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跨いでくぐって黒倉山 1247mから鍋倉山 1288m(新潟県、長野県)

2022年6月13日(月)


地図・鍋倉山

長野県と新潟県の県境に伸びる関田山脈は、標高千メートルほどの連なりではあるが、日本海から30kmほどのところに立ち上がっているからか、積雪5mを越える豪雪地帯だ。日本海からの強風と豪雪に耐えて大きくなった稜線のブナの木は地面に這うように伸びているものが多く、なかなか見られない雰囲気を醸し出している。

photo:横に伸びるブナ:鍋倉山
横に伸びるブナ

一方、斜面に伸びるスラリとしたブナの林は緑爽やかな空間を作り、豊かな自然を作り出している。今春、シンボルともされてきた樹齢約400年の『森太郎』が倒れてしまったのは残念だが、寿命だろうという。


梅雨の頃にしか見られないナベクラザゼンソウを見に行こうと、家を出たのは8時ちょっと前。渋滞を避けて山道を走り、飯山市を越えて山道を登る。9時半に到着した関田峠にはすでに数台の車が停まっていた。

地図・鍋倉高原

photo:ブナの芽吹き:鍋倉山
ブナの芽吹き

関田山脈の尾根伝いを走る信越トレイルは斑尾山から苗場山まで約110kmというロングトレイル、今日はその中間あたりの一部だけ歩くことになる。

靴を履き替えて、まずは北東方面の梨平峠を目指す。このルート上にナベクラザゼンソウが咲くという。新潟県側の光ヶ原高原へ降りるルートを左に分け、しばらく進むと湿地があるから、その辺りまで行こうと話していた。ところが、行ってみるとそこにはまだ雪がたくさん積もっているではないか。今年は雪が多かったから花はいつもの年より遅いだろう。

photo:曲がりくねったブナ:鍋倉山
このブナどうなってるの

photo:雪が積もっている登山道:鍋倉山
まだ雪がいっぱい

諦めてそこから引き返すことにした。ゆっくり森の中を探しながら歩いていると、「いた」。森の中にナベクラザゼンソウの葉が見える。大喜びで枝をかき分け、足元を見ながら(若芽を踏まないように)近づいて、そっと根元を覗いてみる。残念、花はついていない。周囲には7〜8株の大小の葉があったが、どれも花芽は見えなかった。藪から出ると二人の女性がやってきて、その人達もナベクラザゼンソウを探しにきたそうだ。

photo:ナベクラザゼンソウの葉(花はない):鍋倉山
ナベクラザゼンソウの葉はあったけど

photo:真っ直ぐなブナ:鍋倉山
真っ直ぐなブナ

私たちは関田峠に戻って、今度は黒倉山を越えて鍋倉山まで登ってこよう。黒倉山からは新潟平野と日本海が、鍋倉山からは千曲川と飯山の町が見下ろせる。

トレイル上には太いブナが倒れている。横に伸びて大きくなっているのは豪雪のせいか。稜線上のブナはみんな曲がりくねっているのだが、この登山道の1ヶ所だけはまっすぐ伸びた美林帯がある。風の気まぐれか。

photo:雪椿:鍋倉山
雪椿

photo:タムシバ:鍋倉山
タムシバ

photo:ムシカリ:鍋倉山
ムシカリ

photo:ムラサキヤシオ:鍋倉山
ムラサキヤシオ

木の花

タムシバやムラサキヤシオが終わりかけている。ムシカリも雪椿も地面に散って模様を描いている。白、ピンク、紫の花の模様の間に小さなブナの芽吹きがたくさんある。こんなに芽を出しても大きくなるのはほとんど無いのだから、自然は厳しい。

photo:アズキナシ:鍋倉山
アズキナシ

photo:ウワミズザクラ:鍋倉山
ウワミズザクラ

photo:オオバクロモジ:鍋倉山
オオバクロモジ

photo:ツルシキミ:鍋倉山
ツルシキミ

小さい花が集まって咲く

それにしても太いブナの木を跨いだり、くぐったり、大変だ。おまけにまだ雪解け間もない道、しかも雨が続いた道はグチョグチョしていて歩きにくい。思ったより重労働だ。高低差はほとんど無いのに、足が疲れる。「屈伸運動しながら歩いているみたいだ」と夫は苦笑い。

photo:上から下から横から障害物が遮る登山道:鍋倉山
屈伸運動しながら

photo:クロサンショウウオの卵オブジェ:鍋倉山
クロサンショウウオの卵オブジェ

筒方(どうがた)峠の黒倉小池にはカエルの鳴き声が満ちていた。小さな池には一面にクロサンショウウオやカエルの卵が見える。雪のいたずらか、中央に卵をつけたまま枝が伸びていてオブジェのようだ。雪の重みで池に沈んでいた枝が、雪解けと共に卵をつけたまま立ち上がったようだ。

photo:ユキザサ:鍋倉山
ユキザサ

photo:ミドリユキザサ:鍋倉山
ミドリユキザサ

photo:ツクバネソウ:鍋倉山
ツクバネソウ

photo:サンカヨウ:鍋倉山
サンカヨウ

森の中に咲いている

池の周囲にはまだ蕾のサンカヨウが緑の葉を広げ、ユキザサが名前の通り純白の雪のような花をつけている。

ここからの道は思っていたより長く感じた。雪深い森という雰囲気が濃く漂う森には白い綿毛のようなものが漂っている。風に乗ってふわふわ浮いているのかと思えば、それは小さな虫だった。黒いリュックにとまり、ファスナーの上を歩いたのでようやく形が見えた。

