長野から北へ走り、中野市を通り過ぎて国道403号に入り、木島平村の方へ向かう。ほとんど走る車もない道を快適に飛ばしていると、いきなり目の前に!
本当に心臓が縮むとはこういうことを言うのだろう。道路の右の叢から大きな鳥が車に向かって走り出てきたのだ。赤と緑がきれいな大型の鳥、キジだ。幸いブレーキが間に合い、キジは左の草の上をきれいに飛んでいった。
「残念、キジ鍋を逃したか」、「キジにも自殺願望ってあるのかしらねぇ・・・」などと言えるのは、本当にホッとしたあとのこと。
キジを見送って少し走り、樽川の上流を渡るとすぐ右に折れる。くねくねと曲がる林道をカヤの平に向かってひたすら登る。周りの森の色が少しずつ明るくなってくる中をカヤの平に近づくと、カンバやブナが大きな姿を見せてくる。目を楽しませながら牧場の広がりを越えて今日の目的地までもう少し走り、キャンプ場の先の林道入り口に車を停める。林道は一般車通行止めとなっているので、ここから林道を少し歩いて登山口へ行く。
さて、いよいよ山歩きの始まり。今日の目的は高標山、私たちは「たかっぴょうやま」と呼んでいた。ところが『Kohyosan』という道標を見つけた。あれ、どっち?「間違えていた?」と言うと、「そんな筈はない」と夫。そして、別の道標には『Takappyou』とあるのを発見した。「こうひょうさん」とは古名だろうか。
10分ほど林道を歩いて、登り始めるとカラマツのまっすぐな幹が目立つ。最近台風が多かったので、風で折れてしまったのか、まだ緑の葉をつけた枝が沢山落ちている。カラマツの幹を這い登っているツタウルシが真っ赤に紅葉している。緑濃いササと対照的で美しい。そしてキノコもたくさん。時期が少し遅いのか、傘が開ききって崩れたようになっている大きなキノコがたくさんある。
道は緩やかな傾斜で、ほぼ平らな森歩きと言ってもいいくらいだ。私たちは見つけるたびに「ワァー」と言いながらキノコの撮影をして、ゆっくり登っていった。ほとんど登りではないと思いながら歩いた道だが、帰りには「あれ、こんなに登っていたんだね」と言うくらい、実は傾斜もあるのだった。けれど、私たちは木の葉の色比べをしたり、トチの実やブナの実を見つけたりしながら楽しく歩いているので、登りを感じない。
木の葉が黄色に輝くようになると周囲はカンバの森になっていた。明るい。ちょうど青空が広がり、秋の日差しを受けて森が黄金色に輝いている。ナナカマドの実が真っ赤に染まっているのも美しい。
そして、いよいよブナ!その姿はなんとも神々しい。大木がド〜ンという感じにそびえている。幹の中はほとんどえぐられて空洞になっているのに、見上げれば大きく枝を広げて豊かに葉を茂らせている大木もある。
ササの背が高くなってくると、緩やかな広がりの稜線に着いたらしい。背を越えるササが道の上にかぶさっていて歩きにくい。踏みあとはしっかりしているものの両手で払いながら進むからなかなか大変だ。所々湿地らしい広がりがあり、倒木も多く、残念ながら見晴らしもない。
深いササを分けながら約30分、再び登るとじきに一つのピークに着く。山頂はそこからわずかに登ったところだった。
イワナシの葉が緑に茂り、ツバメオモトやゴゼンタチバナ、マイヅルソウなどの葉が黄色く茶色く重なっている道を一息登ると、山頂だった。
大きな石の祠が真ん中にドンと立っている。石垣が組まれていて、その石の一つ一つが大きい。昔の人が持ち上げたのだろうか・・・苔むしている石を見て、人のパワーのすごさを感じる。あまり名前も聞かない地味な山だけれど、昔は要所だったのだろうか。もしかしたら、この道をたくさんの人たちが往来したのかもしれない。大きな街道を行けない、いわくのある人たちが、胸に思いを秘めて緩やかな山道を一歩一歩登ったのかも知れないと思うと感慨深い。
山頂は狭いけれど、風が強いのか、植物に風のあとが残る風衝裸地の様子が見える。三角点にタッチしようとすると赤とんぼがやってきて止まった。一緒に登頂?
見晴らしがよいはずなのだけれど、雲と霧が上から下から白く空気を染めてきて、何も見えない。さっきまで青空だったからと、晴れるのを待ちながら持参のおにぎりを食べることにした。
残念ながら霧は濃くなるばかりだったので、諦めて降りることにする。カヤの平あたりまでは前が見えないほど霧に覆われていて幻想的だ。カヤの平を下り始めると霧は晴れたが、今度は雌のキジが車の前を横切って行った。「キジに遭遇するのは歩いている時がいいね」と話しながら山を下りると、町も雲が低くなっていた。