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信濃川源流から甲武信(こぶし)ヶ岳 2475m 三宝山(さんぽうやま) 2483m(長野県、山梨県、埼玉県)
〜〜分水嶺を歩く、武信白岩(ぶしんしらいわ) 2288m、大山 2225mを越えて十文字峠へ〜〜

2003年11月2日(日)2021.2 記 

インフォメーションのイメージ画像 使用した写真の一部は当時のフィルムカメラで撮ったプリント写真をスキャンしデジタルデータ化したものです。

map:奥秩父と周辺の山々
奥秩父と周辺の山々

photo 野辺山 日本鉄道最高地点
野辺山 日本鉄道最高地点

私の故郷は信濃川のほとり。田んぼが広がる稲作地帯で、信濃川の豊富な水の恩恵を受けていた土地だ。日本一長い信濃川の上流は千曲川と呼ばれ、長野市民になった今ではその名が身近になっている。その源流を訪ねたのはもうずっと昔のことになる。

私は信濃川、夫は千曲川と呼び方は違うけれど、二人ともに親しんできた流れの源を辿るのはどこか惜春のはかない懐かしさも感じる旅だった。

map 甲武信ヶ岳

photo 湯沼鉱泉 天然水晶洞
湯沼鉱泉 天然水晶洞

photo 宿で川上犬と
宿で川上犬と


私たちは秋の3連休を利用して1日目はゆっくり家を出た。中央自動車道を走り、須玉ICで降りてからは 国道141号線を走った。途中野辺山高原で休憩、鉄ちゃんの夫は鉄道最高地点でじっくり線路を眺め満足。私は美味しい高原ソフトクリームを食べて満足。ゆっくり宿の湯沼鉱泉旅館に入った。まだ時間が早かったので、宿の人に教えてもらった天然水晶洞を訪ねてみた。巨大な岩が水晶というのでびっくり。ここで水晶を掘っていたそうだ。

鉱泉湯は長い廊下の奥にあり、この廊下も湯屋もかしいでいるような風情のありすぎる建物だったことを覚えている。お湯はとても気持ちよかった。宿には川上犬という珍しい種の犬がいて大人しく撫でさせてくれた。


photo 暗い森を歩き始める
暗い森を歩き始める

翌朝、宿を出たのは5時半、毛木平の駐車場に車を停めて6時過ぎには歩き始めていた。駐車場はとても広く、バスが停まっていたので驚いたが、当時は『日本百名山』(深田久弥著)のブームとかで、ツアーで百名山を巡る人も多かったようだ。

歩きはじめはカラマツの森、落ち葉が厚く積もってふかふかだ。道はどこまでも平ら、日の出前の森は暗いけれど、歩きやすい道が続いている。暗いだけではなく、まだ冷えて寒いけれど、私たちは山に登る喜びで元気いっぱいだ。

photo 苔が豊かな深い森
苔が豊かな深い森

photo 朝日で沢の上に虹がかかる
朝日で沢の上に虹がかかる

奥深く入っていくと道は次第に凹凸豊かになってくる。傾斜はあまり強くないけれど、深い森の中の登山道は苔むした岩や太い木の根が張り出していてボコボコ歩きにくくなってきた。

photo ナメ滝にて
ナメ滝にて

「準備運動と思えばいいよ」「長い準備運動だね」などと話しながら黙々と歩く。日が登ってきたが、森が深いので、モヤが漂っている。朝モヤに太陽の光がさして虹がかかる。清涼な流れの音、新しい朝の光、苔むした大地の息吹、全身に自然の恵みを浴びながら歩く。そんな道を1時間40分も歩いた頃、ナメ滝に出た。沢が広く気持ちが良い。ここで少し休憩、周囲の空気を存分に味わおう。

photo 千曲川・信濃川源流にて
千曲川・信濃川源流にて

さて出発。傾斜が強くなってきた道をズンズン登って、ようやく源流地点に到着。大きな地標が立っている。『千曲川・信濃川水源地標』。ここからあの大きな川が始まると思うと感慨深い。岩の間からチョロチョロ垂れてくる水に手を触れ、この水が私の故郷まで流れていく長い道程に思いを馳せる。

photo 針葉樹の森を登る
針葉樹の森を登る


源流を後にしていよいよジグザグに登り始める。針葉樹の深い森が続く斜面を一気に登っていく。森の精が隠れていそうな深い森の中、会う人もなく私たちはただひたすら上を目指す。森の中の急登はあっという間に終わり、稜線に飛び出した。

