4月1日、冬の間閉鎖されていた地附山公園が開園になった。お祝いというには厳しい朝の雪が山肌をうっすらと白く染めている。冷たい風が木々を揺らしている。
地附山の標高はそれほど高くないけれど、中腹の公園と合わせてたくさんの人が訪れる人気の山だと思う。長野は太平洋側の植物と日本海側の植物が混在する好立地なのだとか、確かに植層は厚いと感じる。
午前中かかった夫の用が済むのを待って出かけた。朝の雪はほぼ溶けたようだが、風は冷たい。昼過ぎ、今日は公園からと、車で地附山公園駐車場まで登る。管理棟の前で西澤さんが動いているのが見える。挨拶をしてから登ろう。
冬の間は駒弓神社からの道か、物見岩の方からの道だけ歩いていたから、公園からの道は足に優しいと感じる。傾斜が少なく、道幅が広いからだが、今日の山はまだ冬の面影が強い。散り積もった落ち葉が風に煽られて道の上を舞っている。
風に押されるようについつい早足になる。六号古墳への分岐を右折、小さな階段道を登って歩き、前方後円墳を通る。この先の旗立岩のところから街を見下ろす。崩れる危険があるから現在は立ち入り禁止になっているが、四角い岩が屹立している旗立岩は、魅力的だ。鉄ちゃんの夫は、ここからJR車両センターを見るのが楽しみなのだ。あまりに遠いので、時には霞がかかってほとんど見えないこともあるのだが・・・。それでも電車は大きいので、カメラの望遠レンズでなんとか捉えることができる。
電車を眺めた後は一気に山頂へ。さすがに寒い今日は誰にも会わない。山頂から美しい飯縄山を眺めるのも震えながら。定点撮影をして急いで降ろう、体が冷えてきた。
所々に顔を出すショウジョウバカマやシュンランも、まだ蕾だ。
今年は冬の終わりから見守ってきたツノハシバミの雄花が開ききっている。ダンコウバイはあちらこちらに黄色いカーテンを広げて、存在をアピールしている。蕾がかたいのは雌花だろうか。雄蕊を伸ばした雄花は鮮やかな黄色に広がって大きく見える。公園からの道にはたくさんのカエデがあるが新しい枝が赤く日の光を反射して、花かと見紛う。
公園まで降りてくると、少し空気に温もりが感じられる。それでも4月になったばかりの午後3時半はどこか夕暮れの気配が漂っている。登る時に遊んでいた親子連れの姿はもうない。管理棟の脇のお花畑に寄ってみよう。作業をしていた西澤さんが手を止めて説明してくれる。昨年にはなかった看板が立っている。『地附山公園ミニ山野草園』と書いてある。ほとんど西澤さんが一人で育ててこられた山野草たちだが、たくさんの方々の共感を得られて、経済的にも少し安定するようだ。自然の仕組みを大切にしながらその地域の植物を守っていくことは大変なことだ。少しでもその輪が広がっていく様子を見ることができるのは嬉しい。
私たちにも何か応援できることがあればいいのだけれど・・・と密かに思う。
山野草園には小さなイワウチワが薄い花びらを開いている。今年はセツブンソウも咲いたそうだ。ショウジョウバカマがいくつも花穂を持ち上げている。山の上ではまだ蕾がかたかったけれど、日当たりが良いこの山野草園ではもう咲いている。
ほんの数日前には暖かい日差しの中で春の花たちが開いていたのに、今日の雪にびっくりしたのか、花びらを閉じて日差しを待っている。そんな中、小さな苔は目立たない木の影などに生き生きと伸びて、小さな胞子嚢を掲げている。俳句の季語では苔の花とも呼ぶように、苔にとっては種の保存に大切なもの、花と呼んでもいいだろう。
これから山は一気に春の気配を濃くしていくだろう。花々が咲き競うように開いていく。私たちは追いかけるように花に会いに出かける。今年の花は昨年と違うだろうか。きっと同じなのだろうけれど、自分が一つ歳を重ねて花に会う時の目が力を持てていれば嬉しいのだが。
アカマツが松枯れ病になって、ずいぶん伐採されてしまった。山道を歩いていると何だか視界が開けたような気になるところが多い。しかしこれはただ喜んでいていいのか?異常に松ぼっくりをつけたアカマツの木、足元一面に散り敷いた松ぼっくり、この姿はやっぱりどこか不自然な気がする。
私は森の中に入ってまだまだ日が浅いというふうに思っている。針葉樹の森に入って首が痛くなるほど見上げても、木の名前がわからない。地附山にも何種類もの針葉樹があるが、さて名前を呼べる木が何種類あるか。アカマツ、カラマツ、スギ、ネズコ、サワラ・・・そう言えばゴヨウマツもあった、さてさてまだまだ森に教えてもらうことは多そうだ。やっぱり明日も山へ行こう!