日曜日、今日までは晴れ、明日は雨という予報。「袴岳まで行ってこようか」と夫。5月初旬に行ってみたが、大雪が残っていたので引き返した。袴岳のブナの新緑が好きで、毎年出かけていたが、一昨年は秋だけ、昨年は行かなかった。
今年は雪が多くて花々も遅いだろうと、期待して行ったが、春は駆け足で通り過ぎていくようで、もう初夏の雰囲気だった。それでも、久しぶりにブナの森の空気をたっぷり浴びて1日山を楽しむことができた。
野尻湖の東湖畔を回る道は近いけれど、狭いうえにクネクネ曲がっているので一度しか走っていない。今日は久しぶりに行ってみようという。湖岸から見える妙高山や黒姫山が素晴らしい。何台かすれ違ったけれど、互いに譲り合って走ったので気持ちよく斑尾タングラムへの道に出た。スキー場やゴルフ場を越えて万坂峠に着くと、赤池への道に入る。ほとんど車は走っていない。赤池の駐車場も我が愛車のみ。家から50分だ。
静かな赤池を後に登り始める。しばらく行くと袴池へ続く道の脇が大きく崩れている。崖には草木がない。今年の大雪に削られたのかもしれない。池に近づくと一段と蛙の声が賑やかになる。近くのオオイワカガミはほぼ花の時期が終わっていたが、まだかろうじて花を残している。池にはミツガシワが満開だ。クロサンショウウオの卵もプワプワ沈んでいる。
袴岳へ登るにはこの先を右折していくのだが、直進して袴湿原の様子を見てから登ることにする。沢沿いに行くとサンカヨウが群生している。ここへ来る楽しみの一つにしているのだが、今年はすでに散ってしまったものが多い。
湿原は訪れるたびに乾燥化しているような気がする。灌木が茂ってきた。入り口の木道下にはいつも水が溜まっていたが、今日はその水溜まりが見えない。
少し戻って山頂への道を登る。何度か訪れているので、親しみがある道だ。ここでフデリンドウ、ここでスミレ、エンレイソウの群落、そして見上げると山葡萄の蔓。記憶の花々をたどりながら「また会えたね」と挨拶する。
沢を一つ越えるとブナ林になる。太い幹はいつ見ても美しい肌をしている。新緑というにはもう緑濃くなった葉を茂らせて、山の空気を揺らしている。夫がよく言うが、ブナの森に入ると酸素が濃くなったような気持ちよさに包まれる。
懐かしい道を辿り、二つめの沢を越えると山頂は近い。山頂からは目の前に妙高山、隠れるように三角の白い頭を出しているのは火打山、左には大きな黒姫山と高妻山、乙妻山。ありがたいことに雲はなく綺麗に見えている。
山頂のベンチに腰掛け、のんびり二人だけの時間を楽しみながら会話をする。目の前の山に登ったのはいつだったろう、峰々を目で追いながら「あそこはきつかったね」などと話している。
まだお昼には早い時間なので、北側へ降ることにする。一周して赤池へ戻るコースだ。少し降ったところにコシノカンアオイの大群落がある。足元の花はもう朽ちかけているが若緑の柔らかそうな新しい葉がたくさん出ている。
さらに降ると山際に一面オオイワカガミの群落だ。こちらも花は散って、実になりかかった穂が伸びている。そしてやはり若緑色の丸い葉がキラキラ光を反射している。やっぱりちょっと遅かったねと話しながら降っていく。しばらく降るとどこまでもシダが茂る原に出る。ホオノキが枝を広げ、大きな白い花がたくさん見える。
シダに隠れるような道をどんどん降った。一段下がってはシダの原、また一段下がってもシダの原、この道はどこまで続くのかと思うほど長い。
この道沿いのサンカヨウも見事なのだが、花は終わり緑色の実をたくさん膨らませている。もっと大きくなれば白い粉を吹いたような綺麗なブルーになってくる。オオタチツボスミレや、ツボスミレ、ツクバネソウ、ホウチャクソウの群落もある。フキの花も真っ白に続いているとなかなか見応えがある。大きく伸びて咲いている雌花の下には役目を終えて黒く枯れている雄花がある。
ようやく沢に突き当たると、小さな、小さなアズマシロカネソウがまだ咲いていた。多くは実になっていたが、最後の小さな花が残っていた。近くにはネコノメソウも実になりかけている。フデリンドウもたくさん咲いている。サワハコベやミミナグサなどの小さな花が多い。
だが時々ミヤマキケマンの明るい黄色が現れたり、ルイヨウショウマの純白の花穂に迎えられたりする。めだたないルイヨウボタンのクリーム色の花も咲いている。
花を見つけては喜びながら、赤池へ続く車道に出た。
水の流れる音を聞きながらブナの木の下でおにぎりを食べる。森の空気は特別な調味料だ。我が家のおにぎりが一段と美味しく感じる。
赤池までの車道沿いにはタニウツギの花が絶えることなく続いている。道沿いのフキを摘みながらのんびり歩く。今日の晩ご飯はふきの煮物でいただきます、だ。