志賀高原は広い。長野からは車で1時間ちょっと。広い志賀高原の自然は多様で、春夏秋冬さまざまな姿を見ることができる。私たちも冬はスキーに、夏は山登りにと訪れているが、花を求めて池や草原を散策するのも面白い。
土日は混むだろうと、金曜日に出かけた。しばらく雲が多くて雨マークが続いていた。今日も我が家から見る志賀高原方面には厚い雲がかぶさっている。遠景を楽しむことはできないかもしれないが、森や湿原の花を見ることはできるだろうと話しながら出かける。
今年は雪が多かったのでチャンスを逃し、春の花に会いに行けなかった。もう高原は夏の花が咲いているだろう。
早めに家を出たが、通勤渋滞の影響があって少し時間がかかった。それでも9時過ぎには信州大学自然教育園の駐車場に車を停めた。広い駐車場には我が家の車だけ。
教育園のロックガーデンを見た後、長池のほとりを歩く。上の小池を過ぎる頃になると、森はネズコなどの巨木が目立つ。大きな岩が積み重なって、苔むした不思議な地形。その複雑な巨岩に根を張って大きく伸びる木々。岩の隙間には怪しく光るヒカリゴケ。登山道の脇には踏んでしまいそうなほどギンリョウソウが咲いている。
私のイメージする志賀高原は高原と湿原と、優しいブナ林という姿なのだけれど、おそらくこのボコボコした岩の大地と、いったん迷えば大地に溶け込んでしまいそうな火山性の荒野が志賀高原の本質なのだろう。
深く続く森にはシャクナゲの花が誘うように咲いている。足元に散っているものも多く、かろうじて残っているのはハクサンシャクナゲのようだ。案内書にはアズマシャクナゲも咲くと書いてあるが、どうやらアズマシャクナゲの時期は終わったようだ。
日影湿原には一面にワタスゲが揺れている。小さな湿原だけれど、咲き残ったレンゲツツジのオレンジ色、ハクサンチドリの濃い紫、ワタスゲの白・・・とても気持ち良い。
平日だけれど、行き交う人の数は多い。深い森に佇む岩の上の巨木を見上げながらゆっくり歩いている。
三角池(みすまいけ)のほとりのベンチで少し休憩をしよう。ここは車道に近いせいか、人はいない。みんな先を急いでいくのだろう。
さて、一服した私たちももう少し歩こう。車道を跨いて山道を登って降りると田ノ原湿原に出る。湿原の向こうにぽっこりと笠岳が見える。長野から見ると綺麗な三角形に見えるのに、ここから見る姿はかわいいおにぎりみたいだ。遠くに見える木戸池に続く斜面は黄色くなっている。ニッコウキスゲが満開なのだろう。
私たちはゆっくり木道を歩いていく。ヒメシャクナゲの花はほとんど散って、実になっているがワタスゲは白い穂を揺らしている。所々に黄色い花をつけているのはシナノオトギリか。その間に小さな小さな白い花が見えるのはモウセンゴケだ。
木道の真ん中のベンチに腰掛けていた二人連れが「気持ちいいですね」と話しかけてきた。新潟の柏崎からきたという夫婦、花と涼を求めて毎年来ているそうだ。今日は日帰りですと笑う二人は、高速道路を使わずに2時間半ほどかけて走ってきたという。同年代とみえるが元気だ。「長野は綺麗なところがたくさんあっていいですね」と言うから「柏崎の近くの八石山は一面のお花畑が素敵ですね」と話すと、その山の麓に住んでいると笑う。
楽しく話をしてから、そろそろ帰ると言う彼らと別れ、私たちはニッコウキスゲの咲く奥へ向かった。湿原にはツルコケモモの花がたくさん咲いている。
遠くまで草原を黄色く染めるニッコウキスゲの中でしばらく過ごし、来た道を戻ることにした。日影湿原の近くでオオヤマレンゲを見つけた。大きく開いた花は少し黄ばんで、散る寸前みたいだ。開き始めた純白の花びらと比べて我が身を見るような寂しさがある。
帰りは車で山の駅まで戻り、お楽しみのカレーを食べる。夫のお気に入りのカレーだ。大きな窓の向こうに志賀高原の山々を眺めながら食べるカレーは美味しい。
食後は蓮池に浮かぶスイレンを眺めてから我が家に向かった。ぽつりと雨粒が当たったのは一瞬で、長野は相変わらず乾いている。