ようやく梅雨が明けた。空の青が濃い。しかし、同時にやってきた猛暑もまた凄まじい。このところ毎年同じようなことを言っている気がする。久しぶりの晴天で大物を洗濯機に入れたら、夫曰く「今日は山へ行こうか」。暑い時は標高の高いところが一番という思いは同じ。けれど、夫の言う山は長野市から少し南下したところの四阿屋(あずまや)山。春、草花の芽吹きの季節に行って見たいと話していたが、夏の暑さはどうなのだろう。同じ四阿(あずまや)山でも『屋』のない方は菅平の奥で高山の趣があるが・・・。
それでも、雨続きの気分を振り払うには初めての山に行ってみるのもいいだろうと、洗濯が終わるのを待つ間に山の準備をする。
長野自動車道の麻績インターを降りて山間の道を南下する。筑北村に入るとJR篠ノ井線の坂北駅の脇を通って登っていく。村の中をしばらく登ると、道は開けた畑地に出る。振り返ると北アルプスの峰々が一直線に並んでいる。壮観だ。道の分岐には立派な道標が立ててあるので、迷わず四阿屋山に向かうことができる。畑を越えていくと山麓を回る林道に入るが、ここには網を張ったゲートがある。野生動物に荒らされないためのゲートだから、はずして通行できる。もちろん再び閉めてから先へ進む。
登山口には車が数台停められるが、今は我が家の車だけ。靴を履き替えて歩き出した時は、9時半だった。
登山口は緑濃い森だ、林床にはフタリシズカが一面に広がっている。今はもう花が終わっているが。気がつくとヒトリシズカの群落もある。花の季節に見間違うことはないが、実をつける頃になるとそっくりの葉に惑わされる。ヒトリシズカの葉は艶があって光っているのでわかりやすいが、葉のつき方も違う。
しばらく歩くと、御嶽石造物群への分かれ道、「帰りに寄ろうね」と話して先へ行く。だんだん赤松が増え、とても手入れが行き届いた感じの赤松林になってきた。そして、「茸止め山 入山禁止」の貼り紙が目につくようになってきた。以前読んだ、四阿屋山に登った記事にこの貼り紙のことが書いてあった。「自分たちは山へ登るだけだから、こんなにたくさん貼らなくてもいいだろう」とあった。確かに多いと思う。しかし、警察の注意書きがあったが、茸泥棒が盗る数はすごいらしい。急斜面の松林の手入れは大変だろう、その作業をして大切に守ってきたキノコを盗られたのではたまらない。私たちは「入らせていただいてありがとう」と呟いて登っていた。登山道を外れて歩き回るのはやめよう。タマゴタケらしい茸も、おいしいと聞いたが、もちろん見るだけ。
陽のささない針葉樹の森には大柄な花は少ないが、小さな花が咲いている。私たちが裏山と呼んでいる善光寺北の地附(じづき)山ではもう実になっていたウメガサソウ、クモキリソウがまだ咲いていた。かと思うとママコナがすでに花開いている。イチヤクソウ科の花々も見える。一面に葉を広げているジンヨウイチヤクソウは既に花が終わり、小さな実をつけている。
森の中の道をしばらく登ると、目の前が開けた。すごい。北アルプスが一望だ。北は白馬乗鞍から南は穂高連峰まで一直線の壁になって聳えている。私たちはしばらく指差しながら山の名前を確かめていた。展望台には山名を記した立派な板が立っていたが、金属板なので太陽を反射して眩しかった。