久しぶりのドライブ、山梨に住む友人を訪ねる。もし時間があれば途中で山を歩こうと話していた。朝9時に夫の用があるから、その後で家を出る。幸い気分は好調、上信越自動車道を走って、佐久小諸JCTから中部横断自動車道に入る。自動車道は八千穂まで、ここからは国道141号を南下する。
小海町の駅マルシェで買い物をして野辺山まで登る。車はぐんぐん高度を稼いで、登山口の平沢峠は標高1450mの高さ。目の前に大きな八ヶ岳が聳えている。こんなに大きかったか・・・と、目を見張る。青空に映えてすばらしいではないか。
平沢峠の駐車場脇にはしし岩と呼ばれる大きな岩がある。200万年も前の、周辺の山々ができた火山活動の名残らしいが、露出している部分は少ないのだそうだ。
目指す飯盛(めしもり)山は学校登山のメッカらしい。大型バスが数台停まっている。その向こうにはお昼なのだろうか、シートを敷いてたくさんの子どもたちが賑やかだ。
私たちは靴を履き換え、登山口目指す。ちょうど12時、山頂でお昼を食べよう。子どもたちもたくさん登る山、道は丁寧に整備されている。標高差約200メートルの登りは、危険か所もなく、急な登りもないから友人のところへ行く途中で寄って行くのにいいだろうとの選択だった。
歩き始めると木々が強い日差しを遮ってくれる。爽やかな風が気持ち良い。ウマノアシガタ、シモツケが明るい色で咲いている。しばらく歩くとニッコウキスゲやイブキトラノオが見えてきた。ヤマオダマキもところどころに咲き、ハタザオらしい白い花をつけた茎がスックスックと伸びている。小さな葉の笹もあるが、ヤグルマソウも葉を広げていたりして、木の下は緑が豊かだ。
しばらく歩くと左側に視界が開け、野辺山の高原野菜畑が広がっている。そして白い巨大なアンテナが見える。国立天文台野辺山宇宙電波観測所のアンテナ群だ。大きいのは直径45メートルもあるそうだ。山の上から見ても迫力がある。
前を行く夫が、「わっ」と大きな声をあげて、後ずさったので何かと思ったら、夫の足元から20頭以上のチョウが飛び立った。何種類かが混じっているようだが、茶色系のチョウが一斉に舞い始めると、迫力がある。
彼らが飛び立ったところには小動物の糞があったから、そこに集まってきていたのだろう。この後も道々、チョウはたくさん舞っていた。
途中平沢山への道を左に分けてまっすぐ進む。稜線の右側に出ると、一気に目の前が開けた。富士山だ。中腹に雲をまとっているが、山頂はスッキリ見える。やっぱり長野から見る富士に比べると大きいね。
木々の間から、飯盛山の山頂が顔を出している。三角に盛り上がった山頂には樹木がないから綺麗なとんがりに見える。さぁあそこまでいくぞ。お昼は山頂でと思っていたが、日陰がない山頂は暑そうだね。どうしようかと話しているうちに山頂だ。360度の大展望とはここのことだ。八ヶ岳、富士山はもとより、南アルプス、奥秩父などの山々がすぐそこに見える。
山頂は涼しい風が吹いていて気持ち良い。大展望の中に座って団子を食べる。朝、家の近くで買ってきた団子だ。美味しい。涼しい空気とどこまでも広い展望という最高の調味料が効いている。
飯盛山山頂あたりにはあまり花が見られないが、お隣の山にはニッコウキスゲらしい花が斜面を彩っているようだ。あそこまで行ってみよう。
肩まで降りてわずかに登り返すと、そこは大盛(おおもり)山。一面にお花畑が広がっている。明るい黄色のニッコウキスゲと白い穂がかわいいイブキトラノオの大群落、そしてところどころにぽつりと咲いているアザミ、アヤメ、タカネグンナイフウロ、タカネナデシコが彩りを添えている。
この素晴らしいお花畑は10年前には鹿の食害で壊滅状態だったという。周囲を4キロほどの柵で囲って草刈りをし、復活を目指してきたそうだ。背の高いススキや笹を狩ることで、ニッコウキスゲが再び育ってきたのだろう。私たちは何も知らずに行ったが、昨年はポツンポツンとしか咲かず、今年は全盛期の7割ほどに復活したのだそうだ。地元の人の努力で美しく蘇りつつあるお花畑を見ることができて、なんというラッキーなことだろう。
ゆっくりお花畑の中を歩き、帰りは平沢山に登ってから降ろう。
三角点のある平沢山の山頂には灌木があったが、丈が低いので、富士山も、金峰山も見えている。ここから降ると道は森の中に入るので、見晴らしは効かなくなる。よく見て行こう。
平沢峠に戻った時は午後3時、たくさん停まっていた車はもうほとんどいない。
私たちも、大きな八ヶ岳にバイバイと手を振り、友人の待つ南アルプスの懐へ向かった。