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古池湿原・種池、戸隠森林植物園(長野県)

2017年5月19日(金)


写真・黄色いミズバショウ
黄色いミズバショウ

今年はミズバショウにたくさん出会った。軽井沢植物園では初めて黄色いミズバショウも見た。戸隠で6月中旬に、焼額山では6月後半になってまだ咲いていた。そんなことを思い出していたら、古池湿原に行った時の雄大な景色が再び目の前に広がった。

いつになく、ミズバショウに縁のある春だった。

最初は家からも近い『むれ水芭蕉苑』。昨年初めて行って、森の中に広がるミズバショウ、リュウキンカ、ニリンソウのみごとな群落に出会ったので、友人に「見に来ませんか?」と声をかけた。


Video:「むれ水芭蕉苑 2017.4.19」01:55

=咲き始めたミズバショウとせせらぎの音=

写真・むれ水芭蕉苑
むれ水芭蕉苑(2017.4.30)


誘いにのって泊まりがけでやってきた友人夫婦と一緒に出かけたのは4月末。昨年より1週間は遅かったが、ミズバショウもリュウキンカも一斉に咲き出して鮮やかだった。


それから、斑尾山腹や黒姫山腹などを歩いて、そこに広がるミズバショウの咲く湿原を見た。

地図・古池湿原

今年は雪が多く、寒さがいつまでも残っていたせいか、山の花が遅かった。黒姫山の西登山道にあるという古池湿原に行ってみようと出かけた時も、例年ならミズバショウはお化け葉になっていたかもしれない。ミツガシワが一面に咲くというので、それも楽しみだったが、今年はまだ堅い蕾がツンツンしていた。


飯綱高原から戸隠高原、戸隠キャンプ場を通って黒姫の山麓に着く。道路の左右に広がる森の中には雪解け水が豊富に流れ、いたるところにミズバショウの白が転々と続いている。助手席からあっちを見、こっちを見て歓声を上げる私を横目で見ながら、夫は黒姫山西登山道の入り口駐車場に車を停めた。ここからは県道を5、6分歩き、古池(大橋)登山口から山道に入る。県道の脇には水が流れ、ミズバショウやリュウキンカが鮮やかだ。ここにも数台停められるが、思っていた通り道路にはみ出すようにいっぱいだ。

写真・種池のアオサギ
種池(円内はアオサギ)


歩き始めから深い森。道は整備されているが、背の高い笹がびっしり茂っている。これはクマザサだろうか。道にはみ出してきている茎をポキポキ折りながら歩いていくと、何本もすでに折られた茎があって、おかしい。同じことを考える人がいるんだ。


写真・種池のアオサギ、カエルと卵
種池のカエルと卵

20分ほどで種池への分岐に着く。種池は小さな池だったけれど、森に囲まれたとても静かなところだ。中州でもあるのだろうか、大きなサギがすっくと立って水面を見ている。水辺には太いトコロテンのようなものがグニャグニャとたくさんある。これはカエルの卵だ。ヒキガエル。のぞき込むと、いるいる、大きな赤っぽいカエルがのっそり動いている。手足を伸ばしてぼんやりしているのもいれば、交尾しようと重なっているのもいる。ここはカエルの天国かもしれない。静かと言ったけれど、カエルの声は別、カエルと鳥の声は賑やかだ。けれど、人口の音はない。


種池から再び登山道に戻り、笹を分けながら10分ほど登ると視界がひらけ、古池の畔に着く。古池は人口の貯水池だそうだが、なかなか広い。カッコウが鳴いている。

写真・古池のほとりでコカリナを吹く
古池のほとりでコカリナを吹く

私はコカリナを取り出して『カッコウ』の曲を吹いてみた。コカリナは木で作られた小さな笛、陶器のオカリナに似ているが、音はさらに柔らかい。友人にもらって吹き始めて2週間ほど、あまりに下手だったからか、カッコウはこれは違うと思ったようで鳴きやんだ。夫は「カッコー、カッコーのところだけ吹いていれば?」などとちゃかす。まぁ、その通りではありますが。

それでもその後何カ所かでいくつかの曲を吹いて、鳥も諦めたのか一緒に鳴いてくれ、広い自然の中でのコカリナ演奏は気持ちよかった。


写真・古池湿原
古池湿原

古池の西岸を巻くように進むと山の麓に不思議な光景が広がった。鉄分が多いのか、茶色の湿原にミズバショウ、リュウキンカが咲き競っている。雪を抱いた山、シラカバ林、そして茶色い湿原に純白のミズバショウ。息をのむ美しさだ。興奮して奥に踏み込もうとするが、木道が腐って水面に没し、踏み込めない。私と夫は湿原の淵に立ち、しばらく眺めていた。


Video:「黒姫山麓古池湿原にて 5.19」01:10

=ミズバショウとリュウキンカ、カッコーの声、そしてせせらぎの音=

写真・古池湿原のミズバショウ
古池湿原のミズバショウ
(黄色はリュウキンカ)


