⬆︎Top 

32
烏帽子岳(えぼしだけ) 2066m(長野県)

2017年10月18日(水)

地図・烏帽子岳


秋晴れの気持ちよい日に、展望を楽しめる山歩きをしたいと思い、どこに行こうかと話していた。久々に登った飯縄山で少し筋肉痛になってしまったから、あまりきつい登りが無いところを探し、群馬県との県境に近い烏帽子岳に行ってみることにした。隣の湯ノ丸山と合わせて縦走コースとして歩かれることが多い、尖った山頂が特徴的な山だ。

私たちは以前湯ノ丸山に登ったことがあるが、その時は烏帽子岳まで足を伸ばさず帰ってしまった。それで、いつか行ってみたい山の一つとして心の覚え書きに書いてあった。


今年、長野は雨が多い。秋になって、いつもなら空気が澄んでくる頃になっても雲が低く空を覆っている。爽やかな秋空の下の山歩きは素晴らしいのだが、天気予報は雨ばかり。

それでも一日だけの晴れマークを見つけて出かけることにした。


高速道路を南下し、東部湯の丸インターで下りる。インターからは94号線(東部嬬恋線)に入り、地蔵峠までジグザグ道を登る。冬は何回かスキーに来た道だ。登り始めはまだ緑濃い森だったが、高度を上げるにつれ赤に黄色に色を変え、中腹はみごとな紅葉だ。ただ、頭上には濃いねずみ色の雲がかぶさり、なかなか晴れてこない。


写真・地蔵峠駐車場
地蔵峠の駐車場にて

地蔵峠の広い駐車場には平日だからか車は少ない。スキーシーズンにはいっぱいになるのだろう。足元を整え、出発。湯ノ丸山を越えていくコースはゲレンデを登っていくが、私たちは左のキャンプ場への道をすすむ。車が通れる道路は土が掘り返されてモクモクしている。キャンプ場の入り口には作業服を来た人たちが数人かがみ込んで、建設途中らしいU字型側溝の脇でメジャーを当てながら何か話している。「おはようございます」と挨拶して通り過ぎる。キャンプ場にはバーベキューなどの設備があるが、今は誰もいない。広場を越えて直進する道もあるが、私たちは左のカラマツの森へ入っていく。 途中苔むした巨岩が重なりあって楽しい道だ。

写真・苔むした岩
苔むした岩

森の中を大きく右に巻いて行くと、中分岐の看板が見えて来た。まっすぐ行くとツツジ平を通って湯ノ丸山、左に進むと烏帽子岳、そして右に行く道は、今通って来たキャンプ場への直進コース。けれど、大きな看板があって、キャンプ場への道は通行止めとなっている。キャンプ場と地蔵峠の間の道路舗装工事のためとなっている。そうか、だから土が掘り起こされていたんだ。私たちは堂々と歩いて来てしまった。あっけらかんと「おはようございます」なんて挨拶して通ったから、何も言えなかったのかなぁ・・・。まだ大掛かりな工事も始まっていなかったし、まぁいいかって。

写真・カラマツの森とササ
カラマツの森とササ

しかし、あんなに大きな看板があったら見逃さないと思うけれど・・・どうして二人とも気づかなかったんだろう。私たちは『工事のおじさん、ごめんなさい』と思いながらも、つい吹き出してしまった。

写真・ヤマホタルブクロ
ヤマホタルブクロ


さて、道を左にとり烏帽子岳に向かう。湯ノ丸山を巻いていく道は平坦で歩きやすい。カラマツの落ち葉が積もってフカフカした道、両側にはササが迫ってきている。斜面が急になっているところは岩がゴロゴロしている様子が見え、イワカガミ、ゴゼンタチバナ、ノギランなどの葉が重なりあっている。花は枯れて穂になっている。アキノキリンソウも、アザミも、丈の高い草ぐさも花は終わって綿毛を飛ばしている。そんな足元にヤマホタルブクロの薄紫を見つけたので嬉しくなった。

写真・八ヶ岳と蓼科山
八ヶ岳、蓼科山


しばらく歩くと左に視界が開け、八ヶ岳が目の前に浮かんでいる。いつの間にか空は晴れて明るい青が広がっているが、下にはモクモクと白い雲が波だっている。その雲の上に八ヶ岳、蓼科山が連なっている。もしかして・・・少し進むとさらに左奥に見えた、富士山だ。

写真・秩父の山々と富士山
秩父の山々と富士山

「え、こんなに大きいの」と、夫はビックリしている。以前、飯縄山から見た時の富士を思い出しているようだが、「ここはもう浅間に近いところだからね」と言うと、そうかとうなずく。


木々の枝越しに富士を見ながら歩いて行くと、前方に目指す烏帽子岳のとんがりも見えて来た。青空も広がって来て、元気が出る。タムラソウ、アザミが一輪ずつ、最後の花を見せてくれているのも嬉しい。


写真・鞍部から湯ノ丸山を見る
鞍部から湯ノ丸山を見る

ササの葉の露を払いながらさらに進むと、湯ノ丸山と烏帽子岳の分岐に当たる鞍部に着いた。少し広くなっていて、イスのような石が円形に置いてある。後ろにそびえる湯ノ丸山はまさに丸の字がぴったりの優しい山容だ。帰りに元気があれば登ってもいいけれど、まずは烏帽子を目指すことにする。

