路線バスに乗って出かけると、夫と同じ景色を眺めながらのんびり話をして移動できるから嬉しい。飯縄山の南登山道の登山口でバスを降りる。飯縄山の表玄関になるここには何回か車を置いて山に登った。だが、今日の目的はこの山麓に広がる一の鳥居苑地、そしてここから大座法師池まで、信濃自然遊歩道を歩くこと。
一の鳥居苑地は夏休みにやってきた孫と娘も一緒に散歩したことがあるが、登山の時にはまっすぐ車との往復だけなので、花の季節にゆっくり歩いたことがない。歳を重ねて体力が弱くなってきたからかもしれないが、森の中を歩きながら花々を見つけるのも楽しい。もちろん時間がたっぷりあるということがさらにその楽しみに拍車をかけている。
森の中を歩き出すとすぐ、小さなオオヤマフスマが一面に咲いている。濃くなってきた緑の中に白い花が点々と散らばっていて特別な世界へようこそと言っているようだ。
さらに少し進むとギンランがポツリポツリと立っている。そして斜面一面にベニバナイチヤクソウの葉が広がっている。日の当たり方が違うのだろうか、蕾がポツポツと立っているところがあるかと思うと、見事に花開いた群落もあって、嬉しい。
森の中にはレンゲツツジがその大柄な明るいオレンジ色の花をたくさん広げているのに、私たちは足元を見ながら登っていく。ジンヨウイチヤクソウか、とても小さな蕾を掲げている葉の広がりと、マイヅルソウの輝くような白い花がツンツンと立ち始めた葉の広がりが並んでいる。私と夫がしゃがみ込んで写真を取っていると、通りかかった男性が話しかけてきた。
かなり年配の男性だが、自然の成り立ちや昆虫のことなどに詳しく、説明をしてくれる。聞けば、今も要請があればボランティアでガイドをしているそうだ。なるほど詳しいはず。気候と木々、人の生活と森などについて話が弾んで、気がつけば40分くらい話してしまった。
流石に立ち話は疲れた。先へ少し進んだところの広場にあるベンチで休むことにした。広々とした空間は子供達の遠足で活躍するのだろうか。私たちは森の空気に浸りながらおやつを食べる。
おやつタイムの後は森の中をゆっくり歩く。ツリバナの花がゆらゆら揺れている。ノジスミレだろうか、紫の色が濃いスミレが所々に顔を出している。大きな木の根方には枯葉や小枝が重なっている。以前孫と歩いた時のことを思い出す。木の根方の枯れ枝の隙間にトカゲがチョロチョロ動いていた。孫は面白そうに見ていたが、「捕まえるよ」と言うと、じっとトカゲの動きを見ていてパッと手を出した。その手にはトカゲ。びっくりしている私たちに捕まえたトカゲを見せて、また木の根方に返してあげていた。あの早技には本当に驚いた。
さて、レンゲツツジやベニバナイチヤクソウの見事な群落を堪能したから、大谷地湿原の方まで行ってみようか。途中には飯綱フォレスト・ミュージアムもある。戸隠バードラインに沿うように続く森の中の道は比較的平坦だが、森の木々は濃い。一面に咲いていたチゴユリは終わりかけている。20分も歩かないうちにフォレスト・ミュージアムの入り口に到着。日本中に被害をもたらした大型台風の時にたくさんの木が倒れたらしく『危険』と書いてあり、遊歩道は荒れている。ルリソウが数株咲いていて誘われるようだ。
さらに遊歩道を進むと、左側が明るくなってくる。木々の梢が下に見えるのを楽しみながら降って行くと大谷地湿原にでる。水芭蕉は既に大きな葉になっていて、その根本にわずかに白い苞を残すものも見えるが、今年はほぼ終わりだろう。マムシグサがたくさん大きく伸びている。まっすぐ立っている姿はよく見るが、群落になっているのはあまり目にしない。木道をゆっくり歩き、雄大な飯縄山を背景にした湿原を楽しむ。リュウキンカは葉が育って大きくなっているが、黄色い花も明るく見えている。大きなツクシのように見えるミズトクサもたくさん生えている。
大谷地湿原を後にして、大座法師池まではすぐ。白鳥の形のボートが数台浮かんでいる。水際にはキショウブが華やかに咲いているが、外来種で繁殖力旺盛のキショウブを駆除する(大谷地湿原)のに苦労したと、ガイドの男性が話していたのを思い出した。
大きな自然の流れ、そこに係る人間の営みに思いを巡らせながら、帰りのバスに乗った。