さらに古池の岸辺に整備された木道を進むと黒姫山をバックに湿原が遠くまで広がっている。木道に一人の男性が座って何か機械を操作しているのが見えた。モーター音は上からしている。話題の飛行カメラ『ドローン』だ。私たちが見ているうちに『ドローン』は木の枝にぶつかって落下してしまった。なかなか難しそうだ。男性は古池によく来るとかで、今年は花が遅いと話していた。いつもならミツガシワが満開になる頃なんだけれど・・・と。

落下した『ドローン』を探しに行った男性と別れて、私たちは古池一周コースに進んだ。

写真・古池湿原北側
古池湿原北側

水辺にはクロサンショウウオの白い卵塊もあり、スミレやショウジョウバカマ、エンレイソウ、ネコノメソウなどが豊かだ。

写真・クロサンショウウオの白い卵
クロサンショウウオの卵

中でも私を喜ばせてくれたのは、きれいな赤紫色のウスバサイシン。夫は「よくこんなものを見つけるね」と感心するが、確かに葉の根元に隠れるように下向きに咲くカンアオイの仲間は見落としやすいかも知れない。

写真・ウスバサイシン
ウスバサイシン

ネコノメソウが沢山咲いているところで写真を撮っていたら、近くにタケシマランも地味な花をぶら下げて一塊になっていた。実を見ることはあるが、葉の下に隠れるようにぶら下がって咲くこの小さな花もなかなか見つけにくい。

古池を一回りして、黒姫山と池の風景を目の奥に焼き付けて、来た道を戻ることにした。

広々とした気持ちのよい空気の中でリフレッシュし、駐車場に戻った私たちは、帰りに戸隠に寄ってみることにした。

写真・花3種
上:タケシマラン
下:フデリンドウ 右:ネコノメソウ


奥社への参道入り口の駐車場に車を置いて、植物園に入る。ミズバショウはもちろんだが、カタクリやアズマイチゲ、キクザキイチゲ、ヤマエンゴサクなどが惜しげもなく花ひらいている。植物園の散策路は木道が敷かれ、整備されていて幾筋ものコースに分かれている。

助手席からたっぷり眺めてきたミズバショウを夫もゆっくり見たいよねと、ミズバショウコースに進む。一面のミズバショウだ。名前に恥じない広がりに言葉もなく、私たちは木道を歩いた。


写真・植物園
戸隠森林植物園

森林植物園には長い大きなレンズをつけた重そうなカメラを持ったグループが何組もいた。木道の片側に三脚を並べて太い木の上にレンズを向けている一団がいた。端の人にそっと聞いてみたら、「オオアカゲラが子育て中なので、エサをとって戻ってくるのを待っている」とのこと。少し前に撮ったというオオアカゲラの姿を見せてもらった。少し離れたところにも何人かいたが、「あちらはオオルリがいますよ」と教えてくれた。鳥の写真を見ると美しいと思い、森の中で鳴き声を聞くと、とても心地よいのだが、なかなか見ることが出来ない。

「戻ってこないかなぁ・・・」などと巣穴を見上げていたが、数分も辛抱できなかった。鳥のカメラマンはカメラを構えて、一体どのくらいの時間待っているのだろう。私たちには出来ない芸当だということを実感して再び歩き始めた。

ごくまれに、近くにいる鳥の撮影に成功した時は大喜び、少しくらいピントが合っていなくても、自分たちをほめているのも幸せかもしれない。


森の奥に進むと、太い松が何本も倒れている。湿原の上にかぶさるように倒れていて痛々しい。あまりにたくさんの倒木に、整備が追いつかないのだろうと思わせられる。

写真・植物園の花
シラネアオイ  サンカヨウ  トガクシショウマ

森の奥から大きく回って植栽されている植物園に向かう。周囲をシャクナゲの濃い緑に囲まれた植物園はまだ早春の茶色い姿だったが、淡いピンクの花の塊が見えた。紫がかった大きな花びらはまさしくシラネアオイ。今年も何度か探して山に入ったけれど、雪深く、まだまだだった。植栽とは言え、沢山の花に会えるのは嬉しい。

目を移すと幻の花トガクシショウマも咲いている。白い透明の花びらのサンカヨウも咲き始めている。周囲を囲むシャクナゲは濃い赤の蕾をつけて、まだまだ咲くのは先のようだ。

もちろん自然の中で出会えるのが一番だが、トガクシショウマは盗掘されて今では絶滅の危機に瀕しているそうだ。自分本位の人間の悲しさを身にしみて感じる。

写真・戸隠蕎麦
美味しい戸隠蕎麦

自然が活き活きしているところでこそ人間も活かされるということを、いつになったら学べるのだろうか、この社会は。


花々に会えた喜びを抱きながら、帰路に着いた。戸隠のおいしい蕎麦を食べて、幸せにおまけがついたのは言うまでもない。




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