街の中から尖って見えている旭山に登ったのが4月5日だった。町を歩いていると崩れている斜面が見え、山道も急そうだから・・・と、後に回していたら、急なコースは立ち入り禁止になってしまった。禁止になる前も、注意して登るようにとの案内はあったようだ。
ブログに登山記録を書いている人たちの記事を読むと、北側のコースは崩れそうな急な階段があったり、崖を巻く細い道があったり、変化のあるコースのようだから、いつか整備されて再開するといいのだが。
さて、山頂から北への下山路入り口にももちろん立ち入り禁止の看板が出ていたが、旭山全体のコース図は以前のまま残っていた。そこには、立ち入り禁止コースの登山口近くにはカタクリ群生地があると書いてある。「コースが開通すれば、カタクリを見てから登ったり、下山してカタクリをゆっくり見て帰ったり出来るんだね」などと話しながら、私たちは来た道を引き返したのだった。
旭山北山麓にあるカタクリ群生地は、地元の小学生などがていねいに保護活動をしていて見応えがあると新聞に出ていたので、通れなかったコースの入り口だけでも見てこようかと、山頂を踏んでからちょうど一週間後に出かけた。
我が家から歩いて行く。善光寺さんの仁王門から旭山を目指してまっすぐ歩いて行く。鬼無里の方に向かっていく国道辺りからは、道が曲がりくねっていて分かりにくい。目指すは旭山で、裾を巻いて流れる裾花川にぶつかればよしと、細い道を少し迷いながら歩いて行く。里島発電所の建物が山裾に見えてきたので、あとはすぐだ。裾花川は波をたてて轟々と流れている。土手にキャンバスをたてて数人が絵を描いているのもなんだかホッとする風景だ。発電所に向かう橋を渡って山道に入るとすぐに赤紫に染まる広がりが見えて来た。
満開!
手前に旭山への登山道があり、立ち入り禁止の大きな看板が無粋だったが・・・。茶枯れた冬の名残の山裾に黄色の霞のような広がりはダンコウバイだろうか、その下に一面のカタクリ。大きなカメラを持った男性が二人、しゃがみ込んで良い角度をねらっている。
私たちもゆっくり眺めたり、カメラを向けたりしながら歩いた。ダンコウバイかと思った黄色の霞は近寄ってみたらアブラチャンの花だった。とてもよく似ているので、近寄って花のついている枝を見ないと分からない。ようやく覚えたのは花柄があるのがアブラチャン。ダンコウバイは枝からいきなりボンッと黄色の鮮やかな花が開いている。見る目を持った人ならば枝振りなどからも分かるのだろうが、私はまだダメ。
もちろん、名前が分からなければ自然が楽しめない訳でもないから、鳥の名前も木の名前も分からない方が圧倒的に多いままでも、私は山歩きを楽しんでいる。
でも、今はせっかく覚えたてだから、黄色い早春の枝を見ると近寄って「あなたはダンコウバイ?それともアブラチャン?」と、覗き込むことにしている。
覗き込むと言えば、カタクリの反っくり返った花びらの中を覗き込んでみると、濃い紫で幾何学模様を描いたような線が見える。これもまた楽しい。色具合と言い、花びらのそり具合と言い、同じものは無い。自然の大きさを思う。まぁ、人間だって同じ顔はないし、指紋だってみんな違うって言うから・・・ね。
たっぷり花見をしたので、裾花川沿いに少し歩いて帰ることにした。群生地のはずれでふと足元を見ると様々な苔が道の縁をずっと飾っている。中には緑の小さな玉をつけている見慣れない苔もあった。胞子だろうか、自然の形の美しさはカタクリだけではなかった。
裾花川沿いには水神様を祀った社があり、さらに沿って下っていくと対岸の崖が目の前に見えてきた。茶色に崩れて痛々しい。もっと下流に行くと白い崖になり、その岩はがっしりしているように見える。確か旭山の岩は流紋岩質の凝灰岩というもので、火山活動によって出来た岩とのことだった。ガラガラと崩れているような茶色い崖は岩質が違うのだろうか。
それほど急勾配でもないのに、流れは激しかった。この崖の辺りには鷹の仲間が住んでいて運が良ければ姿が見られるかもしれないと、野鳥の会の人が話していたことを思い出し、しばらく眺めていたが、川原で遊んでいるのはセグロセキレイばかりだった。
もう少し下れば白い崖が高くそびえているところに出るのだが、我が家からは遠回りになるので、勘を便りに再び知らない細い道を歩いて、来た道へ戻ることにした。白い崖の見える川沿いには温泉があり、足湯のサービスがあった(冬期は閉鎖されていて入れなかった)と覚えているので、またゆっくり歩くことにしよう。