「わぁ〜」、思わず歓声をあげる。スギや広葉樹の落ち葉が積もった斜面一面に幽霊花が立っている。「見事だね」「こんなに群生するんだ」、突っ立ったまま言葉を交わす。
幽霊花の本名はアキノギンリョウソウ、別名ギンリョウソウモドキとも言うらしい。ポツポツと数本立っている姿には何回か出会っているが、これほどの群生はもちろん初めて見た。壮観だ。
青空が広がったので、アルプスを眺めようと葛山にやってきた。家からは近いうえに、山頂までの登りは楽ちんコース、ちょっと行ってこようと出かけるのにぴったりだ。そして、登り始めてすぐ、ユウレイの大群に出会った。とにかくすごい。奥へ回ってみたり、どこまで続いているか森の中をユウレイに沿って歩いたりした。
しばらくユウレイを眺めてから先へ進むことにする。楽ちんコースとは言うものの、夜に降った雨が溜まっていて足を取られるところもあるから気をつけていこう。ぬかるみの上に横たえられている丸太の上を滑らないように注意しながら歩いていると、拳大の茶色い塊がのそりと動いた。カエル、大きい。ヤマアカガエルかな。じっと動かない。隠れているつもりらしいので、私たちはそっと歩き続けた。
木々は少しずつ色づいて、朝の冷え込みを教えてくれる。ガマズミの実が真っ赤に色づいて宝石みたいだ。谷にはタラノキの実が薄紫の霞のように広がっている。まだ花の姿も残した若い実は白い霞になっている。
葛山は上杉謙信の城跡、何段かの平らな部分は廓の跡か、ここに立つと志賀方面の視界が広がる。そして木々の間に北アルプスも見えるはずだが・・・。鹿島槍の双耳峰が淡くその輪郭を見せているだけ、残念。
雲はあまりないのだが、遠方は霞んでいる。今日は展望を楽しむのは諦めよう。足元に次から次へと現れるキノコを楽しみながら山頂を目指す。笹の陰にヒョロリとのぞいているのはナギナタタケ。傘のない面白いキノコだ。昨年、今年とホコリタケがとても多い。軽く押すと真ん中の穴から胞子が飛び出す。大きいもの、小さいもの、様々な姿に驚くのだが、図鑑を見てもわからないものが多くてさらに驚く。
山頂直下は日当たりが良いせいか、秋の花がたくさん咲いている。ツリガネニンジン、ヒヨドリバナ、ワレモコウ、オトギリソウなど色様々。その花の中をひと頑張りすると広々とした山頂に出る。山頂には一面にキンエノコロやハナタデが茂っている。そして白い菊の花が群生し、その間にアキノノゲシが飛び出すように咲いている。ヨメナとノコンギクの区別がつかない私には名前がわからないが、花が白く見えるからシロヨメナだろうか。
標高が低いとは言っても山の頂なのに、まるで秋の野原で遊ぶようだ。ベンチに腰掛けておやつタイムとする。いつ登っても葛山の山頂で憩う人は多いのだが、今日は誰もいない。汗をかいた夫は上半身裸になって展望を楽しみながら着替え。
北アルプスは霞んでいるが、すぐ近くの戸隠山の稜線はゴツゴツとふくらみ、見事な三角形で天をつく高妻山もすぐそこに見える。
しばらくおやつを食べ、のんびりしてからお隣の大峰山へ足を伸ばすことにする。
さて、降りようかと山道に一歩、「あ!」と夫が立ち止まる。「アサギマダラ」。二人で立ち止まってじっと見つめる。アサギマダラは私たちのことなど眼中にないと、ヒヨドリバナの花に休んでいる。大きな羽がゆるく開いたり閉じたりしている。今年はいろいろな山で目の端をかすめて行ったが、こうしてゆっくり見るのは始めてだ。遠く台湾あたりからも旅をするそうだから、華奢に見えても実は頑健なのだろう。元気でねと心の中でつぶやいているうちにひらりと高く飛んでいった。
アサギマダラを見送り、笹の中を下っていくと、刈り払われた笹の間に濃い縞模様が見える。こんどは私が「あ、シマヘビ」。気づかずに過ぎていた夫が振り返る。残念ながら頭は見えず、ゆるゆると細く尾を引きながら笹の間に消えていった。
「今日は色々なものに出会うね」「雨が多かったから、生き物が喜んでいるのかな」などと話しながら山を下り、大峰山へ向かう。長野市の北に位置するこの周辺の里山はいつ登っても乾燥している印象だったが、今年は湿っていることも多い。雨が降り過ぎれば災害にもつながるから、急な変化は怖いけれど、このあとはどんなふうになっていくのだろう。
大峰山との間は深い沢が切れ落ちている。沢沿いにはミゾソバが満開だ。純白の花、濃いピンクの花、様々な色に咲き広がっている中を黒い蜂が優雅に飛んでいる。
道端にはクルミやアケビ、トチの実が無造作に落ちていて山の恵みの豊かさを思う。