ちょうど1年前(2020年1月)、中央道を西に走り四国まで車の旅をした。途中、関ヶ原から右に伊吹山、左に鈴鹿山脈を望む。かつての山歩きを思い出しながら、また来ようねと呑気に話していた。新型コロナウィルスが猛威を振るう直前で、その後今に至る不自由を予想もしていなかった。
鈴鹿山脈の一座、藤原岳に登ったのは20年も前のゴールデンウィーク。5月3日に家を出て近くまで走って泊まり、翌日ゆっくり登って帰ろうという計画だった。ゴールデンウィークだからこそできる優雅な旅、けれど、渋滞は覚悟しなければならなかった。
なるべく混雑を避けて行こうと、昼前に神奈川を出発。名神高速道路の岐阜羽島を降りて岐阜のホテルに着いたのは夕方の5時。もっと山の近くに宿が取れるとよかったのだが、当時懇意にしていた車で行きやすいホテルが鈴鹿の近くにはなかった。途中の高速道路沿いにはニセアカシア、フジ、キリそして色様々なツツジが満開で、目を楽しませてもらった。
翌日は7時前にホテルを出発。関ヶ原まで走って一般道に降りた。今でも思い出すのは道沿いの一面の桃色絨毯。どこまでも続く田園にレンゲソウが満開で、ただもう見事という他はない景色だった。
山麓に車を止めて8時には歩き始めていた。登るのは裏登山道とも呼ばれる聖宝寺コース、急なところもあるが、森の中の気持ち良いコースだ(一時道が崩れ、最近まで通行止めになっていたそうだ。2021年現在は再開しているが、雨天時などは注意が必要とのこと)。
1時間も歩くと五合目。沢沿いの道だが、沢には白い大きな岩がたくさん転がっている。藤原岳は石灰岩の山だというから、転がっている石も石灰岩なのだろう。登山道脇には花が多い。一番に咲いた福寿草や節分草はもう実になっているが、イチリンソウ、ニリンソウ、エンゴサク、ヒロハアマナなど、可憐な花々が登山道を彩っている。エンレイソウの花が赤い。ショウジョウバカマもアズマイチゲも満開だが、どの花を見ても姿が小さく思える。地質の違いなのだろうか。私は大喜びで花を見ると写真を撮るのだが、接写ができない小型カメラなので花の写真はなかなかピントが合わないのが悔しい。まして藤原岳の花は小さい、しょっちゅうかがみ込んで頑張ったのに・・・綺麗な写真が少ない。
でも仕方ないか、この目にしっかり見てきたから良いけどね。
ここで見たかったミノコバイモを探しながら急斜面を登っていたが、なかなか見つけられない。前に立ち止まっていた男性が、「ここにミノコバイモが咲いてますよ」と教えてくれた。目立たない色合いの小さな花、でもポツリと一輪だけ掲げている姿は高貴な貴婦人のような印象だ。一度その姿を見ると、あちらにもこちらにも発見できる。
周囲の森には大型の緑の葉がたくさん芽を出している。コバイケイソウか、バイケイソウか、見分けがつかないのだが、下山後に立ち寄った自然科学館(2012年現在地に移転)に紹介があったのか、私のメモにはバイケイソウとある。
小さな花と森の新緑を楽しみながら高度を上げていく。五合目で少し休憩した後、一気に登ると八合目の大貝戸道との分岐に出る。合流した道をもうひと頑張りして避難小屋の藤原山荘に着いたのは10時45分、ここでゆっくりお昼を食べて30分ほど休憩をした。
小屋からは20分ちょっとで山頂に到着、11時40分だった。山頂とはいってもカルスト台地の広がりで、丘のような感じだ。
石灰岩の多い山には白い岩が草地から顔を出しているカレントフェルトという景観が見られる。北の深い森に覆われた山ばかり歩いていた私たちには、そのほのぼのとした姿が心地よい。小人が遊びまわっているのではないかと、つい草の陰を見てしまう。
でも見つかるのは小人ではなく、丸い葉の下にこっそり隠れているカンアオイの花。もちろんそれは嬉しいのだけれど・・・。
山頂には長居せず、小屋に戻った。まだ正午だったので、天狗岩まで足を伸ばしてみよう。カルスト地形の広い大地を歩くのは気持ちが良い散歩だ。
しばらく散策してから下ることにした。今日は高速道路を走って家まで帰り着かなければいけない。ゴールデンウィークの渋滞を侮ってはいけない。
午後1時になる前に降り始めた。帰りは大貝戸コースを下る。樹林が濃くなって、その間をジグザグ一気に降っていく。藤原岳自然科学館に降りたのは午後2時半を少し回っていた。そこで軽食をとり、ゆっくり足を休めて15時40分帰路につく。
渋滞情報を聞きながら、あきらめの境地。浜名湖SAで少しのんびり休む。鰻がのっかったお弁当を食べて元気を出したのは運転手の夫。ソフトクリームをなめてニンマリしたのは私。
恐れていた東名高速の大渋滞で、御殿場から海老名あたりをちんたら走って家に帰り着いたのは日付が変わって午前1時を回っていた。