写真・赤い石
赤い石

鞍部からはようやく登り坂になる。オヤマリンドウがかろうじて紫を残している。道には赤い石がたくさんあり、砕けた石が敷きつめられて一面赤いところもある。鉄分の多い石だろうか。赤い道を踏みながら高度を上げていくと、道の脇にも赤い小さな葉の重なりが続いている。枝先には黒い実が残っている。クロマメノキだ。熟した実をつまんでいただく。甘酸っぱくて疲れが飛ぶ。

そしてついに稜線に出た。目の前に広い雲の海、その海に浮かぶ群青の島は、富士から八ヶ岳、中央アルプス、御岳、さらに槍、穂高連峰を越えて後ろ立山の峰峰まで続いている。素晴らしい展望だ。青空には鱗雲が遠く筋を引くようにたなびき、私たちはしばらく展望を楽しんだ。


写真・タカネマツムシソウ
タカネマツムシソウ

写真・ガンコウラン
ガンコウラン

ここからは岩の多い稜線を小烏帽子、烏帽子と進んでいくが、みごとな展望に足取りも軽くなる。岩の重なる稜線の脇にはクロマメノキが赤く色づいた葉を広げ、ヤマハハコやウスユキソウの花が枯れて、いまだツンと立っている。岩と岩の間にはガンコウランの葉が緑だ。花の終わったあとがツンツン立っている。花が終わってしまったことを残念に思いながら歩いて行くとタカネマツムシソウが数輪開いていた。

写真・山頂まであと少し
山頂まであと少し


岩の道をひと登りすれば烏帽子岳2066mの山頂だ。

指差しながらあれが乗鞍、美ヶ原の向こうは御岳と、二人でうなずきあう。よく見れば、立山連峰も剣岳も勇姿をみせている。嬉しくて、狭い山頂をぐるりと回って写真を撮る。雲の海は時おり波だって、山なみの一部を隠すが、また引いて山々を浮かび上がらせる。妙高、火打のあたりは雲が高い。登る途中で見えていた浅間隠山の方は雲に隠れてしまったが、南の浅間山は吐き出す煙までよく見える。

写真・穂高連峰、槍(手前に常念)
穂高連峰、槍(手前に常念)

写真・奥に立山連峰、剣岳
奥に立山連峰、剣岳

写真・浅間山
浅間山

雲海とはよく言ったものだと思う。自分たちが立っている下に白い雲がモクモクと動く様は波が立っているようだ。雲の波は吹き上げるように高くなってはまた静まり、一定の高さで波打っている。

写真・山頂でおにぎり
山頂でおにぎり

眺めていれば飽きないが、おにぎりを食べることにした。

庭で採れたミョウガの味噌漬けを混ぜ込んだおにぎりは我が家の定番、味噌の香りとミョウガの苦みが美味しい。庭でたくさん採れたトマトと、今日はみかんの初物も持って来た。山頂で食べるみかんは元気のもと。


写真・オオイワインチン
オオイワインチン

大きな岩が重なっている山頂にはまだ黄色い花が咲いている。葉が大きいので帰って調べたら、これはオオイワインチンと言うらしい。浅間周辺や日本海側の山に咲く種だそうだ。あちこちの岩陰にひっそりと、けれど華やかな明るい黄色の花を掲げている。もうそろそろ雪も降るだろうに、なんだかけなげに思えてしまう。


こんなにお天気に恵まれた時はいくら眺めていても飽きない。暖かい日差しの下でおにぎりを食べ、話をし、周囲を見回しているうちに時間は過ぎていく。


写真・烏帽子岳山頂
烏帽子岳山頂

しかしだんだん雲が濃くなってきた。少しずつ盛り上がり、山々を隠していく。そろそろ引き上げようかと、私たちは重い腰を上げることにした。

下りは膝に負担がかかるので登りよりさらに気をつけて歩く。残念ながら遠くの山々は雲に隠れてしまったので、眺める時間を惜しむことはない。

山頂でゆっくり時間を楽しんだので、今日は湯ノ丸山には登らず、来た道を引き返す。中分岐まで下りると朝見つけた、通行止めの看板だ。「来た時は知らずに通ったけれど、帰りは遠慮しましょうか」と、ツツジ平に登っていく迂回路を行くことにした。広々とした斜面を緩やかに登る気持ちよい道をしばらく行くと鐘分岐に着く。レンゲツツジの咲く頃は人でいっぱいになるのだろう。

私たちは人のいないスキー場のゲレンデをモクモクと歩いて、地蔵峠に下りた。ゲレンデにはワレモコウがわずかに揺れ、雪を待つばかり。

写真・チーズとケーキ
美味しい!


帰りに、チーズの店に寄って買物をした。湯の丸高原から下る途中にある、何度か寄ったことのある店。大好きなカマンベールチーズと、新しいチーズ「ココン」を買うことにしたが、夫の好きなロールケーキと季節の栗のケーキも発見、今日の夕餉を楽しみに帰路に着いた。


その夜は急に冷え込み、翌日湯の丸高原初冠雪のニュースを聞いた。




  • Gold-ArtBox Home