未明に降った雪が薄いヴェールのように地面を覆っている(30日)。だんだん空が広くなってきたから山の雪も溶け始めたかもしれないね、少し歩いてこようか。窓から外を見ながらの会話。「朝の散歩で歩いた道を行ってみようか」と夫。先日大峰沢沿いを少しだけ歩いたけれど、対岸に渡って登ると小丸山に出るそうだ。そこからは歌ヶ丘歩道が大峰山山頂まで続いている。
私たちは何回か下山で歩いたことがあるが、このコースを登ったことはまだない。青空が広くなるのを待っていて昼近くになってしまったから、途中まで行って引き返してきてもいいねと話しながら家を出た。
大峰沢を上から見下ろすと、一面の藪だったマント植物が白いマントを纏って亡霊のように広がっている。ここは森が死にかかっている。それでも日が当たる地面にはホトケノザやオオイヌノフグリが花開いて春の足音が聞こえてくるようだ。キチョウがいたのは地附山に登る登山道だったけれど、この雪の中で生きていくことができるのだろうか。畑の脇の道を登り、道にかぶさった竹のトンネルを抜けると小丸山。戸隠へ続く車道を横切って歌ヶ丘に登る。
歌ヶ丘の四阿で、「本日の目的地に到着」などと話していたら、男性が一人上から降りてきた。誘われるように「もう少し行ってみようか」と、歩き始める。わずかに登ると物見岩方面への分岐点。物見岩を回って帰るという選択もあるけれど、この道を行けるところまで行ってみようと決めたのは何故だっただろう。久しぶりの眩しいような青空に、気持ちも体も軽くなったのだろうか。
見下ろせば地附山との間に深く切れ込んでいる大峰沢の辺りは真っ白だ。私たちが歩いている登山道は南斜面にあたるせいか思ったより雪が少ない。一回雪に押された落ち葉が厚く重なり合っている。もとはアカマツの豊かな森だったと思われるが、虫害でアカマツの数はめっきり減ってしまった。斜面には害虫を燻蒸除去するために伐採された松が積み上げられ、ビニールに覆われている。
松が減った冬の森は明るい。
雪面に動物の足跡を探すが、思ったほど見つからない。隣の地附山にはノウサギやイノシシの足跡がたくさん見られるのだが・・・。
登るにつれ雪は少し厚くなってきたけれど、日が当たるからだろう、柔らかく溶けている。私たちの前には、一人の登っていく靴跡が続いている。さっき降りてきた人は物見岩から回ってきたのかもしれないね。木々の間に遠くの山並みが見え隠れしているが、山頂の辺りは雲に隠れている。残念ながら北アルプス方面はすっかり雲に覆われている。
先日地附山に登った時(25日)は真っ白な浅間山も、雄大な菅平もよく見えたのだけれど。そんなことを話しながら、ゆっくり高度を上げていく。木の幹には風で貼り付けられた雪がそれぞれユニークな模様を描いている。
見下ろせば地附山との間に深く切れ込んでいる大峰沢の辺りは真っ白だ。
あちこち楽しみながらキョロキョロしている目に、それは飛び込んできた。「あっ、見て」。それは本当に大きいサルノコシカケ、私の顔より大きいよね。「サルノコシカケじゃなくて雪のコシカケになってるね」「ほんとだ」などと、たわいも無いことを話しながらさらに登っていく。隣の峰が近くなってきた。だんだん空が降りてきて、稜線が近いことを感じる。「もう山頂が近いみたいだね」と夫、「あとは、最後の急登だけかもしれないよ」と私。歌ヶ丘からのコースは、山頂直下がちょっと急坂になっている。
それにしても、登山道が全く凍っていないのに驚いた。先日物見岩から登った時はツルツルだったのに。
そんな話をしているうちに最後の急登もあっけなく登り、山頂に到着。さすがに真っ白だった。「今日は小丸山までの散歩のつもりだったのに、登っちゃたね」「小丸山、ずいぶん高くなったね」「こんなに広かったっけ」嬉しくて思わず饒舌になっている。
大峰山の山頂は木が茂っていてあまり見晴らしが良くない。地附山からは大きな飯縄山、黒姫山、妙高山が綺麗に見えるのだけど。
山頂で一息入れて、物見岩に降ることにした。ところが、びっくり。カチカチに凍っているではないか。凍った上に薄く雪が積もっているから道の状態が見えづらい。ツルツル滑ってしまう。初めはオットと叫んでいたが、そのうちスキーでもしているように滑りながらも細かい足運びでどんどん降りていく。
大峰沢の源流地点に降り着いた時には思わず「これまでの最短タイムだ〜」と叫んでしまった。