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田ノ原湿原 1620mと信州大学志賀自然教育園 1584m(長野県)

2021年6月26日(月)

photo・志賀高原田ノ原湿原
田ノ原湿原を見下ろす


何年か前に弟が小さな花の写真を見せてくれた。「何だろう」と言うので「ツルコケモモだ」と答えた私も写真で知っているだけだった。どこに咲いていたのか聞くと、志賀高原の広い湿原という。場所を聞いたら田ノ原湿原だ。私たちは何回も歩いているけれど、ツルコケモモを見たことはない。いつか見に行こうと思っていた。

map 田ノ原湿原,信大自然教育園

photo・レンゲツツジの出迎え 田ノ原湿原
レンゲツツジの出迎え

長野は連日午後になると雷が発生し雨になる。雨はいっときで止む夕立が多いが、夜中降り通すこともある。いずれにせよ、昼くらいまでに行動を済ませられる方が良い。山に登るには時間が必要だが、湿原を散策するくらいなら大丈夫だろうと出かけることにした。

中野から国道292号を登っていく。途中の蓮池から右に折れ渋峠に続く道を進む。緑濃い山にダケカンバの幹が光ってくると信州大学志賀自然教育園の入り口になる。そこを通り過ぎてしばらく登ると、右に田ノ原湿原の駐車場がある。土曜日だからか、車がいっぱいだ。かろうじて空いたところに車を停め、靴を履き替えて歩き出す。

photo マタタビ,アカモノ,ヒメシャクナゲ,イワナシの実 田ノ原湿原
小さな花と若い実

photo・湿原の真ん中で 田ノ原湿原
湿原の真ん中で

湿原の広がりはシラカバの白い幹とレンゲツツジのオレンジで彩られている。見事な彩りをカメラに収めていたら、一人優雅に歩いてきた年配の男性が「お二人、お撮りしましょう」とニコニコ。思わず「お願いします」と、カメラを渡した。ありがたい。

はいポーズとばかり、1枚パチリと映してもらって歩き始める。木道沿いのワタスゲは連日の雨をまとって濡れ鼠。ピンクのヒメシャクナゲも花が終わりかけている。雲が多いけれど、湿原の中は涼しい風が渡っていて気持ちがいい。二人で目を皿のようにして湿原を見ながら木道を進むが、目当てのツルコケモモは見えない。木戸池に通じる斜面の方まで歩いてしまった。斜面にはアカモノが満開、ニッコウキスゲの蕾がたくさんあるが、花はまだ少しだ。今日は雲が低く、笠岳は見えない。湿原全体を見下ろしてから、再びゆっくり木道を戻る。モウセンゴケと同じところにありそうだと、もう一度四つの目を見開いて歩き出す。ヤマドリゼンマイが大きくなって胞子葉をつけている。雨が降ると水が流れそうな低いくぼみにモウセンゴケの赤い色が見える。あ、あれはツルコケモモ。見つけた。とても小さいピンクの花をつけて俯いている。探していた花を見つけたので、木のベンチで休憩。雲は多いが青空も少し見える。気持ち良い空間を満喫。

photo ニッコキスゲ,ツマトリソウ,ワタスゲ,アザミ 田ノ原湿原
色も形もとりどりに

photo ヤマドリゼンマイとイタドリハムシ 田ノ原湿原
ヤマドリゼンマイとイタドリハムシ

photo ツルコケモモ 田ノ原湿原
ツルコケモモ


photo・長池のほとり 信州大学志賀自然教育園
長池のほとり

湿原を楽しんだので、車に向かう。歩きながら、夫が「信大の教育園にちょっと寄ってみようか」と言う。「でも下だけだよ」とは、おたの申す平までは行かないよという意味。ずっと昔に一度だけ訪れたことがある長池の辺りを歩いてこよう。

このところ雨が続いているので道はかなりぬかるんでいる。長池湿原の周囲は水が溜まって小さな池になっているところもある。コバイケイソウやヒオウギアヤメが綺麗に咲いている。今年はどこへ行ってもコバイケイソウが綺麗だ。背が高くて真っ白なので、とても目立つ花だ。

photo・長池湿原周辺の白い花,ゴゼンタチバナ,コバイケイソウ,モミジカラマツ,白花グンナイフウロ,信州大学志賀自然教育園
長池湿原周辺の白い花

photo・水辺が好きなヒオウギアヤメ,信州大学志賀自然教育園
水辺が好きなヒオウギアヤメ

photo・ハクサンチドリ(白花も),信州大学志賀自然教育園
ハクサンチドリ(白花も)

志賀には、志賀固有のシガアヤメが咲くというので、近寄ってみたが、ここに咲いているのは内花被片がとても小さいヒオウギアヤメだ。シガアヤメはアヤメとヒオウギアヤメの自然交雑種らしく、内花被片が立っているそうだ。アヤメの花を観察しながら歩いていくと、緑の中に鮮やかなピンク色が散らばっている。ハクサンチドリだ。気品を感じる姿で立っている。ふと見ると真っ白な株もある。こちらはまた清々しい。久しぶりに見たハクサンチドリの優雅な姿に拍手したい気分。緑の舞台に舞い降りてきた舞姫のよう。

photo・高く低く咲く、木の花,ハクサンシャクナゲ,コケモモ,ツガザクラ,タカネバラ,信州大学志賀自然教育園
高く低く咲く、木の花

photo・目立たないけれど,ツクバネソウ,ギンリョウソウ,スズラン,エゾノヨツバムグラ,信州大学志賀自然教育園
目立たないけれど

photo・ウラジロヨウラク,信州大学志賀自然教育園
ウラジロヨウラク

長池を一周できるかと思っていたが、道は倒木で止められている。地図上も行き止まりとなっているので引き返す。

ロックガーデンに上がってみることにした。ハクサンシャクナゲ、タカネバラ、ウラジロヨウラクなど、目を惹く花がたくさんで思わず歓声を上げる。他に人がいなくて良かった。コケモモやツガザクラ、アカモノなど低木の花も終わりに近づいているが、まだ姿を見せてくれた。たくさんの花を目掛けてたくさんの蜂が飛んでいる。花の中を出たり入ったり忙しそうだ。この蜂の働きで花も実をつけることができるのだから、自然界の仕組みは面白い。スズランやベニバナイチヤクソウもそろそろ終わりになる花をつけている。連日の雨の名残か、露を抱いている花が多い。花を包む水滴が真珠のように陽を返して光っている。

photo・志賀高原山の駅で昼食
志賀高原山の駅で昼食


たっぷり花を楽しんで、さぁ帰ろうか。「山の駅でカレーを食べていこうか」「寄ってみて混んでいなかったらね」。コロナ感染拡大以来外食はほとんどしていないが、山の上の広い空間なら大丈夫ではないかと思う。窓から志賀高原の緑を眺めながら、濃厚なカレーを味わう。コロナ以前には当たり前だったと、小さなひとときの幸せも味わっていた。




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