本当に不思議な形をしている。綿に足が生えたようだ。綿虫とも雪虫とも呼ばれる虫だろう。

生き物が豊かな森は大切だけれど、小さな羽虫がまとわりついてきて、稀にちくりと刺されるのがちょっと厄介だ。ここは彼らの住処なのだから、まぁ仕方がないか。

photo:線虫,虫瘤,カエルの卵,昆虫の交尾:鍋倉山
小さな生き物がいっぱい

黒倉山への長い道にはご褒美もあった。オオイワカガミが満開で、少し薄めのピンク色が木々の足元を明るく照らしているようだ。そしてびっくりするほどのウスバサイシンの群落。2枚の葉の足元にコロコロと転がっているツボ型の花がくっつき合うほどだ。ブナの木を跨いだりくぐったりは覚悟の上だったが、花の写真を撮ったり眺めたりするたびにしゃがんでは立っての繰り返し・・・ますます屈伸運動が多くなる。

photo:ウスバサイシン:鍋倉山
ウスバサイシン

photo:オオイワカガミ:鍋倉山
オオイワカガミ

photo:イワナシ:鍋倉山
イワナシ

photo:ギンリョウソウ:鍋倉山
ギンリョウソウ

足元に咲く花々

はぁはぁ言いながら黒倉山の山頂に到着したら先客がいた。新潟県の筒方峠の下に住むという年配の夫婦で「地元です」と笑う。いろいろな山へ花を見に行くとニコニコ話している婦人と黙って頷いている夫君のコンビネーションが気持ちよかった。

降っていく二人と別れておにぎりを食べる。残念ながら視界は真っ白。新潟県側の下の方はガスが湧いているようだ。雲が多いので、急いで鍋倉山まで行ってくることにした。途中まだ雪がたっぷり残る谷を左右に見ながら登る。

photo:二つの山頂で:黒倉山,鍋倉山
二つの山頂で

photo:曲がりくねったブナ:鍋倉山
圧巻のブナ

photo:入山者数調査のチェックポイント:鍋倉山
入山者数調査のチェックポイント

photo:鍋倉山頂近くの大きなブナ:鍋倉山
鍋倉山頂近くの大きなブナ

photo:斜めになったブナの幹から下へ伸びる根:鍋倉山
根が出ているのかな?

1時40分、鍋倉山の山頂に到着。20〜30分の距離なのに長野側は青空、暑い。大きくかしいだ木の幹から針のようなものが突き出している。新しい根を伸ばそうとしているのだろうか。雪深い森にはキノコも多く、春夏秋が合体しているような気がする。

photo:たくさんのキノコ:鍋倉山
キノコもたくさん

photo:ふわふわキノコ?:鍋倉山
ふわふわしているけどキノコだろうか


疲れた体で再び屈伸運動をしながら関田峠に戻る。少し降った茶屋池周辺を歩いてから帰ろうと、茶屋池まで車で降りる。

photo:碧がきれいな茶屋池:鍋倉山
碧がきれいな茶屋池

photo:千曲川流域を見下ろす:鍋倉山
中腹から千曲川流域を見下ろす

綺麗に澄んだ池の碧と、池に映るブナの新緑を見ていると、一足先に池のほとりに立っていた若い男性が「新緑も綺麗ですね」と話しかけてきた。その男性は、ナベクラザゼンソウの調査をしている県の職員だそう。嬉しくなって話が弾んだ。ナベクラザゼンソウは熊の大好物だそうで、熊が関田山脈に戻ってきてから花の個体数が減り、株の大きさもどんどん小さくなっているとのこと。サトイモ科の植物は光合成して栄養を根に溜め翌年花を咲かせるから、光合成ができなくなると根が痩せていくことになる。根が痩せて株が小さくなると、花も小さくなったり、つかなかったりする。「フキがたくさんあるのだから、熊さんはフキを食べればいいのに・・・」と私が言うと、おかしそうに笑う。

photo:下の駐車場から鍋倉山頂を振り返る
鍋倉山頂を振り返る

私たちが話し込んでいると、二人の女性がやってきた。朝登山道で会い、ナベクラザゼンソウを探していると話した人たちだ。一人の女性は自然のガイドをしているそうで、花のことにも興味が深く、私たちは一緒にしばらく話し込んだ。

気がつくともう4時半だ、帰ろう。調査の若者にもお礼を言って私たちは帰路に着いた。


一ヶ所だけ見つけた花芽がついているナベクラザゼンソウは、たった一人で立っていた。フキの近くにあったから、熊さんにも見逃されたのだろう。

photo:ナベクラザゼンソウ:鍋倉山
ナベクラザゼンソウ

どうか元気で、また行った時にもすっくと立っていて欲しいと強く思った。




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