自然の中へ出かけたいけれど、連休はどこも人でいっぱいになりそうだ。あまり人が行かない場所はないだろうか。昨年夏の終わりに行ってみて、ここは春にも来たいねと話していた霊仙寺(れいぜんじ)山の麓に行ってみようか。
我が家から近いし、山にも登らないからおやつだけ持って出発。長野市の北、坂中峠を越えて飯綱町に入る。山道をジグザグに走り飯綱高原に登っていく。霊仙寺湖を横目に見て今日は素通り。ここには天狗の湯温泉があり、気持ち良い温泉は魅力的だが、人の多いところはやめておこう。そのまま登ってリゾートラインに着くと、霊仙寺跡はすぐ。ここはもう信濃町だ。
細い道を奥に入ると、7、8台は停められる駐車場があるのだが、満杯だ。「霊仙寺山ってこんなに人気があるんだ」と私が言うと、「連休だからね、いい季節だし」と夫。
さて、どうしようか。少し戻って、登山道へ続く林道を登ってみる。少し走ったところに1台は停められそうな幅員を見つけ、そこに停めることにする。
「この奥には車は行かないだろうから道にはみ出しても大丈夫じゃない」と私が言うけれど、生真面目な夫はしっかり1台分の幅を確保して停めた。実はこれが良かった。いい加減な私の言うことを聞いていたら、途中から引き返さなくてはならなかった。その理由は後でわかる。
私たちは靴を履き替え、歩き始めた。登山道はすぐ左に分かれていくが、まっすぐ登っていく林道は沢沿いに続いているので、その道を散策してみようと話す。夫も私も沢や湿原が好きなので、躊躇うこともなく歩いていく。林道とは言うものの、雨が降れば川になるような道で、幾重もの筋になって道はえぐれている。沢には澄んだ水が流れていて、キラキラ光を反射している。駐車場からずっと続いているニリンソウの群落が途切れることなく、清々しい。
ニリンソウは純白で遠くからでも目立っているが、その隣に細い線のようなキラキラした花穂が立っている。もしかして・・・と近づいてみると、やっぱりコチャルメルソウ。猫が咥えた魚の骨のような形の花びらがそっくりかえっている姿が可愛らしいのだが、とても小さいので、思いっきり近づかないとよく見えない。一面に咲いているので踏んでしまいそうだ。誰もいないのをいいことに「わぁ〜綺麗」だの「きゃー可愛い」だの、大きな声で言っては写真を撮ったり、しゃがんで見つめたりしていた。
しばらく眺めていたが、先へ進もうかと歩き始める。しばらく行くと突き当たりが広くなっていて、車が2台停まっているではないか。ここまで車が入れるんだ。「通れるようにしてきて良かったよ」と、夫。さらに歩いていくと、大きなカゴを持った男性が降りてくる。この道が登山道と合流するか聞いてみたが、行き止まりになると教えてくれた。男性のカゴの中はコゴミが溢れそうになっている。あの車は登山者のじゃなかったんだね。近くの人の山菜採りだ。
スミレやタチカメバソウなどの小さい花が至る所に咲いている。エンレイソウも多い。時々シロバナエンレイソウがあるが、こちらはまだ開ききっていない。頭上には鳥の声、枝の向こうに隠れるから姿を見つけることが難しいが、カケスのように大きい鳥は隠れきれない。
緑に色づいてきたカラマツ林の中を登っていくと、沢の向こうも開けた林になってきた。目の高さにはユキツバキの赤、見上げればコブシの白、若葉に浮き上がって綺麗だ。
「あれ、なんだ」「変なものがあるよ」。沢の向こうの木の幹に白い大きなサルノコシカケのような・・・、違うようなものが見える。倒木が流れてきてたまったのか、人が橋のように集めたのか、沢を渡れるところがあるので、向こう側に行ってみる。なんだろう。触ってみると、硬い。きのこが別の菌に侵されて変形するタケリタケというキノコがあるが、サルノコシカケにもそういうことが起きるのだろうか。
森の中をそぞろ歩いていると、楽しい。そこに沢が流れていればなお楽しい。後から男性が一人やってきてさっさと歩いていく。藪の中に入って木の花を撮ったり、鳥を眺めて立ち止まったりしながらののんびり旅だが、ついに林道の終点についた。大きな堰堤が立ち塞がり、滝のように水が流れ落ちている。ふと見上げると、その堰堤の上の藪を漕ぎながら、先刻追い越していった男性が登っていく。大きな枝に阻まれ苦労しているようだ。見るともなく見ているうちにどうやら藪を越えることができたようで、急斜面を登っていった様子。道無き道を行って霊仙寺山へ登るのだろうか。
私たちはここでのんびりおやつを食べて引き返すことにした。登るほどの傾斜もなく、林道を歩いてきたと思っていたが、降り始めると結構な斜度があったようだ。林道の終点部分はおよそ1100m程度あるようだから、なるほどね。
車に戻る前に霊仙寺跡の巨石群に寄り、昔の修験者に想いを馳せた。寺の跡には一面に白い毛が生えたような苔の胞子が光っていて、時の流れの移りゆく姿を見るような気がした。