目の前に大きな富士。いきなり現れた端正な姿に息を飲む。見えるだろうねと予想はしていたが、大きく裾を引いた美しい姿に感動だ。

photo 目の前に富士山
目の前に富士山

photo 山頂が見える
山頂が見える

右側に富士を見ながら稜線をいく。今度は目指す甲武信岳が行く手に見えてきた。長い道を歩いてきたというのに足取りも軽く、一気に山頂へ登りついた、10時だ。

甲武信(こぶし)岳 2475m の山頂からは、大展望が広がっている。右の肩には木賊峠からの尾根の上に山小屋が見える。左にはこれから進む三宝山への稜線が続いている。お昼にはまだ早いので、ゆっくり展望を楽しむ。富士山はもちろん、金峰山の奥に遠く南アルプス、そこには富士に次ぐ第2の高峰北岳が見えている。八ヶ岳連峰から遠くに目を馳せると北アルプスもうっすらと見える。第3の高峰奥穂高岳も、槍ヶ岳も見えている。グルッと回ると、奥秩父の両神山がギザギザした独特の山容で周囲を圧している。

photo 甲武信岳より金峰山(中央)
甲武信岳より金峰山(中央)

photo 両神山
両神山

名の分かる山はもちろん、たくさんの名前を知らない山々が峰を重ねている。いつまでも見続けていたい風景だ。

甲武信岳は甲州(山梨)、武州(埼玉)、信州(長野)と、名前の通り3県を分かつ頂きだ。そして、甲武信岳は3本の大河の分水嶺ともなっている。長野県を流れ始める千曲川は、私たちが歩いてきた水源地から遠く流れて信濃川となり日本海にそそぐ。山梨県の笛吹川に端を発する流れは合流して富士川となり、埼玉県に流れ始める荒川は東京湾に流れ着く。共に太平洋に注ぐ生活に密着した大河だ。この遠く流れ行く川の流れを思うと、人間の小ささを感じる。そしてまた妙な懐かしさをも感じるのは、水に親しんできた生物の本能のようなものだろうか。

photo 甲武信岳山頂2475m
甲武信岳山頂 2475m

photo 日本百名山標柱
日本百名山標柱

山頂に到着した時に二人で記念撮影をしたが、ふと見るとより大きな『日本百名山』の標柱が立っていた。山を見るのに感動していて、このすぐ近くの大きな柱に何が書いてあるか気がつかなかったのがおかしい。日本百名山を特に意識してはいない私たちだが、その標柱の大きさに楽しくなった。深田さんがあげた山々はみな名山だから、登れる機会があれば全て登りたいけれど、そこにあげられていないたくさんの魅力的な山々にも同じように登ってみたい。でもたくさんの人が百名山に憧れて登って見たくなる気持ちもよくわかる。 自分で決めて楽しく山に入れるなら、それが何よりではないか。

