今年の秋は雨が多かったにもかかわらず、合間を縫って一日限りの晴れをも惜しまず山に向かったためか、北アルプスの展望を色々な所から楽しむことができた。特に後半になってからの雪をかぶった姿は、まさに立ちはだかる壁そのもので、たくさんの人のあこがれの対象になることがうなずける。
アルプスはたくさん見たから、今度は展望がなくてもいいか・・・、近くでまだ登っていない山に行ってみようか・・・と、いつかどこかで見た山名を頼りに『陣馬平(じんばだいら)山』に決めた。調べてみると、長野市で最も早くトレッキングコースとして開かれた所だとか。我が家の裏山、地附山が最初かと思っていたから、驚いた。
長野市のホームページにトレッキングコースの地図が載っていたので、それを持って出発。犀川をせき止めて作られたダム湖沿いに19号線を行くが、対岸の白い崖と紅葉、そしてエメラルドグリーンに輝く湖水が美しい。
19号線から七二会の集落に向かって右に折れる。私はいつも「なにえ」と呼びたくなってしまうのだが、ここは「なにあい」と読む。長野の郷土食『おやき』で知られている。
七二会小学校、七二会中学校を過ぎ、さらに山道を登っていく。標高840mにある矢口駐車場に車を停める。地図にもしっかり表示してあるからどんな所かと思っていたが、道の脇が草を刈った平地になっているだけだった。車は我が家の1台だけ。
ここから山道を登る。途中まで三十三番観世音がまつられている。文久3年(1863年)にこの地にまつられたそうだから、とても古い石仏だ。足が潜るほどの落ち葉の中を登っていくと、観音様は何体も倒れている。落ち葉に埋もれそうになっていたり、登山道の方まで押し出されてしまったり・・・。道の真ん中に倒れている小さな1体を斜面の方に戻してあげられるだろうかと抱えようとしてみたが、重くて動かせなかった。昔の人たちはどうやってこんなに重い観音様を33体もここまで持ち上げたのだろう。重機もなかったのに。
道はフカフカの落ち葉が敷きつめられて気持ちよいが、勾配が思っていたより急だ。今回はトレッキングコースだからと、ストックを持たずに来たことをちょっぴり後悔する。
この辺りは色々な種類の木が茂る雑木林らしく、落ち葉の形も多様で面白い。そんな中に小さな紫の卵のようなものを発見した。アケビだ。落っこちたので、色はあせて中はもう熟し過ぎていたが、残った紫色がとてもきれいだ。
途中に大き過ぎて見落とすほどの地蔵岩があると紹介されていたので、楽しみに歩いていたら、確かに巨大な岩があった。太い杉の木に挟まれるように立っていた。これは、でも、見落としようがないかな。道に立ちはだかっている感じだ。
途中1回林道をまたぎ、しばらく頑張って登ると地蔵峠下の林道に出る。カラマツの落ち葉が降る中を数分歩くと地蔵峠に到着。ここがトレッキングコースのスタート地点らしく、やや広い駐車場が開かれている。ここも矢口駐車場と同じく、舗装はされていない。視界が開け、戸隠連峰、高妻山そして白馬山、五竜岳が見える。そういえば、登る森の中から南に遠く小槍を従えた槍ヶ岳が見えていたが、地蔵峠からは北側の山々が見える。
標高1143mの地蔵峠は、かつて戸隠と松代を結ぶ物流の道だったとか、歩いてここを登って下りて、戸隠神社にお参りした人々もたくさんいたのだろう。車でかなり上まで登ってしまう私たちとは違う筋肉を持っていたのか・・・。すごいなぁとは思うが、真似をしようとは思わない。山を歩くのは好きだが、信仰のためにひたすらどこかへ向かうということには特に惹かれない。
ここから山頂までは15分もかからない。歩きやすい林道のような道だ。期待していた山頂の展望はなかった。背の高いカラマツに囲まれている。
ここ陣場平山の山頂には大きな看板が立ち、山名ではなく三角点の説明が書いてある。ここにある一等三角点は矢羽根のついた十字形で、全国的にも珍しいとか。三角点についての説明が書かれていたが、なぜ、この形になったのか説明はなかった。
しばらく山頂で写真を撮ったりカラマツを見上げたりしていたが、見晴らしがないので先へ行ってみることにした。稜線の緩やかな道をわずかに下ると、山の家がある。山の家の前が開けていて、戸隠連峰、高妻山、火打山、妙高山、黒姫山、そして飯縄山が一望だ。遠くの山々をバックに豊かな里の広がりがある。飯綱高原、戸隠高原だろう、日本の里の風景は美しい。きれいなのでずっと見ていたいが、ここは風が冷たく、手が凍りそうになってきたので、日だまりを求めて地蔵峠へ続く道を行くことにした。
広場から道に入るとじきに道の端が白くなっている。霜だ。そこからしばらくは霜の道を歩く。寒いわけだ。咲き残っていたヒメジョオンも凍みついている。しかししばらく歩くと、日差しの入る所もあって、暖かくなって来た。木の枝を見れば、もう小さな芽がついていて春の準備だ。自然の営みは偉大だ。木の芽はなかなか見分けがつかないが、ところどころの木に名札がついている。大木は見上げて首が痛くなるだけだが、枝がおりている木の芽は見ることができる。
見上げれば梢に残るばかりとなったカラマツの葉だが、足元を見れば、一面に散り敷いている。上等の絨毯だ。
しばらく歩くと、道の脇に暗い森が広がった。杉だろうか、樹間は遠くまでびっしりとシダに覆われ差し込む光が踊っている。
木々の隙間から見える山を楽しみ、鳥の声を聞き、地蔵峠まで戻った。車は1台もいない広い駐車場だが、日があたってぽかぽかしているので、ここでおにぎりを食べることにした。
おにぎりを食べてのんびりしたあとは下るだけ。普段は避けたいと思う林道だが、ここの林道は落ち葉がフカフカしていて気持ち良さそうだったので、時間もたっぷりあるし、たまには林道歩きをしてみようかということになった。
これが面白かった。中腹の岩と紅葉のきれいなこと。そして方向が変わる度に現れる四阿山や八ヶ岳方面の山々が見え、一つの山で二度美味しい・・・などと軽口がでる。
トンボがたくさん舞っている道、私の帽子にとまったトンボはここで休憩と思ったか、しばらく道連れとなっていた。トンボと遊び、まだ残っていたツリフネソウに感動し、ゆっくりゆっくり歩いた。
林道はジグザグに曲がり、曲がるたびに今登ってきた陣場平山の山腹が一面赤茶色の紅葉に覆われ、目の前に開ける。私達が下がるにつれ山の斜面の姿が変わっていく。だんだん見上げるようになっていくのが面白い。
下りきって車に戻ると、あとは来た道を引き返した。