暮れから新年にかけてずっと雪が降り積もっているのは珍しい。小学生の孫にせがまれてスキーに出かけたのは2021年大晦日。黒姫高原スキー場を目指して2台の車で出かけたが、前から吹き付ける大雪で、ワイパーに氷がくっついてゆく。フロントガラスが真っ白、道路も真っ白、だんだん視界が狭くなる。なんとか信濃町まで行ったが、道の駅で断念。道の駅も休業で、駐車場は30センチほどの新雪に埋まっている。子供たちは大喜びで雪に埋もれていたが、大人は寒さに震えた。帰り道は風が背中を押していたので行きより楽に家に着いた。ニュースによると、黒姫のこの日1日の積雪は30センチだったそう。
家に帰って温まりながら黒姫高原の話をした。スキーにも行ったことがあるが、やはり濃霧の中で視界がきかなかったことを思い出す。黒姫高原には何度も出かけているが、黒姫山に登ったのは一度だけだ。北信五岳(斑尾、妙高、黒姫、戸隠、飯縄)の一つで、立派なコニーデ型火山、麓から見るとどっしりとした大きな姿が魅力的だ。
その魅力的な黒姫山に登ったのは秋も深まる10月中旬だった。当時住んでいた神奈川の家を土曜日の昼に出た。長野に一泊し、日曜の早朝から登り始めた。危険なところはないけれど、ひたすら登り続ける、体力勝負の山という感じだった。秋の日は短く、降りてきた時は薄暗くなっていて、長い高速道路を走って神奈川の家に着いた時は午前1時を回ってしまった。
あまりスッキリした秋晴れではなかったのだが、それでも山頂からの眺めは雄大で感激したことを覚えている。
7時半、表登山道への道を歩き始める。森の中の平らな道をまっすぐ黒姫山に向かって歩いていく。白樺の葉が黄色になり、桜の葉が赤になり、秋爛漫だが太陽が雲に隠れているので全体にまだ暗い。
1時間ほど歩いて道の端に腰を下ろして朝ごはんを食べる。平らな林道を歩いている時、私は道端に四葉のクローバーを見つけた。歩きながら何気なく草むらを見ると、四葉のクローバーが見える。「今日の登山は楽しそうだ」などと根拠のない幸運を喜ぶ。
平坦な道は次第に傾斜を増し、いよいよ七曲がりが始まる。黒姫山の森林は奥深く植生豊かな感じで、紅葉の彩りも賑やかだ。昔から目印になっていたというシナノキの大木が目を惹く。ダケカンバやブナの森は気持ち良い。ジグザグに曲がりながらぐいぐい登って約1時間、日の出岩に到着したのは10時。ここは五合目と書いてある。
長野の10月は、早ければ雪が降ることもある。山はすっかり秋深し、紅葉は綺麗だが、花の姿はほとんどない。秋遅い花も盛りは過ぎて枯れかけている。それでも赤や黒に実った実を見つけて喜ぶ。
さて、五合目を過ぎてもまだまだここからが大変。野尻湖を見下ろして「ずいぶん高くなったね」などと話しているうちは良かったが、さらに道は険しくなる。八合目くらいになると、重なった岩のゴツゴツした道になる。チシマザサが濃くなってくると、森は針葉樹が増えてくる。火山らしい重なった岩の道は薄い地表でも生きることができる植物が頑張っている。大きな火山岩の重なりは、下に空間を作っていることが多い。そこを覗くとヒカリゴケが見える。黄緑に光る姿は神秘的でちょっとドキドキする。
さらに急登を頑張ると山頂稜線に登りつく。ここは黒姫火山の外輪山になるところだ。右からは小泉登山道が合流する。小泉登山道は黒姫童話館の方からの登山道だ。合流してからは岩でゴツゴツした道を進むと頂上に至る。稜線から右には木の間越しに中央火口丘の御巣鷹山(小黒姫)が見える。足元に目をやるとそこは火口、緑色の湿原が広がっている。大池、七ツ池が光を反射している。黒姫山の伝説によると、大蛇に結婚を迫られた娘が身を投げたとされる池だろう。見下ろすだけでも魅力的な雰囲気、気持ちは誘われるがここへ寄っている時間はなさそうだ。
山頂到着12時40分、大展望だ。雲が多く、大気は霞んで見えるのだが、思ったより遠くの山がよく見える。富士山が小さく見えている。どこから見ても美しい三角形、そして裾を綺麗に引いている独立峰なので、見つけやすい。日本一の標高というのもあるだろうが、やはり富士を見つけると嬉しくなるのは日本人だからか。
槍、穂高連峰も魅力的なスカイラインがよくわかる。そしてすぐ目の前には、見慣れた後立山連峰の峰々の向こうに立山、剱が特徴的な姿を見せている。