信州百名山に選ばれている高社山のメインルートは、南西山麓の谷厳寺(こくごんじ)から登って行く変化に富んだコースらしい。かつては長野電鉄が走っていて、駅から歩いて登れたそうだが、私たちが長野に引っ越してくる前に廃線になってしまった。
高社山(こうしゃさん)は、別名『たかやしろやま』とか『高井富士』と呼ばれる信仰の山で、善光寺平から中野市に向かって行くと、コニーデ型の山容が長い裾野を引いていて立派な山だ。標高はそれほど高くないが、独立峰らしくスカイラインが青空に映える。この高社山が善光寺平の北端にそびえているため、雪を遮っているとか・・・、長野市民にとってはありがたい山かもしれない。
高社山の南斜面には夜間瀬(よませ)温泉スキー場があり、山頂近くの高さから一気に降りるゲレンデが魅力だと、ずいぶん前に滑ったことがある。
晴れ間を見つけて国道403号に向かう。リンゴ畑の中の道を走り、木島平やまびこの丘公園のダリアを見ながらゲレンデ内の道を登ると駐車場がある。
車道を少し登って、ゲレンデの端から登山道に入る。ススキのかぶさるような草ぼうぼうの道だが、並んで歩けるほどの幅がある。アキノキリンソウやノコンギクが今年最後の花をつけている。なだらかに見えて傾斜の強い道をゆっくり登って行く。カラマツの林は少し色づきかけている。道にホオノキの落ち葉が目立つようになってくると周りの森は広葉樹の混淆林、道の脇のススキは消えて背の高いエゾアジサイがどこまでも続く。花は終わって、天然のドライフラワーになっているが、まれにまだ濃い青を見せているものがある。
しばらく登ると、周囲にブナの木が増えてきた。今年はクマとの遭遇が多いと聞くから、「どっこいしょ」「よいしょ」などと、必要以上に大きな声を出して歩を進める。それがおかしいと言って笑う声もクマよけになるだろう。
ようやくブナ林コースとの分岐点に着いた。が、まずは山頂を目指すことにした。
雲は多いが、この辺りまで来ると北側の展望が開ける。目の前の毛無山から鍋倉山へ信越県境の山並みが緩く続き、その下にうねるのは信濃川、いや、まだ千曲川か。光を反射してうねる姿は大蛇とたとえられるのもよく分かる。左に斑尾山、そしてその向こうのポッコリとした盛り上がりは袴岳。今登っている高社山の赤や黄色に染まり始めた森を前景に、遠くは青く霞んでいて、息をのむ美しさだ。これが日本の自然かなぁと思える豊かな美しさに心が安らぐ。
登れども、登れども道幅は広いままだが、火山らしい岩がゴロゴロしてきた。草や落ち葉に隠れている岩に乗ると滑ったり、ぐらついたりするから気をつけて行く。しばらくジグザグに登ると、ようやく稜線に着く。ブナ林コースと再び合流するところだ。大きな地図の看板が立っていて、頂上まではあと少し。
ここからはかなり急勾配だ。イワカガミの花穂が枯れて立っている。ツヤツヤの照り葉にちょうど雲間から顔を出した太陽が反射してキラキラ輝いている。登山道の両側にびっしり、大群落だ。花の頃はきれいだろう。イワナシの葉も株になって続いているから、早春の頃はピンクの道になるのだろうな。
急な階段を「どっこいしょ」と言いながら上って行くと少し平らな稜線に出る。ツツジだろうか、小さな葉が真っ赤に染まっている。足元のイワナシを見るとピンクの蕾のようなものがあっちにもこっちにも。「このまま雪の下で春を待つの?」と、しゃがみ込んで聞いてみるけれど、イワナシさんは応えてはくれない。
山頂からは360度の展望と言うが、ここでも見えるのは北側のみ。残念だが、新幹線の線路が足元から出てまっすぐに飯山駅に延びて行くのを見降ろせて夫は大喜び。展望を楽しみながら、緩やかな日差しの下でおにぎりを食べる至福の時。今日はシソの実の佃煮も入れて、夫が握ったもの。
しばらく山頂の時間を楽しんで、今度はブナ林コースを下ることにする。分岐の看板からすぐゲレンデの広がりに出た。立派な高社山テラスが建っている。テラスの展望台からは木島平の田んぼの広がりが目の下だ。足元からすっぱり切れ落ちているようなゲレンデの端に立つと、ゲレンデの真ん中に一気に落ちるような階段があった。
足のすくむような階段をどんどん下りて左に曲がり、森の中をさらに下って行く。ブナの森はいつ見ても神々しい。うっすらと色づいてきて明るい梢が空にとけ込んで行くようだ。どんどん下ってこのまま下に着いちゃうんじゃないだろうかと心配になる頃、分岐の標識が見えた。左右に「山頂へ」と「下り」の矢印があるが、どちらの道も急な登り!
「そうじゃないかと思ったよ」と苦笑いをしながら森の中の道を登って行くと、ようやく朝分かれた分岐点に登り着く。あとは来た道を戻るばかりだ。