヤリも純白の小さな花をいっぱいに開いている。
山吹の明るい色彩は明かりが灯っているように遠くからでも目立っている。比べてミヤマウグイスカグラの赤は近づくとハッとする色。林道脇はミヤマウグイスカグラの木がたくさんあって、ちょうど満開の季節なのだけれど、うつむいて隠れるように咲いている。
しばらく登り、斎場山への分岐を分けて左に進む。森に分け入ると、小さな緑の釣鐘が一面に揺れている。バイモの群落。この辺りは少し平らな草原になっていて、陣馬平というらしい。山城が必要だった時代には薬草園として耕されていたのだろう。城は荒れ、私たちは自然の草花の薬効を頼りにしなくなった。長い年月が過ぎて、今人間のためにではなく、自然の風景としてバイモが茂っている。
引き返して斎場山に向かう。ぽっこり盛り上がった山頂からは木々が邪魔してあまり見晴らしが良くない。ベンチでおやつを食べ、今日はさらに進み薬師山の方まで行ってみることにした。初めて来た時に間違えて途中まで行ったことがある(※)。今日はその先に進むが、道はすぐ下り坂になって、どんどん下っていく。「あれ、薬師山って少しは登るよね」と、首を傾げながら荒れた道を進むが、なかなか上りにはならない。
かなり下ってようやく前方に盛り上がりが見えた。急斜面を登ると円形の山頂、でも何も標識がない。山桜が静かに風にそよいでいるだけ。「ここ?」「何も書いてないねぇ」。反対側の下を覗くと、何か看板のようなものが見える。急な斜面をずり落ちるように下ると、立派な看板が立っていた。
県の史跡『土口将軍塚古墳』、前方後円墳で、5世紀頃に作られたものだって。器面に叩きを施した埴輪が出土、全国的に類例の少ないものと書いてあるけれど・・・『叩き』って?模様のことかな。
古墳の上に立ったので満足して引き返すことにしたが、後で調べたらさらに先に薬師山の瑠璃殿というのがあったようだ。またいつか行ってみようか。
古墳から再び登り返して、途中のヒノキらしい暗い森で涼しい風を堪能し、車に戻った。
さて、今度は皆神山。さまざまな記事がネット上を飛び交っているが、麓に駐車場はないとある。農家に頼んで停めてもらうなどという記事もあるが、そういうのが苦手な私たちは1台停める空間を探しながら結局神社まで登ってしまった。
遠くから見てもわかる台地状の山頂、上りはかなりの急坂だったが、一旦上に上がると平らな地形だ。標高600メートルを越すここでは桜が満開だ。少し歩くと立派な神社がある。門を入ると小さな池。とても可愛い池に木立が写っている。この小さな池は皆神山の7不思議の一つとかで、こんなに小さいのに水深が10メートルもあるとか。しかもクロサンショウウオが住んでいるらしい。のぞいてみたけれど、まだ季節が早かったのか、山椒魚の卵を見つけることはできなかった。代わりに、と言えるか、大きなカエルが水音高く飛び込みを見せてくれて、ギョロリと目玉をのぞかせている。
山頂部分をしばらく散策する。雲の間からまだ白い妙高山が見える。足元にはキジムシロの明るい黄色、カタクリも標高が高いここではまだ綺麗な色だ。歩いているとどこにも花びらの雨が降っている。ソメイヨシノ、枝垂れ桜、ヤマザクラ・・・桜の花びらが散る様はまことに幽玄の世界。昔から人々に愛されてきたことがよくわかる。
『超パワースポット』と言われるエネルギーをもらえたかはまぁよくわからないけれど、昔から続いてきた人々の、修験者の、この山への『思い』を感じることはできた。