photo 立ち枯れの森を歩く
立ち枯れの森を歩く

photo 青空と・・・
青空と・・・

photo 三宝山2483mに到着
三宝山 2483mに到着

photo 三宝岩で
三宝岩で

ゆっくり休みながら甲武信岳山頂からの展望を堪能して、三宝山へ向かうことにした。立ち枯れの白い幹が芸術作品のように空に向かっている峰を楽しみながら降りていく。しばらくいくと岩尾根が開けてくる。稜線からの眺めもよく、岩がゴロゴロしているところもあったが、足よりも目が喜んでいるうちに三宝山(さんぽうやま)に着いた。三宝山 2483m は埼玉県の最高峰だそうだが、直接登るルートはなく、長い稜線上にあるせいか、あまり独立で名前を聞くことがない山だ。十文字峠から甲武信岳への途中の山という位置かな。山頂は樹林の中で見晴らしも良くないので、私たちは隣の三宝岩で昼食を食べることにした。11時、少し早めのお昼だ。岩からは見晴らしが良い。八ヶ岳連峰がさらに大きく目の前に横たわっている。今登ってきた甲武信岳が大きくそびえ、その向こうに秀麗な富士が立っている。真っ青な空の下、大展望を楽しみながら頬張るおにぎりは格別だ。

photo 八ヶ岳連峰
八ヶ岳連峰

photo 甲武信岳と富士山(三宝岩より)
甲武信岳と富士山(三宝岩より)

お腹もいっぱいになったので先へ進もう。まだ道は長い。岩の多い稜線をゆっくり歩いていく。岩稜とはいえ秩父の山、濃い樹木が育ち、苔も多い。岩に張り出した木の根を覆い隠すように、苔の絨毯がかぶさっている。

photo 三宝岩からの見晴らし
三宝岩からの見晴らし

photo 尻岩「本当にお尻だ!」)
尻岩「本当にお尻だ!」


しばらく歩くと巨大な岩に突き当たった。『尻岩』。本当にお尻の形だ。夫のお尻と比べてみたのは、軽いご愛嬌、白いズボンがぴったり。

photo 武神白岩への登り
あそこに登るぞ(武神白岩)

photo 武信白岩にて
武信白岩にて

武神白岩(ぶしんしらいわ)の切り立った岩山が見えるところにでた。あの岩山の上が山頂らしい。上に登らなくても道は下を巻いて続いているが、ここはやはり挑戦。岩にへばりつくようにして登った、ここが 2288m か。

なんとか無事に登ってきて、岩場を歩いていくと『武信白岩山頂』の文字が書いてある道標があった(2020年秋情報では、この文字が隠されていて現在登れないようだ)。


photo 大山山頂2225m
大山山頂 2225m

岩の多い道をさらに登ったり降りたりして行く。鎖や梯子もあったけれど、それほど難所ではなく楽しみながら進んで行けるところだ。ひと頑張りで大山 2225m に到着。

11月の空は澄んで遠く山並みが続いている。しかし、早朝から歩いているので、遅くならないうちに帰ろう。私たちはさらに稜線を進み、十文字峠を目指した。


photo 十文字峠
十文字峠

十文字峠・・・前に一度目指したことがある。川上村から三国峠に上がり、そこから稜線伝いに歩いたのだ。何も下調べもせず「行けるところまで行こう」「この稜線を歩いていけば十文字峠に続いているよ」と話しながら歩いていた。途中の見晴らしの良い尾根でスケッチブックを広げ、おやつを食べながらゆっくり遊んで帰った。あの時たまたまやってきた男女二人連れ。男性は私たちと一緒に休憩すると言い、女性は「あなたも歳をとったわね〜」と笑いながらしばらく先まで往復して来た。彼女の一言が今でも時々私たちの会話に出てくる。まさしく私たちも歳をとったのだ。男性はニコニコしてスケッチブックをのぞき「いい趣味ですねぇ」と呟いていた。素敵な二人連れだった。


photo 狭霧(さぎり)橋
狭霧(さぎり)橋、毛木平が近い

さて話を戻そう。十文字小屋は懐かしさを感じる小さな山小屋だった。ここだけを目指して来たという男性が、嬉しそうに小屋の主と話をしている。私たちもおいしいコーヒーをいただいて一休み。2時半になる頃小屋を後にした。カラマツの紅葉は見事だったが、ここからの下りは長かった。1日の疲れが溜まっていたのだろうが、狭霧橋が見えた時はほっとした。午後4時毛木平に帰着、長い山歩きだった。




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