春、雪がまだ残る下から芽吹き始める花々に会うため、何回か山懐に足を運んだ。北信地方にはありがたいことに何カ所も早春を飾る花の群生地がある。山桜が山の緑の中に輝くのもこの季節だ。あんず、もも、りんごなど果樹の花も咲いてくる。今年は花々の開花が早く、だいたい例年より1週間から10日ほど早く咲き始めたようだ。「人間も早く熟すかしら〜」と言った友人がいるが、早く熟して早く土に還るというのもまた大地の理か・・・。
春1番の花はセツブンソウ、長野の自生地は北限になるそうだ。3月15日に千曲市戸倉の群生地を訪ねたとき、セツブンソウは満開だった。これまでにも3回見に来ているが、今年はしなの鉄道で長野から戸倉駅まで最近復活されたという<Coca Cola色>の電車に乗って出かけた。これはもちろん鉄道好きの夫の希望。Coca Cola電車は本当にコカ・コーラの赤だった。一列車だけなので、時間を変えて運行されるという。夫は運行時間を調べて、山へ行くのに適した時間帯に走る日を選んで出かけた。
季節が季節だから、戻り雪にあって咲いた花が雪に埋もれるなどということもあるのだが、幸い今回は見事に満開の花を見ることができた。
群生地の入り口には『戸倉宿キティパーク』があり、桜の名所らしいが、節分草が咲く頃にはまだ固い蕾。キティパークには小動物と遊べるエリアや、大きな天狗が見下ろす広場もあるが、オオイヌノフグリが満開で広い斜面を青く染めている。ホトケノザも一面に花穂を伸ばし、紫の絨毯を敷き詰めたようだ。しばらく花に見惚れてから重い腰を上げた。
春休みにやってきた孫とちょっと遠出をして安曇野の『大王わさび農園』に行ってきた。美味しい蕎麦屋さんがあると聞いていたので、そこで蕎麦を食べてから行こうと、地図を頼りに走った。常念岳が間近に見える安曇野の疏水脇にあった蕎麦屋さんで孫の大好きな天ぷら蕎麦を食べたが、ご馳走様をして出たら、「本日の蕎麦は終了しました」の張り紙が出ていた。ギリギリセーフだったようだ。蕎麦屋さんの人にお店の前で写真を撮ってもらい、アルプスを背景にした疏水脇を散策してから大王わさび農園を目指した。
安曇野の清流に広がる農園では山葵の花が満開だった。園内の小高い丘には梅も満開で、若緑とピンクの美しい色が広がっている。
小さい頃から山葵の味が好きだった孫は色々なお土産用のお菓子を試食して楽しんでいる。わさびソフトクリームも満喫した。満開の山葵の花を販売していたので、買って帰った。おひたしにして春の味覚を楽しんだのは帰宅後の話。
ワサビ畑の近くの林にはアオサギのコロニーがあって、大きなアオサギが賑やかに声を交わしながら飛び回っている。こんなにたくさんのアオサギを初めて見た孫が、「あ、また来た。あっちにもいる」などと指差しながら見ている。
孫が面白そうに鳥を見ているので、帰り道にちょっと足を伸ばし、犀川の白鳥湖に寄って見た。だがすでに白鳥たちは北へ向かったようで、たくさんのカモたちだけが湖面に浮かんでいた。
鳥と言えば、家から歩いて20分ほどの裾花川にも何回か出かけた。善光寺の北の池にも時々カワウがやってくるが、狭い池なので大きな潜りは見られない。裾花川まで行くと、遠くまで潜っていく様子が見られる。カワウは潜っている時間が長いので、ずいぶん離れた水面からひょっこり顔を出すのだが、孫は「あそこだ」と、さっと指を指す。裾花川の急流にはカワウやカモ、セキレイなど何種類もの鳥が見られるので、川沿いをのんびり歩くのも楽しい。
4月に入ってすぐ、千曲市森の『あんずの里』まで出かけた。もう十数年前に1回訪ねたことがあったが、まだ花には早い時期で、蕾が薄桃色に枝を染めていたことを思い出す。傾斜地のはずれ、斜面に近いところには在来種だという背の高い自然木があって、その姿に心が惹かれた。
今回は、長野駅からしなの鉄道に乗って出かけた。もよりというには遠い駅から春の里を1時間ほど歩いて行った。
一本道をてくてく歩いていたら、道沿いの公園にいたおじさんが、遠くから「すごいよ。今、最高だよ。満開。いいよ〜」と、身振り手振りを加えて話してくれる。「ありがとう」と応えて、なんだか、楽しいおじさんがいるねと話しながら歩いていたが、このおじさん、あんずの里の人だったらしい。その後、あんずの里に着いて、花盛りの坂道を登っていたら、軽トラックで後ろからやってきて「そっちの道の奥もきれいだよ。入っていいよ〜」と、ニコニコ。
とても楽しい旅だった。干し杏も買い、杏ソフトクリームも食べ、満足、満足。そういえば以前行った時には夫は杏が苦手だったから、お土産は買わなかった。今は好きになっている。嗜好も変わるんだね。
朝、電車を降りてから畑の中の一本道を歩き、杏の花を見ながら二つの展望台まで登ったり降りたり。少し疲れたので、帰りはシャトルバスで駅まで出ることにしようと決めた。バスの発車時刻までしばらく時間があったので、軽く腹ごしらえをしようとあんずの里の食堂に入った。地元の婦人達が運営しているらしい食堂には「おしぼり一つ」という元気な声が響いている。おしぼり?って手を拭くあれかなぁ。私はここで『おしぼりうどん』という物を初めて食べた。大根おろしの汁をつけ汁にして、味噌で味付けしながら食べるおうどん。素朴な味。
干しアンズを懐に、シャトルバスでらくちんに駅まで帰ったので、元気を取り戻してしなの鉄道の客になった。
杏の里の人々が話していたが、急に気温が上がり、一気に花開いたのはいいけれど、あっという間に散り始めていて、情緒を味わうひまも無いと。
寒さ厳しい今年の冬は、桜の蕾もずっと堅いままだったが、本当にあっという間に満開になってしまった。開き始め、3部咲き、5部咲き、7部咲き・・・などという余韻も情感もすっ飛ばしてしまったようだ。
川中島の道を走ると、モモの濃いピンクが一面に広がる様子がとても美しい。走る車の助手席から、私一人が「きれい、きれい」と歓声を上げていた。赤信号で停まった時だけ、横目で見ながら夫いわく「川中島のモモは美味しいんだよね」。
こういうのも『花より団子』?