今日のおにぎりは青唐辛子味噌を入れる。ちょっぴり辛めでご飯が弾む。ゴールデンウィークが終わったから道路も空いただろうと、車で出かけることにした。斑尾山の奥の袴岳に行こうと思っているが、走りながらもまだ迷っている。今年の雪の多さがどれほどか見極め難いということもある。赤池までの県道がこの数年通行止めになっていたということもある。万坂峠からの登山道を行くかとか、沼ノ原湿原から山を越えて赤池に至る道を行くかとかあれこれ迷いながら、とりあえず万坂峠を目指すことにした。
斑尾山の中腹を越えて新潟県側に出ると、まだ雪が解けない道もあって、迂回路の案内がある。万坂峠の少し手前から右に曲がる県道97号線はやはり通行止めとなっていた。が、看板に「赤池までは通れます」との文字が。私たちは大喜びで道を曲がった。
しかし赤池に近づくと、走ってきた県道から赤池駐車場まで降りていく道は一面の雪に覆われていた。前に来た時は雪掻きがしてあったけれど(※)。
県道もここから先は通行止め、少し広くなっている路肩に2台の車が停まっている。私たちもその後ろに車を停める。
道路脇の道標が大きくかしいでいるのが、雪の多さを物語るようだ。直せるかなと、夫が手をかけてみたがびくともしない。とりあえず、靴を履いて歩き出す。赤池周辺は日が当たるのか、雪が少ない。雪が解けたばかりの地面には点々と黄緑の芽が出ている。フキノトウだ。斑尾山の南側ではもう葉が広がっていたコゴミも、ここではまだしっかり丸くなっている。大喜びすると、「採るのは帰りね」と夫に釘をさされる。
初めは茶色が多かった登山道だが、登るにつれて白く覆われてくる。踏み跡は全く無い。行先を見通してコースを選びながら歩いていく。灌木が倒れた上にかぶさった雪は踏み抜くと怖い。小さい沢は全く埋もれてしまっているが、所々雪が薄くなっているから、これも踏み抜いてしまったら大変だ。以前雪の中を山頂まで登ったことがあった(※)が、その時は袴池辺りまではルートが明確だった。
所々雪が被っていても、登山道が見え隠れしていたから安心して歩くことができた。今日はこれほどとは思っていなかったので、アイゼンも持ってこなかった。慎重に一歩一歩進む。
所々に顔を出す大地には一早くキクザキイチゲの白い花が開いている。エンレイソウもようやく葉を広げ始めた真ん中に小さな蕾を掲げている。とても小さなスミレがフキノトウの間に顔を見せている。雪の下でちゃんと準備をしていたんだろうな。
ユキツバキの森は濃い緑に光っている。花はまだポツリポツリと数少ない。そしてその上にはブナの新緑が広がってなんとも言えない美しさだ。やっぱりこれが見たかったんだよね。思わず空気の中に溶けていくような解放感がある。
ぼーっと森を見上げたり、遠く鍋倉山を見たり、谷の狭間から赤池あたりを見下ろしたりしながらゆっくりゆっくり登っていく。そしてついにほとんど雪面ばかりになってしまった。
雪の上には森の落とし物が残っている。落ち葉や木の実、小動物の糞、折れた枝、そして大きな倒木もある。春になってから加わった落花もたくさん散らばっている。巨大なカンヴァスに自然が描いた絵のようだ。木の花は小さくて目立たないうえに、春一番に咲いてしまうから私には見つけられないことが多い。オオバクロモジに似た黄色い花、ブナの小さな丸い毛玉のような花、足元に散らばっている花を見つけて上を見る。それでも梢が高くて見えないことが多い。
森に包まれていると豊かな気持ちになるのは、木々の美しさだけではない。そこにやってくる小鳥の声もまた私たちの足を止める。遠く近く囀る声にキョロキョロする。姿を見るのは難しいけれど、囀りを聞くだけで嬉しくなる。
さて、どんどん深くなる雪に、今日は山頂まで行くのは無理かなと思う。アイゼンもないから、急な下りは滑らないように気を使う。残雪の山はどこを歩いても自由だから、とても楽しいのだけれど、ルートを探しながら歩かなければいけない。
「今日はここまでにしよう」、撤退の決断も大事だ。
雪が消えたばかりの沢筋に咲くミズバショウが、早く春になぁれと言っているように見えるのは自分達の気持ちが映っているのだろうか。フキノトウを摘みながらのんびり赤池まで降ると、池の周辺にはフキノトウを摘む人の姿が見える。道路に停まっている車は山菜採りの人たちだったんだね。車に戻ると、道端のコゴミが美味しそう。これもいただいて行こうと、袋をいっぱいにして車に乗った。