長野市にも初雪が降った。とうとう冬がやってきた。庭の雪は太陽が上がると1日で消えたが、湿った重い雪だったようで、薔薇やローズマリーの花をつけた枝が何本も折れてしまった。
若いころは「さぁ、スキーシーズンだ」と気持ちが弾んだものだが、今は「登れる山が少なくなってしまうなぁ」とか「花に会えないなぁ」などと思ってしまう。スキーももちろん楽しいのだが、休日を見つけては朝の3時頃から何時間も車を走らせて行っていた頃のような元気はない。スキー場は近くなったのに・・・皮肉なことだ。
などと泣き言を並べていてもしょうがない。今こそ裏山の奥を極めよう。というのは冗談だが、裏山を歩くことができるのはありがたいことだ。たまたま午前中用がある日が続いて、午後の山を歩いてみたら、夕焼けに染まる遠くの山や西の空の美しさに出会えた。家の近くから見る景色とは違う山の夕焼けだ。
午後になると登る人も少ないから、自由にのんびり山の中をウロウロできる。またいつもと違う出会いもある。午後2時半頃、地附山山頂近くに差し掛かったら木が擦れる音がする。山頂への最後の登りで人が動いている。木を伐採しているようだ。近寄っていったら「遅いですね」と声をかけられた。「昨日よりは少し早い時間です」と答えるとびっくりされた。地附山の愛護会会長さん、登山道の上に倒れかかっている木が危ないからと、片付けているそうだ。
会長さんにお礼を言って山頂へ。自分がいいと思うことを一人でも黙々と実行する姿はとても清々しい。自分もそうありたいと思うのだが・・・さて。
初雪の日は地附山公園も白くなったと聞き、2日後に時間を見つけて登ってみた。もう南側の登山道には雪の影はほとんど残っていない。森の中の日差しが遠い地面に鹿子状に白く見えるだけだ。だが、地附山の北斜面、スキー場跡は真っ白だった。地形と方角がいいのだろうか、なるほどここがスキー場だったということが頷ける。夫は子供の頃このスキー場で滑ったことがあるという。ロープ塔を使って斜面を登って滑る小さなゲレンデだったが、小学校の授業でも使われたと聞く。1962年から1970年という短い間の開業だったそうだが、近くの人にとっては懐かしいスキー場だろう。
初冬の里山は見晴らしが良い。木々は葉を落とし、草は枯れる。特に雪が降ると一気に葉も実も落ちてしまうし、草も地面に倒れてしまう。雪の後の山道を歩いているとポトッポトッと音がする。樹上に凍りついていた雪の塊、氷片が溶けて落ちてくるのだ。森の中にポトッと音がすると「雨?」と思うが、見上げると輝くような青空。そのうちに頭にもポトリと水滴が落ちてきて、木々が暖まったんだと知る。
木の実や草々の実の姿も見えやすくなるから探して歩く。雪の後はたくさん実を落としているから、普段見つけにくいものも発見できる。ヤマナシの実がゴロゴロ落ちているので見上げたら、あった。葉を落とした枝の先に大きな実がまだいくつもぶら下がっていた。これがヤマナシの木と、根本から見上げていったら途中に大きなヤドリギがついていた。
なんだか挨拶したくなってしまった。来年もよろしくお願いします!?
冬になると花はあまり咲いていないが、春を迎えるための準備はもう始まっている。それぞれの実が来年に命を繋ごうとしている。綿毛になって今にも飛びそうな姿も光を反射して美しいが、飛んでいった後に残る萼が白い小さな花のように見えるものもあって、かわいい。時間の移り変わりを感じさせてくれる自然の姿を探してゆっくり森を歩くのもまた心躍る。そして、落ち葉の下にもぐり混んでいく黄色い宝石を見つけることもある。キイロテントウ、輝いている。この季節はまだトンボにも会えるけれど、彼らは雪が積もる頃にはどうしているのだろう。アキアカネは長い旅をするようだが、これから南へ飛ぶのだろうか。鳥たちも南へ去ったり、北からやって来たり季節によって見られる姿が違うのだが、なかなか見つけることができない。それでも木の葉が落ちたから、小鳥たちの姿も少しは見えるようになってきた。
ここに咲いていた花・・・と思いながら登っていくと、その花が実になっている姿を見ることができる。千差万別という言葉があるが、草の実はその姿がまさに千差万別だと思う。その繊細な芸術的な形には目を見張るものがある。以前は見るだけ、写真を撮るだけだったけれど、最近はさまざまな状態を見ようと思って持ち帰ってカットして見たりすることもある(もちろん希少種などは別!!)。
サンシュユの実やクコの実などは薬になると言われているけれど、そのまま食べればいいというものでもないだろう。などと思いながらも、摘んで帰って割って味見をしたりしている。
そう言えば以前マメガキが実をつけているのを見つけたので、どうなったかと久しぶりに木の下を通って見たら、天然の干し柿になっていた。香りも味も干し柿!夫と二人でちびちび舐めるように味見をした。
地附山、大峰山はどちらも歩くコースがいくつかあって楽しめる。冬の間は地附山の中腹にある公園が閉鎖される。今年も11月23日までというから、その日は公園を通る道をゆっくり歩いた。最後の紅葉を眺めながら歩いていたら、木々の間から花火大会の準備をしている様子が見えた。たくさんの箱が積まれて、警備の人が立っている。地附山公園から上がる花火は、家から綺麗に見えるので楽しめるのだが、この山に住む猛禽類などに影響がないかと心配する話を聞いて、なるほどと自分の知識の浅さを反省した。
自然の美しさはその中に満ちているさまざまな命の美しさ、その中に人間も仲間入りしたいものだ。だが毎日の暮らしを見返って、もうその能力を失ってしまっている自分の生活様式にため息をつく。仕方がない、少しでも気が付いたことをやっていこうか。
話が横道にそれた。地附山の中腹タツネ坂の上は雑草に覆われる急坂、この急斜面が一面の枯れ野原、クズやアレチウリ、最近増えてきたオオブタクサなどが枯れて積み重なっている。これは人の手が入っていると思われる。これらの植物はちょっと歩いている時に刈ろうなどと思っても手に負えないものだから、大規模な作業が行われたのだろうか。
いくつものコースがあるから、その日の体力や天候によって色々楽しめる。先日は初めて物見岩の横から岩の間を縫うように直接下に降りてみた。垂直の物見岩を、小鳥と一緒に横から見ながら降りる道はスリルがあって楽しい。足元に気をつけながらゆっくり降りてふーっと息をつく。山は冬ごしらえ真っ盛りだけれど、冬は冬の楽しみ、またすぐ来るよと呟いて帰路についた。