夫が早朝散歩から帰ってきた。青空が綺麗だよと言う。こんな綺麗な青空の日は山へ行きたいねと話すと、「今から行こう」。
先日登った若穂太郎山の隣に見えていた妙徳山に行ってこようと、案内書やネットの記事を調べる。林道をかなり上まで登って行くようだ。今日は予定していなかったから、ご飯は炊いてない。途中でおにぎりを買って行こうと、出発。
須坂市を通り、若穂太郎山の北の果樹園の中の道を登る。立派な道で迷うことなく山新田に到着。ところが、ここからは道がいく筋にも縦横に走っている。メインの道を行きあたりまで進むと、細い林道の分岐にぶつかったが軽トラックが道の真ん中に止まって作業をしている。道標が立っているが、そこに書いてある林道の名前も、目指してきたものと違う。
その後は、果樹園と民家の間の細い道を登っては行き止まりをUターンして戻り・・・を繰り返した。奥まったところで作業をしていたおじいさんがやってきたので聞いてみた。「妙徳山への林道は今通れないよ」。
・・・・・・・。山新田から見える風景を眺めながら、「どこへ行こうか」。今日はアルプスが見えそうだから、見えるところにしよう。もう10時になっている、今からすぐ行けるところというと、茶臼山。
再び千曲川をわたり、途中のコンビニでおにぎりを買い、一気に有旅茶臼山の肩にある旗塚の駐車場に登った。すでに11時だ。午前の日が当たるうちにアルプスが展望できるところに登ろう。
ところが歩き始めると、斜面一面に栗が落ちている。小さなヤマグリだが、それこそ踏んで歩くくらい一面に転がっている。これはやっぱり拾っていかなくちゃね。イガに手を触れないように気をつけているのに、時々「痛っ」と叫ぶ。いつの間にか、リュックのポケットが膨らんでいく。
「もういいことにしよう」「後は動物さんに」「これが最後」と言いながら、また「あ、これは大きい」などとしゃがんでしまう。笑いながらほんとに最後にしようと歩き始める。
山は少し霞んでいたけれど、目の前の白馬三山から遠く槍ヶ岳まで見えた。手前には信里地区の豊かな田園風景が見下ろせる。ゆったりと落ち着いた風景が秋めいた色彩に変わって、ホッとするような美しさ。
この風景を眺めながら、お昼にする。今日はコンビニのおにぎりだけど、目の前にはアルプスの雄大な風景があるから、極上の調味料だ。「ここまで遠い道のりだったね」と冗談を言いながら、ひとときを楽しんだ。
さて、茶臼山の山頂を訪ねよう。少し引き返して、針葉樹林の中を一登りで茶臼山山頂。小さなキノコがたくさん顔を出している。ホコリタケの幼菌も丸くのぞいている。「若くて、中が白いのは食べられるんだって」と言いながらふたつに割ってみる。幼菌の中はきれいな白で、良い匂いがする。「これは食べられるね」と言いながら、でもたった一個じゃ寂しいからいいかと、土に返す。
午前中は車の旅だったから、この後は少し山道をのんびり歩いてこようと、一本松まで行ってみることにする。10月というのに、陽射しが強い。森の中は木々が陽を遮ってくれるから涼しいが、斜めから射す強い陽の光と木々の葉の影のコントラストが強烈だ。だが、陽射しはずいぶん斜めから差し込んできて、もう秋だよと言っているようだ。
一本松から斜面を登る踏み跡が見えたので行ってみることにした。踏み跡は細々としているが稜線を登るように続いている。森を守る人の道だろうか。さまざまな形や色のキノコが並んでいて面白い。破れ傘のような灰色のキノコを採ってみたら、裏が真っ黒い粉を吹いていた。粉が手につくと墨に触ったように黒くなる。黒い粉が胞子なのだろうか。森の中には若いもの、崩れそうなもの、何本も生えている。
しばらく登るとついに道がなくなった。藪の中を歩いていたら、サンコタケが腕を伸ばし始めていた。臭いと聞いていたから匂いを嗅いでみた。うん、確かに臭い。これは食べる気にはなれないね。
森の中を彷徨い歩くのは楽しいが、この季節はジョロウグモが大きな巣を張っている。あちらこちらの巣をくぐったり、払ったりしながら行くのもだんだん面倒くさくなってきたので、登山道に戻ることにした。再び踏み跡に戻り、もと来た道をいく。
クサギの実に午後の日があたり、キラキラ輝いている。森の光を楽しみながら車に戻る。
拾ったヤマグリは小さいから皮を剥くのが大変だったけれど、ほっこり炊けた栗ご飯はまさしく秋の味覚、森の恵みをいただく幸せを感じた。