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幻のフクジュソウ、中山 654m(長野県)

2021年3月10日(水)

地図 中山


安茂里地区の正覚院の裏山、中山の山腹にフクジュソウの群生地があるらしい、行ってみよう。お天気を見て善光寺大門からバスに乗った。長野駅を経て、安茂里に向かう。安茂里大門バス停で下車、歩いて10分ほどで大きなお寺、正覚院に着く。

さて、正覚院の奥ということだけしか情報はない。何はともあれ中山に向かって登っていくか。大きな弘法大師像の奥の急な階段を登っていくとお堂があり、リンゴ畑へ続くらしい道路が通っている。私たちは呑気にその道路を登っていった。雲は少しずつ減ってきたが、風が強く冷たい。時折顔を出すお日様が嬉しい。

photo 正覚院の急な階段を登る
正覚院の急な階段を登る

photo ノボロギク,タンポポ,タネツケバナ
身近な春の野草

リンゴ畑で作業をしている男性が道路端に立っていたので、挨拶をして「あの山が中山ですか」と聞いてみた。目の前にぽっこり聳える茶色の山を指さして。男性は「そうだね、この辺りじゃ中山って呼んでるよ」と頷く。この先の右からでも左からでも山に入れるよと言いながら、自分の山も奥にあるんだけど、もう30年も入っていないよと苦笑い。

photo 急斜面のリンゴ畑
急斜面のリンゴ畑

さらに「この辺りにフクジュソウが咲くと聞いてきたのですが、ご存知ですか」と聞いてみたが、男性は「さぁ〜聞いたことがないなぁ」と、首を傾げる。

私たちはお礼を言って先へ進んだ。


少し先の分かれ道を右へ行ってみることにしたのは、さして確信があったわけではなく山を巻くようにリンゴ畑の間を登る道がのどかな感じだったから。しかし、しばらく行くと道は細くなった。一番上の急斜面に作られたらしいリンゴ畑は荒れている。足を滑らせたらそのまま下の沢に落ちていきそうな急斜面に人幅くらいの道が続いている。リンゴの木は黒くなっていて、周りに色々な幼樹が茂ってきている。

photo ここは道かな
ここは道かな

photo 急斜面に人幅の踏み跡
急斜面に人幅の踏み跡

「ここは怖いところだね」「昔の人はこんな急な斜面で仕事をしていたんだ」などと話しながらその畑を通り抜けた。傾斜が緩くなったところに道らしき跡が続いているが、落ち葉に埋もれ、倒木が重なり、荒れ果てている。私たちはくぐったり跨いだりを繰り返し、時には藪の中に道を探しながら登っていった。倒れている木が多いが、立っている木も見上げれば一面にキノコがついていて、すでに生気がないものが多い。

photo 一面のキノコ
一面のキノコ

倒れている木にも、大きなキノコが取り付いていて、分解作業が進んでいるようだ。そういう倒木の陰を見れば、夫が興味を持っている粘菌らしいものも見られる。粘菌は、枯葉や枯れ木を分解するという菌類やカビを食べるというから自然界は面白い。粘菌は単細胞生物で、動物のように移動する性質と、胞子によって繁殖するという植物的な性質を両方持っているそうだ。私たちが普通に知っている動物界、植物界、菌界のどれでもない、アメーバ界というものなんだって。自由自在に膜を変化させるから変形菌と言われるんだ。

photo 枯れ木に大きなキノコ
枯れ木に大きなキノコ

粘菌を研究している人はちゃんといて、彼らの論文を読むと面白い。わからないことが圧倒的に多いけれど、なぜか魅力的な生物だ。少しずつ調べていこう。

photo 粘菌だろうか
粘菌だろうか


さて、道はどんどん荒れ、そのうちにどこが道だかわからなくなってきた。見上げれば、空が近くなっている。もうそこが1番の高いところのようだ。一気に登っちゃおうか。藪とはいえ、トゲのある木が少ないことと、落ち葉が厚く積もっていて斜面が優しそうなことに気を許し、直登を始めた。ところがこれが大変だった。見かけが太い直径10センチくらいの木も、掴まると簡単に折れてしまう。では、と細めのイキイキしていそうな木に摑まると、根ごと簡単に抜けてしまう。生きている木が少ない。しかも見かけよりずっと急勾配だ。ずるずると滑りながら、時には手も使って「四つ這い動物です」などと言いながらなんとか急斜面を乗り切った。山頂部は緩やかに南北に伸びた尾根状になっているが、やはり森は荒れている。

photo 道はないけど頂上は近い
道はないけど頂上は近い

photo 中山山頂部も荒れていた
中山山頂部も荒れていた

地図と周囲の様子と見比べて、ここが中山山頂だろうと思われるところで記念撮影。11時半、ちょうどお昼時間。おにぎりを持ってきたが、荒れた森の真ん中は落ち着かない。それに風が冷たい。青空は広がってきたのだが、相変わらず冷たい風が吹いている。もうすこし風の弱いところに行って食べようと、降ることにした。

photo 森の落とし物と新芽
森の落とし物と新芽

photo 荒れた森が行くてを阻む
荒れた森が行くてを阻む

中山の山頂部は細長い稜線上になっているので、北の三笠山に続く方に道を探したが、下り道は見つからない。結局先端から一気に藪の中を下っていくことにした。幸い空は明るく見通しは良いので、ゆっくり木につかまりながら降りていく。太いツルに巻かれた藪や崖のような斜面に阻まれながらも、地図と見通しを重ねてどんどん降りていくと、朝通ったリンゴ畑の上に出た。畑とは言ってもやはりかなりの急斜面だ。朝右へ折れた分岐点の左の道に出た。やれやれだ。


photo 1輪の福寿草(周囲は家の庭)
1輪の福寿草(周囲は家の庭)

でも、フクジュソウはなかったねと話しながら歩いていると、あった。1輪の福寿草。見事に開いている。「このことか」「群生って1本のことなのかな」などと笑いながら正覚院に向かう。夫は家に帰ってゆっくりお昼を食べたいというので、山頂まで登ったおにぎりをお供に、私たちは再びバスの客になった。

我が家の庭のフクジュソウも日の光を浴びて綺麗に咲き誇っていた。




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